ちょっと脱線?

『カサブランカ、チヌークの両者戦闘不能! カローナ・ミカツキペアの勝利!』


「ふぅ……」



 静まり返ったコロシアムに、私とミカツキちゃんの勝利を告げるアナウンスと、フィールドに広がった蔦が地面を這う音が木霊する。


 私の腕から、脚から延びていた蔦は私の身体へと戻ってきて、全て一本に纏まったところで分離。元の『ネペンテス・シナプス』に戻ったところで【進化の因子エボリューション・コード──"恋人ザ・ラバーズ"】を解除して一息つく。


 ・恋人ザ・ラバーズ初めて見たけど……なんだこれ

 ・ヤバすぎる

 ・いや、えぇ……

 ・【悲報】カローナ様、レイドモンスターになる

 ・待って、アナザー倒すとこんなアビリティ手に入るの?

 ・アナザーアビリティヤバすぎん?

 ・誰が勝てるんやこんなの……



 【恋人ザ・ラバーズ】が衝撃的すぎて、この場にいる観客も、配信を見てる視聴者も、『目の前で起こったことが信じられない』といったような反応だ。


 まぁそうだよね……人間がモンスターになって、プレイヤー2人をボコボコにしたんだもん。そりゃ引くよね……。



 あっ……エントリーかなり減ってる……。



「お姉さん、何したの……?」



 ステージを出て観客席まで移動してきたところで、ミカツキちゃんにそう声をかけられた。



「あっ、そっか、ミカツキちゃんは気絶スタン状態だったから見てないのよね……。アナザーモンスターのアビリティを使ったのよ。【進化の因子エボリューション・コード】ってやつね」


「【進化の因子エボリューション・コード】……って、もしかして私が持ってる【因子コード】って……」


「そうそう、【因子コード】とアナザー由来のアビリティ……ミカツキちゃんだったら【ザ・ムーン】ね。それ持ってたら、レベルキャップ解放の時にアビリティが変化するのよ」


 ・そうだったんや

 ・そんなペラペラ喋ってて良いんか?

 ・まぁ……なんかカローナ様の周りに人居なくなってるから

 ・ドン引きされて誰も近寄らなくなって草

 ・あれは誰でも怖いだろ……

 ・つーかそれだと、【コード】取るまでレベルキャップ解放しちゃダメなんじゃね?

 ・えっ、あっ……



「さすがにそれはないと思うわよ? 【因子コード】を取得するのにレベルとか関係ないし、レベル100以降でも、アナザーモンスターを倒し次第もう一度【ディアキャロル】に行って活性状態にしてもらえば……」


「よく分からないけど、とにかくレベルキャップを解放したらアビリティが強くなるんだよね?」


「まぁそういうこと……かな?」


「ならレベル上げないと……」


「これは竜騎士様。先程の決闘、お見事でした」


「えっ……?」



 おっと、誰か話しかけてきたぞ……?


 声がした方へ目を向けると、そこにはキチッとしたスーツ……じゃないな、貴族服? を纏った男が立っていた。


 愛想良さそうに笑みを浮かべるその男の頭の上には、プレイヤーネームは無し。つまり、NPCということだ。



「あなたは……?」


「これは失礼。私はユーセスティア男爵家当主、ボゼック・ユーセスティアです。かの有名な竜騎士様の決闘が見られると聞いて、こうして自ら足を運んだのですが……竜騎士様と話すチャンスが得られるとはラッキーでしたね」


「男爵さん!? えっ、それって偉いんじゃ……」


「ははは、私は気にしませんよ。あの恐るべき堕龍おろちを打倒した竜騎士様なのですから、どの貴族もあなたを一目置いていますよ」


「あはは、それはありがとうございます」



 今の私、そんな風になってるのか……。【テルクエノエ】に行く前の酒場でも船乗りに絡まれたけど、貴族達にも話は回ってるのね。


 で、そんな貴族様が私に何の用だろう?



