受けた分は当然十倍返しよ!

 【閃穿蜂壊せんせんほうかい】がプテラの丼さんの背中に突き刺さる直前、【トゥール・アン・レールよく知るアビリティ】によってその場で回転したプテラの丼さんのバックラーが私のモップを叩いて逸らす。


 いや、まさか相手がダンサーのアビリティを持っているとは……。


 アビリティを空振りした私は、数瞬の硬直に襲われる。対するプテラの丼さんは、パリィの成功によって連続行動が可能。



 ……避けられないわね、これは。

 ならせめて———



「きゃっ!」



 ———女の子っぽい可愛い声を出す!


 ・っ!?

 ・カローナ様にクリーンヒットした!?

 ・マジかよ……

 ・カローナ様がまともにヒットもらうのって初めてじゃね?

 ・急に女の子でドキッとする

 ・【朗報】カローナ様、ついに可愛い声が出る

 ・あっ……(新たな扉を開く音)

 ・ダメージを受ける女の子の悲鳴、かなりクる……

 ・化け物現れて笑えない

 ・カローナ様がまともに一撃受けたことも笑えない



 私の僅かな硬直の間に、プテラの丼さんが踏み込んできてバックラーによる殴打が私を直撃する。アビリティによる一撃じゃなかったとはいえ、VITが低い私にはなかなかのダメージだ。



「急に可愛い声出されるとやりにくいんでやめてください!」


「こういう時、いつも可愛い悲鳴出せないから狙ったのよ!」


 ・それは草

 ・いっつも『ぅおっ』とか言ってるからなぁ

 ・カローナ様もちゃんと女の子なんやなって



 ダメージを受けたことで硬直が解けた私は、地面を転がりながら体勢を整え、そのまま退避。ミカツキちゃんを狙う模熱モヒートさんの前に割って入り、一旦ミカツキちゃんを守ることにする。



「お姉さん、大丈夫?」


「一応……まさか相手さんもダンサーだとは思わなかったけど」


「ネタばれしちゃうと、メインが『スパルタン』、サブが『ダンサー』なんだよね」


「ちょっと待って、スパルタンとダンサーって組み合わせシュールで面白くない?」



 私の頭の中に、ゴリマッチョが優雅に舞うイメージが……。


 『スパルタン』は確か、盾と片手剣の両方を装備することができ、それらを駆使して的確にアドバンテージを取りながら戦う職業ジョブだ。


 それを『ダンサー』と組み合わせることで……なるほど、ある一定範囲内限定でなら私の機動力にも追いつけるし、【閃穿蜂壊せんせんほうかい】を弾けるほどの超防御を発揮するんだ。



 なかなかに厄介ね、これ。



「さぁて、【閃穿蜂壊せんせんほうかい】が不発だったから……」


「あの防御を突破するのは大変だね……」


「重装備にするだけで、あのカローナさんがこれだけ攻めあぐねるなんてね」


「いや、【トゥール・アン・レール】の回転に合わせてパリィを成功させるなんて、並大抵のPSプレイヤースキルじゃないわよ。私でもめったに狙わないわ」


「できないとは言わないんですね」


「頑張ればできるかなって……」


「相変わらず自信満々なことで」


「さぁて……まぁ、ここらがタイミング的にいいかしら」


「……? タイミング?」


「えぇ、新しい装備の・・・・・・



 モップをインベントリに放り込み、私は別の武器を呼び出す。

エフェクトの光が形となり、私の手元に現れたその武器は———


 ズンッ———と音を立て、自重のみ・・・・で地面へと深く突き刺さる。


 現れたのは、私の背を優に超える、黒と銀、そして半透明の結晶でできた双頭の剣———つまり、柄を挟んで両側に刃が突き出ている珍しい形状の武器だ。



 銘を、『剛性特化5段階強化・双頭剣アンフィスバエナ』。


 大量の金剛蟹の素材と各種金属を使用し、鍛え上げた一振りだ。特別な能力がない代わりに、ひたすらに硬く、重く……普通の攻撃では壊れるどころか、耐久値の減少すらないほど強靭。


