初めてのPvP配信! 2戦目

 私とミカツキちゃんは、再び闘技場の中央に集まる。

 今回の相手も男性プレイヤーの二人組——



「「あっ」」


「えっ?」



 対戦相手のプレイヤー……『プテラの丼』と『模熱モヒート』は、私の姿を見るなり重厚そうな鎧に換装した。



「もしかして、お二人とも私の話聞いてた……?」


「いやっ、まぁ、カローナさんが喋ってるのが聞こえて……」


「タンクが苦手って言うから、有利に進めるために、ほら」


「あれぇ? お姉さん、自分で弱点晒して対策されて悔しいねぇ?」


「待って、なんで後ろから追撃したのミカツキちゃん」


 ・そりゃまぁあんな場所で堂々と喋ってたらみんな聞くわ

 ・相手もしっかり勝ちに来てて草

 ・ミカツキちゃんやめたげて!

 ・カローナ様のことを尊敬してるように見えて隙あらば煽るミカツキちゃん

 ・3対1かな?

 ・それでも勝てそうだな、カローナ様……


 ……まぁ、こういうのも覚悟のうえで配信してるから別にいいんだけどね。ただ、今回はフラグ回収が早すぎただけで……。



「うーん、とりあえずこれにしようかな」



 というわけで、私は装備を『ブリリアンドール』シリーズに変更。

 チームメンバーが多いほどバフの効果量を上昇するこの装備は、ミカツキちゃんとペアを組んでる今なら、最大効果とはいかないけどそれなりに効果的。


 相手の力量を図るのにはちょうどいい。


 なぜか、ちょっとだけ残念そうにしているミカツキちゃんをさておき、モップを握って二人と対峙する。



「『冥蟲皇姫インゼクトレーヌ』じゃないんすね?」


「この装備で歯が立たなかったら替えるから安心してね? って、よく私の装備の名前まで覚えてたわね」


「いや、配信とか見ないですけど、カローナさんは有名なんで」


「そう?」


「はい……オリハルダイン・オラトリア戦でも酷使してたっすよね?」


「あんた絶対私の配信見てるでしょ!」


 ・なんだ、ただのファンか

 ・見てないとか言いながらしっかりチェックしてて草

 ・そうだよな、エントリーしてんだからファンだよな



 配信見てないとか言いながら、装備の名前まで覚えてるとかツンデレか?

 わざわざ私の前まで来てツンデレ発揮とか可愛いかよ。


 よし、お礼に本気でぶち込んでやる。



『カローナ・ミカツキペアvsプテラの丼・模熱モヒート……決闘開始!』


「———おっ」


「あっ……!」



 開始のアナウンスが流れた直後、ミカツキちゃんから動揺の声が漏れ、私は加速しかけていた脚を止めてモップを構える。


 私が足を止めた理由は一つ。

 向こうの2人が同時に突っ込んできたからだ。


 ご丁寧に頑丈そうなバックラーをこちらに向け、アビリティエフェクトを纏いながら突っ込んでくる。おそらく、移動と打撃を合わせた盾術系アビリティだろうか。



 私は避けるのは余裕だけど、私が一人で離脱するとミカツキちゃんが二人に囲まれてしまう。だから私は最低でも片方は止めて、1対1の状況を作らないといけないのだ。


 なるほど、相当『決闘』に慣れてるな?



 【セカンドギア】、【アンシェヌマン・カトリエール】、【スリップストリーム】、【メタバース・ビジョン】起動!



「ミカツキちゃんは重装弓の用意!」


「でもそんな時間は———」


「お姉さんに任せなさい!」



 ———刹那の踏み込み。

 【閃穿蜂壊せんせんほうかい】の黒紫色のエフェクトを纏うモップを握る私が目の前に現れたことで、プテラの丼さんは緊急停止を余儀なくされる。


 貫通攻撃でもある【閃穿蜂壊せんせんほうかい】は、構えたバックラーも貫いて致命傷を与えるのに十分な威力があるからだ。


 これを受けるには、脚を止めてのパリィしかない———



 という、フェイント・・・・・だ。



「ほっ」


「はぁっ!?」



 プテラの丼さんが足を止めた瞬間に、【閃穿蜂壊せんせんほうかい】を即キャンセル。彼のバックラーを蹴って向きを変え、未だミカツキちゃんに向けて突進する模熱モヒートさんへ———



「【極量閃舞ごくりょうせんぶ】!」


「ぐはぁっ!?」



 一瞬で追いついた私のモップが、無数に分身して模熱モヒートさんに叩き込まれる。鎧に阻まれてダメージは少ないけど、ノックバックで突進を止めるのには十分だ。


 いいや、このまま行っちゃおう!

 『禍ツ風纏まがつかぜまとい』起動!


 首に下げた翡翠のペンダントを指で弾く。

 瞬間、私の身体を翡翠の風が包み込み、HPと引き換えにステータスを上昇していく!



「おまっ、カローナさんを引き付けとけって!」


「向こうが速すぎるんだって!」


「喋ってられるなんて余裕ね?」


「今度はこっちかよ!」



 模熱モヒートさんを弾き飛ばした後、虚空を蹴って向きを変えた私は、再びプテラの丼さんのところへ。バフを盛った私の速度だ、目の前にいきなり現れたようにも見えただろう。


 フ———ゥッ!

 なんかノッてきた!



「【ヴァリアント───」


「【蜃気楼】」



 プテラの丼さんのアビリティに対して、食い気味にこちらもアビリティを使用する。


 【木ノ葉舞】から進化したこのアビリティは、その名の通り、私の身体をまるで蜃気楼のように消し、攻撃を避けるアビリティである。


 プテラの丼さんの盾術系攻撃・・アビリティ、【ヴァリアント・グレイブ】が捉えたのは、私の幻。



 本物は───



「こっちよ!」



 プテラの丼さんの目の前から真横へ、そして背後へ、空中ジャンプや直線移動といった【アンシェヌマン・カトリエール】の効果をこれでもかと活用して背後を取った私は、今度こそ【閃穿蜂壊せんせんほうかい】を発動する。


 さて、そんな重装備では振り返るのも間に合わない。

 避けようとしても私の方が速い。


 さあ、どうする———



「【トゥール・アン・レール】!」


「はっ———!?」



 驚愕の声は、私の口から。

 だってそのアビリティ、私と同じ・・・・———



「【タクティカル・パリィ】!」



 ギィンッ!


 黒紫色のエフェクトを纏う私のモップと、その場で独楽こまのように回転したプテラの丼さんのバックラーがぶつかり合い、激しい音を立てる。


 そして、パリィされた・・・・・・閃穿蜂壊せんせんほうかい】はその効果を発揮することなくプテラの丼さんの横を通り過ぎ、不発に終わってしまったのだった。





 ……うそん。

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