何かと雑用を押し付けられるセレスさん

 というわけで、私達はコロシアムの中にあるVIP席へとやってきた。ここなら周囲の人に話を聞かれることもなく、見晴らしもいいので試合も良く見える。


 ここを警備する厳つい見た目のNPCも、ティターニアちゃんの鶴の一声には逆らえず。即座にVIP席へと案内され、今に至るというわけだ。



 ここに呼ばれたのは、私とミカツキちゃん、そしてティターニアちゃんとライカンさんとお非~リアさんだ。



「ラ・ティターニア様、カローナ様を連れてまいりました」


「ご苦労じゃった、ライカンよ。カローナよ、まずは勝利をたたえておこうかの」


「ありがとう、ティターニアちゃん」


を付けろとあれほど……いや、もう諦めたのじゃ」


 ・辟易するティターニアちゃん可愛い

 ・ついに諦めたww

 ・カローナ様が勝ったか……



「しかし、最後のあれはなんじゃ? さすがに私も、お主が人間をやめるとは思わなかったのじゃ」


「あれは……まぁファンタジア計画の成果というか、適応人類プレイヤーの真の力と言うか……。とりあえず、まだ人類やらせてもらってます」


 ・人間やってるは草

 ・人間は蔦を伸ばしたりしないんよ

 ・悲報 カローナ様、ついにティターニアちゃんにも引かれる

 ・でも確かにあれは怖いよなぁ



「それでライカンさん、私達をここに連れてきたのは?」


「そうですね、その話をしましょうか」


「少しお待ちを……カローナ様、今配信中ですよね?」


「えぇ、配信してるけど……」


「一度、マイクを切れますか? 不特定多数にそのまま公開するのは少し憚られます」


「確かに……ちょっと待ってね」



 お非~リアさんの言葉を受け、私はライカンさんを制止しカメラを手に取ってレンズを覗き込む。


 ……これすると、毎回コメントが活気づくんだよなぁ……。


 じゃなくて、



「皆さんごめんなさい。雰囲気的にちょっと重要そうな話っぽいので、一旦マイクオフにしますね? カメラはそのままなので様子は見れますが、無音になりますのでごめんなさい」


 ・オッケー

 ・まぁ、新しいクエストが発生しそうならそれが普通だよな

 ・プライマル公開してるんだから今更では

 ・あれは全くの予想外だし、防げるなら防ぐだろ

 ・カースト上位のクラスメイトを、教室の隅っこから眺めてる気分……

 ・↑お前……元気出せよ



 何かと盛り上がってるコメントを見ながら、マイクをオフにする。ここからは無言の映像が続くわけで……申し訳ないから大げさにリアクションしよ。



「お待たせ、お非~リアさん」


「いえ、ご協力ありがとうございます」


「では私から一つ……」



 準備ができたところで、ライカンさんが一つ、咳払いをする。その場の全員の視線がライカンさんに集まると、ライカンさんはゆっくりと話し始めた。



「先ほど話していた男爵が身に着けていた装飾品……私の見間違いでなければ、『堕龍おろちの龍王鱗』やジャガーノート・Ωなど、普通では流通しない素材が使われていたかと思われます」


「ふむ? それは確かに引っ掛かるのう」


「ジャガーノートって、ユニークモンスターだったっけ。それは確かに珍しいけど……」



 果たして、そこまで気にすることなのだろうか。

 ユニークモンスターの素材だったら、私も『恋人ザ・ラバーズ』を倒したし、ミカツキちゃんも『ザ・ムーン』を倒しているだろう。



「カローナ様が先ほどの決闘で使用していた鎧に使われている『オリハルダイン・オラトリア』というモンスターの素材も、現在貴女しか持っていない素材です。ただそれは、討伐者の特権であって……」


「つまりライカン殿は、その男爵とやらに堕龍おろちやジャガーノートを倒せるほどの力はないと言いたいのですね」


「はい。辛辣ですが、その通りです」


堕龍おろちとの戦いでは、各地の領主には私自ら街の防衛を命じたのじゃ。直接堕龍おろちと戦った者は、ほとんどいないはずじゃ」


「あー……つまり、プレイヤーじゃなくてNPC・・・がそれらを持っていること自体がおかしいってことね」



 考えてみれば、確かにそうか。

 プレイヤーが堕龍おろちやジャガーノートを倒したとして、その素材を自分で使わずに他人に流すなんてことはしないだろう。


 お金が欲しかった?

 それならまぁ、理解できないわけでもない。

 私だったら絶対売らないけどね。

 オリハルダインの素材3体分、全部独り占めしちゃったもんね。



「なら、その男爵さんが誰かから買い取ったってこと?」


「そうも考えられるが……需要と供給、そしてユーセスティア男爵の領の状態が釣り合っとらん」


「はい。しばらく前より続く不作で現在、ユーセスティア男爵領の経営は降下気味なのです。有力貴族が自身を飾るために珍しいものを集めるのはよくあることですが、今の男爵領において、それをやる意味は……」


「と言うより、ダメじゃろ。貴族ならば、民の生活を守らねばならん」


「えぇ、ラ・ティターニア様のおっしゃる通りです。そして、堕龍おろちの鱗やジャガーノートの素材が、市場ではどれほどの価値になるか……」


「ジャガーノート・Ωの素材が市場に出回ったのは今までにたった一回のみ。その時の価格は……ぼったくりにもほどがありましたね」


「そうじゃろう、お非~リアよ。であれば、考えられることは……」


「何か表にできない取引があった……ってことかしら」


「うむ、察しが良いな」



 確かに、その可能性はあるわね。

 あーあ、男爵さん、油断したわね。

 いや、一目で看破したライカンさんを褒めるべきかな?



「まぁ、今のところ推測であって、確かな証拠はないのじゃがな。裏を取らねばならぬのう……」


「あー、しまった。私もティターニアちゃんと繋がってるのはバレちゃったか……バレてなければ潜入とかもできたんだけど……」


「それも仕方あるまい。慎重に事を運ばねばな」


「次のダンスパーティでは、男爵も参加予定でしたよね?」



 ライカンさんの指摘に、全員の視線が彼に集まる。



「うむ。じゃが難しいじゃろうな……カローナの顔は知られておるのでな」


「となると……事情を知る、怪しまれないような人かぁ……」


「……えっ?」



 自然と、この場の全員の視線が今度はミカツキちゃんに集中していたようで、彼女は小さく肩を震わせた。



「いや、ミカツキちゃんも顔バレしてるからダメか……」


「ちょっと、じゃあなんでこっち見たの今」


「ミカツキちゃんならって……いや、待って」



 変装・・をして情報を聞き出すって考えると、めっちゃ適任の人がいない?


 ティターニアちゃんからの信用があって、一人孤立しても大丈夫なぐらい強くて、変装された本人から見ても見分けがつかないほど完璧に変身できるアビリティ、【隠者ザ・ハーミット】が使える魔術師が。



「よし、セレスさんにお願いしよう!」

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