覚醒せよ 深奥に刻まれし、進化の鎖
まえがき
ミカツキちゃん、ごめんね……
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「ミカツキちゃん大丈夫!?」
地面に突き刺さったアンフィスバエナを抜き、ミカツキちゃんとチヌークさんの間に入るように後退する。
さすがにチヌークさんも、私と直接戦闘はしたくないのだろう。構えていたツヴァイハンダーの切っ先を下げ、バックステップで後退した。
「あんまり大丈夫じゃないかも」
「マジ? あー、一発受けてたもんね……HPは?」
「半分ぐらい。もう一発受けたらヤバイかも……」
「うーん……オッケー、サポートするわ」
ミカツキちゃんが先にダメージ受けちゃったのは、前衛職としては痛手だったわね。さすがにダメージを受けるミカツキちゃんの姿は見てられない。
息を限界まで吐き出し、ゆっくりと胸いっぱいに吸い込む。スゥッと視界がクリアになり、集中力が増すのが分かる。
私のいつものルーティーンだ。
「一人で俺らを止めるのはキツいんじゃない? あんまり脚を止めて戦うタイプじゃないでしょ」
「ううん、そのための『ゴールデンアヴィス』シリーズだしね」
他の装備と違って重い『ゴールデンアヴィス』シリーズは、動き回るよりもその場で暴れる方が得意だ。
ミカツキちゃんを守る守護騎士の気分が味わえるわね。
「それならそれでいいけど……カローナさん、容赦なく
カサブランカさんがそう言うと、種も仕掛けもない彼の手に、突然ナイフが現れる。
なんだろう。
マジシャンみたい。
っと、集中しないと……どう見てもあのナイフ、紫色で毒がありそうなのよね。
さすがに受けるわけにはいかない……
「わねっ!」
「ぅおっ!」
一気に間合いを詰めて私が振り下ろしたアンフィスバエナを、カサブランカさんが避けてナイフを振るう。
その腕へ───
「【
アンフィスバエナを蹴りあげ、衝撃波で一気に斬り上げる!
【
「あっぶなっ!?」
「ほっ……!」
「今度はこっちか!?」
地面に突き刺さったアンフィスバエナを、横へと蹴り放つ。
鋭い刺突となったその一撃は、今まさに動き出そうとしていたチヌークさんのツヴァイハンダーに当たり、彼の体勢を大きく崩した。
「視野広すぎんだろ!」
「目で見てるだけじゃないからね!」
「けどそれはデカい隙だぜ?」
横方向へと突きを繰り出したことで、アンフィスバエナは地面をストッパーにできない状態だ。
アンフィスバエナを引き戻すには、相当な力が要る。それをカサブランカさんの追撃に間に合わせるには───
「ふっ……!」
「読めてんだよ!」
「そうでしょうねっ!」
チヌークさんを突いた方と反対側の刃を押し出すように弾き、前方へと半回転。
けど残念。
それもカサブランカさんには読まれていたようで、身体を沈めてその下を潜ったカサブランカさんのナイフが、ギラリと光る。
この距離でナイフのリーチなら———
「【ウェポン・リロード】」
「ふぉっ……!?」
———カサブランカさんのナイフが突然レイピアになったところで、私は緊急回避を余儀なくされた。
けど、入れ替えて現れる武器がどれもこれも『エクゼキューター』で使える
アバター作成の時に目に留まったけどスルーした『曲芸師』が、アイテムとの組み合わせでこれほど厄介な強さになるとは……
「けど、これは避けられるかしら?」
「っ!?」
【
突き出したレイピアが空振りして、前のめりに身体を投げ出した状態だ。避けられるわけが———
パァンッ!!
乾いた
音の発生源は、カサブランカさんの右手から。
レイピアを【ウェポン・リロード】して握った小銃が白煙を上げており、撃ち抜かれたミカツキちゃんがゆっくりと崩れ落ちるのが分かった。
はっ!?
ちょっと待て、なんであなたが銃なんて……!?
