ゴッドセレス、尊死す。

 いや~、アガるっ!

 まさかゲームの中でこんなにダンス欲が刺激されるなんてね。


 『魅惑の恋人アミュールラバーズ』シリーズの出来が良すぎるんだよ……。こんな素晴らしいドレスを着たら、そりゃ踊りたくもなるよ。



 軽くその場で回ってみたり、腕を上げてポーズをとってみたり。私の一挙手一投足に、セレスさんとティターニアちゃんの視線が注がれるのが分かる。



「メルルカさん、最高っ!」


「恐れ入ります。カローナ様ほど魅力的な女性ならば、そのドレスを着こなせると確信しておりました。御覧の通り、ラ・ティターニア様ですら見惚れておりますよ」


「ふふ……ティターニアちゃん、私綺麗?」


「っ! むっ……『ラ』を付けろと言っておるじゃろ……」


「ラ・ティターニア様……♡」


「ひぅっ……こ、これメルルカ! それが本題ではない・・・・・・じゃろ!」


「おっと、そうでした」


「えっ、この装備が目的じゃないの?」



 注文の品だったし、私ももう大満足よ?



「ラ・ティターニア様とのダンスパーティのために、特別にもう一着仕立て上げたのです! さあさあこちらへ! さぁさぁさぁ!」


「ちょっ、強っ……」



 再びグイグイと手を引くメルルカさんに連れていかれるように、更衣室へと移動する。


 ティターニアちゃんとのダンスパーティ用の一着って……最初から私を連れて行く気だったってことじゃん。


 別に良いんだけどさ……新しいドレス渡しとけばいいとか、軽く考えてもらったら困るわよ?(フラグ)



        ♢♢♢♢



「ラ・ティターニア様の隣に立つに相応しい、ダンスパーティ用男装礼服・・・・———その名も、『星降る夜の妖精執事スターリーナイト・バトラー・ティターニア』!」



 ———まさかの男装だった件。



 あー、そうか。

 『女性同士なる場合の対策』って、私に男装させるってことかよ!

 いや、まぁこのタキシードもクオリティ半端ないからいいか!(フラグ回収)



 妖精女王の名を冠する『ティターニア』シリーズに属する礼装、『星降る夜の妖精執事スターリーナイト・バトラー・ティターニア』。


 黒と濃紺の奥に、星が散りばめられたような輝きを宿している燕尾服だ。中は純白のカッターシャツで、黒の蝶ネクタイが凛々しい。


 私の身体の凹凸が目立たないような作りになっていて、ぱっと見では確かに男性に見えるけど……それでも分かってしまう胸の膨らみが、容赦なくを破壊してくる。


 さらに、つやつやな革靴と白い手袋ができる限り肌の露出を抑え、どの角度から見ても気品に溢れた服装だ。髪は長いから、とりあえず一つに縛って後ろに流している。


 なんだろう、自然と背筋が伸びる装備ね、これ。



「ふむ、やはり似合うのう」


「……ティターニアちゃん、私に男装させたかっただけじゃない?」


「そ、そんなことはないのじゃ。私と共に出席するのじゃから、そういった服装の方が場に合うじゃろ?」


「まぁ、そういうことにしといてあげる。これも気に入ったし……あ、声もそれっぽく変えた方がいい?」


「おぉっ? 急に男性らしい声になったの……ちょっとドキッとしたのじゃ……」


「ふふ……聞こえてますよ、ラ・ティターニア様?」


「か、からかうでないわっ!」



 やー、これはこれで楽しいかも。

 元々『カローナ』のアバターの背が高めだったのと、クールさがちょっと入ってるのが良かったわね。


 これから時々この装備使ったら、女性ファンも獲得できるかな?



「女性の目から見てどうかしら、セレスさん?」


「あっ、すっ……そのっ……///」


「セレスさん?」


「は、はいっ……! その、すごくいい……と思います……っ///」



 ……セレスさんが、目を合わせてくれない。

 視線は頻繁に動いているにも関わらず、私の顔……というか胸以上まで上がらない。


 そして、ほんのりと染まった頬。

 胸の前でもじもじと落ち着かない指。

 頻りに髪を弄る仕草……。


 あっ(察し)



 なんだろう、セレスさんが急に乙女になって可愛い。

 そしてなぜか嗜虐心を煽ってくる……ちょっとからかってもいい?


 もじもじしたまま目を合わせてくれないセレスさんの目の前にするりと接近、その白磁のような頬に手を添え、私の方を向かせて目を合わせる。


 そして渾身のイケボで———



「しっかりと私を見て言ってください、お嬢様・・・?」


「ん゛っ///」



 セレスさんの口から悲鳴のような何かが漏れる直前、突如として彼女の姿が消える。

 何が起こったのかと混乱する私は、そのすぐ後に届いた通知を確認し……



『フレンドの ゴッドセレス がログアウトしました』



 えぇ……(困惑)



       ♢♢♢♢



「ん゛ぁぁぁああああわぁぁぁあああ゛あ゛あ゛っ!!」


「ど、どうしたのですか玲子様!」



 アネックス・ファンタジアからログアウトした玲子セレスは、最後の最後、ギリギリ残った理性でヘッドギアを外し、そのままベッドに飛び込んで泣き叫んだ。


 そんな彼女の声を聞きつけたメイドのアリサが、慌てて部屋に飛び込んでくる。

 が、玲子セレスはアリサの前でも構わず、号泣が止まらない。



「ひぐっ! う゛ぅ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」


「落ち着いてください! 一体何があったのですか!?」


「カ゛ロ゛ーナ゛様゛がっ、カ゛ロ゛ーナ゛様゛がっ!」


「カローナ様がどうしたというのです?」


「カ゛ロ゛ーナ゛様゛がっ……と゛う゛と゛い゛っ!!」


「……はぁ」



 涙でぐちゃぐちゃにしながら何言ってるんだろうこの人は……。



「カローナ様ぁっ! しゅきっ、しゅきぃっ……///」


「はぁ、とりあえずサプリメントおくすり出しておきますね」



 またいつもの発作かと、部屋を後にするアリサ。

 カローナのイケメンムーブによって情緒を破壊された玲子セレスが再びログインするまで、数時間要したのだとか……。

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