初めてのPvP 3戦目(ミカツキ視点)

「ミカツキちゃん!」


「とりあえず自分で何とかしてみるから!」



 モップを糸で絡めとられたお姉さんがこっちを心配してくるけど、私はそう返す。いきなりお姉さんが捕まるなんて、相手は相当な実力なはずだ。


 私を庇いながらだと、さすがのお姉さんもキツいだろう。

 だから私は私で、自分で何とかしたい。


 セオリーとしては……とにかく近づけないこと!



「えいっ!」



 インベントリから取り出した重装弓の杭を地面に突き刺し、弓を引いて相手に向ける。私の相手はチヌークさん、正統派な騎士の鎧に身を包んでいて『ツヴァイハンダー』なんていう珍しい武器を持っている。


 でも、重装弓だったら関係ない!



「【シルバー・ミストラル】!」


「ぅおっ!」



 【シルバー・ミストラル】は、弓術系の範囲攻撃アビリティ。小回りが利かない重装弓だけど、威力と攻撃範囲の広さはすごいからね!


 身体全体を使って放った私の【シルバー・ミストラル】は、まさに面攻撃。銀色の壁のようになって迫る【シルバー・ミストラル】を避けることができず、チヌークさんの脚が止まる。


 けど、その防御を貫くことができなかった様子。

 その隙さえあれば……!



「”天の鍵よ、我が意に応え道標を示せ”———神装武器ミソロジー・ウェポン『ルーナ・クレシエンテ』!」



 後退しながらインベントリから取り出した一張りの弓が、月明かりのような光を纏う。



「あれが噂の神装武器ミソロジー・ウェポンか……珍しいもん持ってるね?」


「あげないからねっ!」


「奪おうとか思ってねぇよ!」



 神装武器ミソロジー・ウェポン『ルーナ・クレシエンテ』、その能力は、アビリティを射出する能力!



「【ピアース・レイド】!」


「舐めてもらっちゃ困るぜ!」



 弓で発動した槍術系・・・アビリティに驚きつつも、チヌークさんの対応は見事だった。


 重くて小回りが利かないツヴァイハンダーの切っ先が【ピアース・レイド】の側面を捉えると、その膂力だけでパリィしてしまったのだ。


 撃つタイミングが読まれていたとはいえ、すごい技術だ。



「【アクセルダイブ】!」


「あっ……!」



 【ピアース・レイド】を放った硬直の隙に、移動と攻撃を兼ね備えた【アクセルダイブ】で飛び込んできたチヌークさんが目の前に迫る。



「っ……【神斬舞かみきりまい】!」


「おっ……!?」



 間に合わないと判断した私は、地面に向けて・・・・・・神斬舞かみきりまい】を放つ。


 足元に放たれたそのアビリティは強力なノックバックを齎すもので、今回弾き飛ばすのは私自身の身体だ。



「まさか自傷エスケープとはね」


「【エア・ウォーク】!」



 自身へのノックバックでチヌークさんの振り下ろしを避けた後、空中ジャンプで体制を整えて、頭上からチヌークさんへと矢を向ける。


 ギリギリと弦を引き絞るほどにエフェクトが強まるのは、チャージすればするほど強力になる【クリムゾン・ギブリ】だ。


 とはいえ、チャージに時間をかけても避けられるだけ。

 ある程度チャージしたところで【クリムゾン・ギブリ】を放つ———その直前。



「ぅあっ……!」



 突如として発生した白い煙が、周囲をあっという間に覆って視界が遮られる。チヌークさんが何かをした様子はない。ということは、カサブランカさんの何かのアビリティかもしれない。


 闇雲に【クリムゾン・ギブリ】を放つも、手ごたえはなし。

 煙に紛れて避けられたようだ。



「う~~、どうしよう……」



 思わず、そんな言葉が口から漏れる。

 視界が遮られた状態での戦闘なんて、想定していない。

 予想外の出来事と、それに対する不安が、思わず漏れてしまったのだ。



「喋ると居場所がバレるぜ?」


「あっ……ぅぐっ!」



 突如として横から受けた衝撃に、私の身体は弾き飛ばされる。

 たまたまルーナ・クレシエンテが間に挟まったから致命傷にはならなかったけど、そもそもレベルが低い私にはかなりの大ダメージだ。


 踏ん張れずに身体が浮いた私は、ダメージエフェクトを弾けさせながら地面を転がった。



「小さい女の子と戦うのは気が引けるけどよ、『決闘』だから許してくれよ?」


「っ……いったぁ……」


「待って、そんな声出されると罪悪感が……おっとぉ?」



 白い煙の中でも分かるほどの、オレンジ色の輝きが放たれる。

 その一瞬後、凄まじい衝撃波が放たれ、煙が全て吹き飛ばされた。


 相当な威力があったのだろう。

 10m以上も離れたコロシアムの壁も振動し、パラパラと石の欠片が落ちる。


 それを成したであろうお姉さんは、右腕を振り切った体勢をゆっくりと解いた。



「えぇ……」


「自分の味方にドン引きしてる絵面、ちょっと面白いな?」


「いやだって……そんな力技で解決ってあり……?」


「まぁそれは分かるけど……今の威力、直撃したら鎧ごと粉々になるんじゃねぇかなぁ。頼むぜカサブランカさんよぉ」


「あんたは余裕だね?」



 チヌークさんが呆れた様子でお姉さんを見ている隙に、私は起き上がって距離を取る。受けたダメージは小さくない。少しでも体勢を整えないと……!



「止めないんだ?」


「……悪いけど、俺は君には負けないよ。レベルも低そうだし、慣れてもないだろ? 申し訳ないけど、実力が違いすぎる」


「……」


「これだとやってても楽しくないんじゃない?」



 チヌークさんの言うことは正論だった。

 そもそも戦闘に慣れるためのPvPだし、相手は逆にかなり慣れている様子。


 お姉さんと互角の戦いを繰り広げているカサブランカさんを見れば、かなりの実力があるのは一目瞭然だ。


 ここで負けたらお姉さんは……笑って励ましてくれそうだけど、やっぱり悔しいのかな。私も、悔しいって思えるかな。


 全力でやってもダメだったら、きっとそう思うかもしれない。



「楽しいかどうかはまだ分からないけど、途中で投げ出すなんて、もうしたくないから……私は頑張るよ……!」


「ははは……あぁ、君は立派なアネファンプレイヤーだよ。最後まで楽しいバトルにしよう!」

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