考えるよりも早く、私の身体は動く。
明らかに連射可能なその凶弾からミカツキちゃんを守るべく、ミカツキちゃんとカサブランカさんの間へと身体を捻じ込む。
「そう来てくれると思ったよ。【ウェポン・リロード】」
「あっ———」
覚悟していた衝撃は来ず、代わりに彼の手に握られたのは、小さなスタンガンのような武器だった。この人、最初から私を狙って———
雷のような衝撃音と共に、私の身体が稲光に包まれる。ダメージはあんまりないようだけど、『ダウン』の状態異常に陥った私はその場に倒れることになった。
「彼女を囮に使ったのは申し訳ないけど、ここまでしないとまともに攻撃当たらないからさ」
「悪く思わないでくれよ」
「っ……」
・ひぇっ
・マジで?
・カローナ様が負ける……?
・ここまで完璧に攻め切るとか、カサブランカってえぐい強い?
・曲芸師ってこんなに強いの!?
・つーか銃あんの!?
チヌークさんがツヴァイハンダーを構え、近づいてくるのが分かる。『ダウン』の時間は長いわけではないけど、かといって今すぐ解けるわけでもない。そして、火力が高いツヴァイハンダーの一撃を受けたら、私のHPは……
これは、終わったか。
覚悟を決めた私に、チヌークさんがツヴァイハンダーを振り下ろし———
「くぅっ……!」
「えっ……?」
私の
それはつまり———
「ミカツキちゃん!?」
チヌークさんの前に立ちはだかったミカツキちゃんが、私の代わりにチヌークさんの攻撃を受ける光景が、目の前に広がっていた。
♢♢♢♢
チヌークさんのツヴァイハンダーによる攻撃は、私でも耐えられるものではない。そんな攻撃を、レベルが低いミカツキちゃんが受けたら……。
「ミカツキちゃん!」
『ダウン』が解けた私は、即座にミカツキちゃんを抱きとめてその場を離脱する。カサブランカさんとチヌークさんも予想外だったのか、追ってこないのが助かった。
けどっ!
「お、お姉さんは大丈夫……だよね……」
「なんで身代わりなんて……!」
「別に……私が一人で残るより、お姉さんが一人で残った方が勝てる可能性があると思って……。それに、『ルーナ・クレシエンテ』には『食い縛り』があるんだから……」
「だからと言ってこんなこと……!」
こうして私とミカツキちゃんがまだ話せているのは、ミカツキちゃんが『食い縛り』によってHP1で耐えているからだ。しかしそれは、ほぼ確実にミカツキちゃんの戦闘不能を示しているわけで……
「……今トドメさしちゃう?」
「ばっかお前、感動的な場面でそれやったらブーイングの嵐だぞ」
「だよなぁ……」
……カサブランカさんとチヌークさんの会話はいったん無視だ。
「戦い方を教えてもらうつもりだったけど、お姉さんとペア組んでたら勝ちたくなっちゃって……」
「そんなの次の決闘ででも……」
「だから少しでも、勝てる方法に賭ける……そういうタッグバトルでもいいでしょ?」
———アビリティ【魂のバトン】———
自身のHPを0にする代わりに、対象のステータスに自身のステータス値をプラスするほか、一時的に同じアビリティも使えるようにするバフアビリティである。
ミカツキちゃんの身体から溢れたエフェクトが私の身体を包み込み、私のステータスが大幅に上昇する。代わりにミカツキちゃんは——
眠ったように瞑目し、そのまま起きることはなかった。
「ミカツキ、ちゃっ……ぅわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「……いや、決闘終わればまた起きるから」
「カサブランカさん、空気読んで?」
せっかく感動的なシーンにしてたのに!
しかしまぁ、ミカツキちゃんがこんな行動に出るなんて……意地でも応えないと、決闘が終わった後にめっちゃくちゃに煽られるに決まってる。
でも、ミカツキちゃんの覚悟は伝わった。
これはもう、
「それでも2対1だ。これでも俺はカローナさんと互角のつもりだからな、何とかできるのか?」
「……ヘイト値が100%になった」
「へっ?」
「ペアを組んでる状態
「……まだ隠し玉があるのかよ……」
「そして、覚悟した方がいいわよ? 今からあなた達の相手は、
装備を『
そしてインベントリから取り出すのは、ヘルメスさんが『バイオファンタジア計画』の技術を駆使して作り上げた
情報アドバンテージがなんぼのもんじゃい!
ミカツキちゃんがあそこまで言うのだ、私の全力を以て
「見せてあげるわ、これが
【
『因子とファンタジアが混ざり、覚醒する!』
『バイオファンタジア計画が進行———』
『プレイヤー名: カローナ の種族が一時的に
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