初めてのPvP配信! 1戦目

まえがき


PvP配信、ちょっと早まったかなぁ……もう少しちゃんと次のストーリーのフラグ立ててからで良かったなぁと後悔。


─────────────────────


「うーわ、エグい量のエントリー……」


 ・誰もがカローナちゃんと戦いたいんやな

 ・そりゃ、配信でもおろち戦でもあれだけ暴れ回ったカローナ様とは、一度手合わせしたいだろ

 ・告知のおかげで一戦交えたいプレイヤーがネプチューンに集まってるからな

 ・ミカツキちゃんって弓術師だっけ

 ・じゃあミカツキちゃんに触れるチャンスはないか……

 ・どさくさに紛れてお触り狙ってんじゃねぇ!

 ・でもカローナ様は近づいてきてくれるよ

 ・触れるのならな

 ・堕龍戦でも被弾しないカローナ様に普通のプレイヤーが攻撃を当てられると?



 とりあえず、ゲームシステムのランダムマッチングで……よし、対戦相手決定!



「ミカツキちゃん、行くよ!」



        ♢♢♢♢



 広いコロシアムの中央で、二組のプレイヤーが向き合う。

 片方は私とミカツキちゃん、もう片方は一戦目の対戦相手だ。


 相手のプレイヤー名は、『テルミ』と『オービル』。

 テルミはキラキラした目で私を見ている魔法職のような恰好をした男性プレイヤーで、オービルは何とも言えない表情をした重戦士の男性プレイヤーだ。



「それじゃ一戦目になるけど、よろしくね?」


「よ、よろしくっす! その、俺カローナさんの大ファンです!」


「あら、そうなの? テルミさんね、ありがとう♪」


「光栄っす! 今日はカローナさんがPvPの配信するって知って、友人を無理矢理連れてきてエントリーしたんすよ! 一戦目でいきなり当たるなんてラッキーっす!」


 ・いきなりカローナ様のファンか

 ・一戦目からカローナ様への挑戦権当たるとかどんなリアルラックしてんの?

 ・女王カローナ様の相手は舎弟キャラか……

 ・無理矢理連れてこられた友人かわいそう



「あー……なんか友人君、浮かない顔してるけど大丈夫?」


「オービルはあんまり配信とか見ないやつだから……」


「いや、その……配信されてるんですよね? 緊張してゲロ吐きそう……」


「えっ、大丈夫?」


「流石に『吐きそう』は誇張したけど……それぐらい緊張してるんですよ……」


「まぁまぁ、気にしないで……って言っても無理だろうけど、いつも通り戦ってほしいわ。配信してるからって手抜きとかいらないし、むしろ手を抜いたら私怒るからね?」


「分かってますよ……決闘は好きなんで、もちろんガチでやります」


「もちろん俺も、カローナ様に自分の強さを見せつけるチャンスっすからね!」


 ・真剣勝負は見ごたえある

 ・ランダムでマッチしてるのも配信してるから八百長なんて起こらないしな

 ・100レべ越えのカローナ様の戦いは果たして……

 ・ミカツキちゃんとの共闘も気になるところ



 対戦相手はやる気満々。

 視聴者さんの期待も高い様子。

 これは期待に応えないとね。


 とりあえずの一戦目は……これにしようかな。



 決闘が開始する瞬間まで、アビリティは発動できないけど装備を調整することはできる。直前まで装備を隠し、相手に悟らせないのはPvPに慣れたプレイヤーならだれもが使うテクニック……らしい。


 私の場合は、インパクト重視だけどね。



「というわけで、最初に紹介する装備はこれ! 『星降る夜の妖精執事スターリーナイト・バトラー・ティターニア』!」


 ・っ!?

 ・メイドじゃなくて執事!?

 ・男装カローナ様……だとっ!?

 ・えっ、なにこのイケメン……

 ・パンツスーツになると脚長っ!

 ・装備の名前に『ティターニア』って入ってる!?

 ・ワイの中の女の子が目覚めちゃう……!

 ・後ろでミカツキちゃんが熱い視線を送ってるぞ



 『星降る夜の妖精執事スターリーナイト・バトラー・ティターニア』は、ステータスが上がる以外には特別な効果は持っていない。まぁ、ダンス用の装備だし。


 でも、私の他の装備にはない利点があるのだ。『スカートじゃないから動きやすい』っていう、単純なものなんだけどね。



 テルミさんとオービルさんの驚く顔をしり目にカウントダウンは進み、そして0に———



『カローナ・ミカツキvsテルミ・オービル……決闘開始!』



 さぁ、全力で行くわよ!



        ♢♢♢♢



『カローナ・ミカツキペアvsテルミ・オービルペア……決闘開始!』


「えっ……ゴハッ!?」


「テルミッ!?」



 アナウンスが鳴り響き決闘が開始した、その僅か1秒後。

 彼らとの距離を即0にした私の膝蹴りが、後衛にいたテルミさんの顔面にヒットした。


 【レール・アン・ドゥオール】と【セカンドギア】でAGIを上げた、アビリティでもない膝蹴り。でも、私のスピードで当てればなかなかの威力だ。



 ごめんね!

 私も本気だから手加減なしよ!



「ぐっ……速すぎっす……よっ!」


「おっと」



 テルミさんは体勢を崩されながらも、私を払いのけようと握っていたスタッフを横凪ぎに振るう。


 そんな苦し紛れの攻撃が当たるもんですか!