「今回私がこうして参じたのは、竜騎士様に提案があってのことなのです」


「提案?」


「えぇ……竜騎士様、ぜひ我がユーセスティア家の専属騎士となりませんか?」



 ……なるほど、そういうことか。

 堕龍おろち戦で有名になった私が決闘をやるということで、実力の程がどれ程のものか品定めをしていたのだろう。


 それがお眼鏡にかなって、こうして打診してきたわけだ。



 あぁぁぁ、すっごく気になるぅ……。

 ゲーマーとしては、そんな特殊なクエストに繋がりそうな提案、めっちゃくちゃありがたいところなんだけど……


 私、すでに《妖精女王の専属秘書》なんだよね……。それを捨てて別のところに乗り換えるのはさすがに……。



「どうでしょう、竜騎士様。領地軍の指揮官の席も、必要な物資も全て用意しましょう。悪い話ではないと思いますよ」


「でも───」


「これはこれはユーセスティア男爵、来ていらっしゃったのですね」


「お前は……!」



 ふと、私の背後に現れた人物。

 高い身長としなやかな筋肉、灰黒色の体毛のイケメンケモ騎士……これは……!



「ライカンさん?」


「《女王の剣》!? なぜここにっ……」


「申し訳ありませんが、ユーセスティア男爵。彼女は我が主・・・の懐刀です。この意味が分かりますね?」


「一騎士が、貴族家当主に対して無礼な───」


「私は王家が誇る近衛兵団長です。くらいは貴方と同じですよ、男爵」


「くっ……女王が相手では分が悪いか……仕方がない。ここは一度退散するとしましょう……竜騎士様、またどこかで」



 そう言い残したユーセスティア男爵は、踵を返してその場を後にする。


 ライカンさんの登場で、私をヘッドハンティングするのは難しいと判断したのだろう。『またどこかで』というのは、どういう意味だろうか……。



「ありがとうライカンさん!」



 貴族相手の立ち回りを知らない私に替わって対処してくれたライカンさんへとお礼を言うも……ライカンさんはさっきの男爵の後ろ姿を睨むように見つめていた。



「……ライカンさん?」


「いえ……少し気になることがありまして。彼はおそらく、最初から貴女を狙っていました。気を付けてくださいね」


「気を付けるって言ったって、どうすればいいのか分からないけど……」


「ラ・ティターニア様を裏切るようなことがなければ良いです」


「オッケー、じゃあその辺り気を付けるわね」


「ところでカローナ様、この後少しよろしいですか?」


「ん? どうして?」


「先程のユーセスティア男爵の件で、ラ・ティターニア様のお耳に入れておくべきことが……ぜひ貴女にも同席していただきたい」



 あっ、これなんか別のクエストのフラグ立ったか? 私が特別何か言う前にライカンさんが入ったから、まずいこと言ったなんてことないと思うけど……。


 まぁ、ライカンさんは信頼できる相手だし、新しいクエストのフラグを逃すわけには行かないよね!



「ってわけで、一旦ティターニアちゃんのところに行こうと思うけど、それでもいいですか?」


 ・まぁカローナ様がいいならいいんじゃない?

 ・決闘3戦しかやってない!

 ・確かにもっとカローナ様の無双見たかったかも

 ・でもこのフラグを逃す手はなくね?

 ・まぁカローナ様の配信だし、我々はそれに従うまで

 ・ミカツキちゃんはどうするん?



「あっ、そっか……ライカンさん! ミカツキちゃんはどうすればいい?」


「弓術師の彼女ですね……よろしいですよ、ぜひ一緒に来てください。『神装武器ミソロジーウェポン──ルーナ・クレシエンテ』、ラ・ティターニア様も興味を持たれていました」


「えっ、私も……?」


 ・おっ?

 ・もしかしてミカツキちゃんも専属騎士デビュー?

 ・のじゃロリ女王を守るメスガキ弓師って、なんか可愛いな……



 真面目なライカンさんに真顔でそう言われるとちょっと怖いけど……ま、とりあえず話を聞いてみましょうか。


 皆さん、内容が脱線しちゃってごめんね!


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