 片方の刃で120cm……両刃と柄を合わせて300cmを優に超える巨大武器だ。


 美少女と巨大武器の組み合わせって……いいよね。



「また取り回しが難しそうな武器を……」


「めちゃくちゃ重そうだけど、それ振れるんですか?」


「メイド服じゃ無理かな……だから、もちろん装備も替えるわよ」



 そう、アンフィスバエナは重すぎてまともに振れない。だからこそ、この装備・・・・と併用する必要があるのだ。



「ってわけで、新作装備二つ目……その名も、『ゴールデンアヴィス』シリーズ!」



 私の身体がエフェクトに包まれ、その下から現れたのは、赤と金のフルプレート。私の装備としては珍しく、『重騎士パラディン』並みのゴツいシルエットの鎧だ。



 『ゴールデンアヴィス』シリーズを構成する装備は3種類。


 胴・腕・腰の3部位に渡る、『ゴールデンアヴィス・トラウィスカル』。ゴツい作りで全身を包んでいると思いきや、胸部の下の部分が開いており、その……見える。


 頭装備の『ゴールデンアヴィス・セファロン』は、頭や首、頬も守ってくれる優れものだ。視界が妨げられないように顔の部分は開けてもらったけど。


 脚装備の『ゴールデンアヴィス・プリアポッド』。これもゴツいシルエットだけど……股間の部分から太腿の内股の部分にかけて、大きく空いている点がヘルメスさんの癖を感じる。



 ヘルメスさんは私に着せる装備の一部を切り取って、肌を露出させないと気が済まないのだろうか。



 ・全然雰囲気違う装備が来たな

 ・随分ごつい装備だな……

 ・機動力なくなるんじゃ?

 ・ズ〇穴開いとるやんけ!

 ・薄い本で姫騎士が着てる鎧だろこれ

 ・ヘルメスの奴、エッ……けしからん装備作りやがって

 ・胸といい腰といい、弱点をわざわざ晒すデザインの装備はどうかと思うんですよ。それはそれとして最高です

 ・鎧を着たままやるってことですね分かります



「……さて、ミカツキちゃんごめんね。多分相手二人とも私がもらっちゃう」(コメント欄から目を逸らし)


「えっ……」


「そんな重装備、機動力が下がるんじゃ———」


「大丈夫よ。これ、実はめっちゃ速いから!」



 突如、ドパッ! と音を立てて、私の足元の地面が破裂し、その勢いのまま私はプテラの丼さんへと一気に間合いを詰める。


 瞬間速度がこれほど高いとは思わなかったのだろう。

 彼が驚き、すぐに真剣な表情に戻るのを、私ははっきりと見えている。


 アンフィスバエナを背中に担ぎ、踏み込みの勢いのまま、背負い投げのように叩きつける!



「ふっ……!」


「当たるか! 【ア・ナリエール】!」



 アンフィスバエナが当たる直前、プテラの丼さんの姿がぬるりとした動きで横にずれる。私も多用したそのアビリティは、独特のステップで攻撃を躱すアビリティだ。


 アンフィスバエナの振り下ろしは彼を捉えることなく、轟音と共に地面を砕く。



「一撃の威力は大したものだけど、避けてしまえばこちらのもの———」



 超重量の武器の一撃を外し、次の攻撃まで時間がかかると思ったのだろ。装備を替えた私にも果敢に迫ってくる。


 確かに、STRだけで次の行動に移るのは至難の業だろう。『ゴールデンアヴィス』シリーズが普通の装備・・・・・だったらね。



「【変転コンバージョン———ヒート・キャビテーション】!」


「はっ———!?」



 ギュガッ!!


 プテラの丼さんが踏み込むよりも早く・・・・・・・・・アンフィスバエナが振り上げられ、金属をねじ切るような音が鳴り響く。


 そして、鎧ごと斬り飛ばされたプテラの丼さんの左腕が、小さな音を立てて地面に落下した。


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