 私が懐から取り出したのは、何の変哲もない食事用・・・ナイフ。ティターニアちゃんから貰った、使い勝手の良いものだ。



「何で食事用ナイフ!?」


「執事だからですよ? 坊っちゃん」



 迫るスタッフを、ティターニアちゃんに貰った食事用の銀ナイフでパリィすると、がら空きの胴体へ───



「【双舞鶴ふたつまいづる】!」


「ゴハァッ!」


「テルミ———ッ!?」



 特大ノックバックを齎すアビリティで吹っ飛ばす!

 薙刀じゃなくてナイフだから威力は少し下がるけど、今の私のSTRなら十分だ。


 一気に壁際まで吹っ飛ばされたテルミさんを心配してか、オービルさんが声を上げる。



「私ばかりに注目してていいの?」


「なっ———グハッ!?」



 直後、強い衝撃がオービルを襲う。

 硬く、重いものが高速でぶつかったような感覚に、重厚な鎧で武装しているオービルもたたらを踏むことになった。


 そんな彼の視線の先にいたのは、身の丈を超えるほど大きく、ゴツい弓を構えるミカツキちゃんの姿だった。



「くそっ、重装弓かっ……!」


「その通り!」



 オービスの指摘通り、ミカツキが用いた弓は、『重装弓』と呼ばれるものだった。非常に大きく重いため、持ち手より下に伸びる2本の杭を地面に突き立てて固定し、体を使って弦を引く武器である。


 力が弱いミカツキであっても、職業ジョブによる補正があり、脚を踏ん張って両手で弓を引けば十分に矢を放つことができる。



「もう一発あげるね!」


「それは食らえないな、【インダクション・ディフェンス】!」



 ズドンッ! という音を立てて、オービルの盾に矢が突き刺さる。

 分厚い金属の盾に深く突き刺さるほどの威力だ。当たればひとたまりもない。


 が……



「もっとSTRが高ければ盾ごと貫いてたかもな!」


「これでいいもん!」


「なに……っ!」



 突如、盾に刺さった矢が激しい光を放ち、雷鳴と共にオービルを包み込む。それによって『麻痺』に状態異常に陥ったオービルは、その場に崩れ落ちた。


 ミカツキが用いた矢は、ただの矢ではない。

 『高位付与術師ハイエンチャンター』の職業ジョブを持つヘルメスが、【エレクトロ・インパルス】を付与した魔法矢・・・だったのだ。



「くそっ……魔法付与の矢か……」


「正解! お姉さん!」


「オッケー、交代で!」


「えっ、なっ……うわっ!」



 気軽にテルミさんをボコっていた私は、その場から離れてオービルさんの方へ。逆にオービルさんへは、ミカツキちゃんの『ショートボウ』による連射が襲い掛かる。


 突然狙いを変えた私に、テルミさんは困惑の声を漏らすが……これは私とミカツキちゃんとで決めた作戦だ。『重戦士系のプレイヤーと当たったら、ミカツキちゃんが麻痺を入れて私が倒す』という作戦のね。


 防御を突破するアビリティをあまり持たない私と、そもそもレベルが低いミカツキちゃんだ。重戦士の装甲を貫くには、これ・・を確実に当てるしかないから。



 【グラン・ペネトレイション】×【一閃蜂騎いっせんほうき】の2連覚醒———



「【閃穿蜂壊せんせんほうかい】!」


「はっ———アッ!?」



 私がオービルさんの横を駆け抜けるすれ違いざま、ナイフを持つ右手から放たれた覚醒アビリティのエフェクトが彼を背中から貫く。


 【閃穿蜂壊せんせんほうかい】は、元になった2つのアビリティの効果を合わせ、さらにパワーアップさせた効果を持つ。


 つまり……『装甲貫通』、『クリティカル特攻』、『クリティカル発生時にダウン効果』、そして『クリティカル時に相手の装備の耐久を0にする』という、鬼畜アビリティの出来上がりだ。


 急ブレーキで地面を削る私の背後で、オービルさんの鎧が砕けて崩れ落ちる。さらにダウンも入っているため、私の追撃を避ける術はない。


 【アンシェヌマン・カトリエール】の空中ジャンプと回転で鋭角ターンした私は、隙だらけのオービルさんへ———


「【ドゥルガー・スマッシュ】! 3・連・打!」


「ッ———!」



 1秒にも満たないその一瞬で、3撃まで放てる【ドゥルガー・スマッシュ】の3撃全て……計36ヒット全てをオービルさんに叩き込む!


 まるでマシンガンに撃たれているような連続的な衝撃に飲まれたオービルさんは、当然装備なしで耐えられるはずもなく……戦闘不能となってその場に気絶スタンした。



「ちょっ、待っ、強すぎ———ぇあっ!?」


「ひえっ」


「隙だらけだったから……なんでお姉さんが怖がってるの」



 銃声のような音とともに、ミカツキちゃんの重装弓の一撃がテルミさんの眉間を貫く。通常、金属の盾ですら貫通する剛弓だ。プレイヤーの頭部が耐えられる道理などない。


 ミカツキちゃんの矢はテルミさんの頭を軽々と貫通し、ちょっと可哀そうな感じになったのだった。



 ……表現規制があってよかったね……。



 『テルミ、オービルの両者戦闘不能! カローナ・ミカツキペアの勝利!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る