これが王国一のドレスデザイナーの本気でございます!

「こればかりはお主に助けてもらうしかないのじゃ。これは私へのダンスパーティの招待なのじゃから……!」



 ティターニアちゃんが取り出した手紙は、封筒に包まれてきちんと蝋封がされており、ちゃんとした手紙のようであった。


 彼女が言うには、これはダンスパーティへの招待らしい。



「……えっ、普通に行けばいいのでは?」


「カローナ様、言葉に棘がありますわね」


「だってそう思わない……?」


「そう簡単に言えるのであればお主に頼んでおらんわ!」


「じゃあどうして私に?」


「お主は私にダンスを教えておるじゃろう。じゃから、私がまだまだ足りないのことも分かっておろう。このままでは恥をかいてしまう……」


「まぁ、ちょっとまだ人前に出せるものではないかな……」


「うっ……」


「女王様に対してめちゃくちゃ言いますのね!?」


「ダンスはちょっと譲れなくて」



 全国レベルのダンス部のリーダーやってるんだもん。

 そりゃ誰からも評価されるレベルを求めちゃうよね。



「そこまで言うんだったら、断るっていう手は?」


「今回ばかりは無理じゃな」



 ティターニアちゃんが言うには、堕龍おろちの討伐によって空を覆っていた偽物の空が崩れたことが関係しているらしい。


 新たに現れた空の向こうには未知のモンスターが跋扈していることが分かり、それらの脅威に対抗するべく、有力な権力者同士の間で結束力を高めるためのパーティだとかなんとか……。


 女王の立場であるティターニアちゃんが出席しないとなると、『民を守る気がないのでは』と疑われ、立場が非常に悪くなることが予想されるのだとか。



「確かにそれは出席しないとまずいわね」


「じゃろ? しかし、踊れるかと言われればそうでもない。そこでお主の出番じゃ」


「私はどうすれば?」


「私のダンスの相手をしてくれればよい。お主のリードがあればなんとかなる……と思う」


「自身なさげですわね……」


「まぁいいけどぉ……女王様の面子を保つのも大変ね」


「舐められたくはないからの……そして、なるべく事情を知る者で回りを固めておきたい。そこで、カローナだけでなくゴッドセレスの居る前でこの話をしたのじゃ。どうじゃ? ゴッドセレスもパーティに出席してみんか?」


「よろしいのでしたら、ご一緒しますわ」


「セレスさん、もしかしてティターニアちゃんがダンス踊れないの知ってた?」


わたくしもライカン様と戦って、近衛兵の称号を受けた身なのですわ♪」



 ひぇー、さすがトップランカー。

 私ができることはとっくに完了してるってわけね……。



「ハッ!? ということは、わたくしがカローナ様とダンスを踊ることも……」


「私が休憩している間ならば構わんじゃろ」


「んんんんんんんっ! また夢が叶ってしまいますわぁっ!」


「ちょっと、ティターニアちゃんともそうだけど女性同士のペアになるけどいいの?」


「そこは対策しておる。メルルカ」


「はい、ここに」



 ふとティターニアちゃんの隣に現れたのは、メイド服を優雅に着こなした獣人族の女性、メルルカであった。


 私は彼女と面識がある。

 以前“恋人ザ・ラバーズ”の素材を持ち込んだ時、装備の作成を受けてくれたドレスデザイナーだ。



「まさか、私にパーティ用の装備を……?」


「その通りでございます! さぁカローナ様、こちらへ!」



 なんか妙にテンションが高いメルルカさんに気圧される……。

 とはいえ、どうも注文していた装備が完成した様子だし、受け取る以外の選択肢が……


 えっ、さっそく着替えて見せろって?

 まさかのファッションショーの開始ですか……。



        ♢♢♢♢



「まずはこちらです! カローナ様からのご注文の品、その名も『魅惑の恋人アミュールラバーズ』シリーズ!」


「ふわっ……カローナ様、素敵ですわっ……!」


「ほう、これは素晴らしいものじゃな」



 更衣室から出てきた私を見て、セレスさんとティターニアちゃんが褒めてくれる。


 『ネペンテス・アグロー——“恋人ザ・ラバーズ”』の素材をふんだんに使い、王国一のドレスデザイナーが手掛けた至高の一着———その名も、『魅惑の恋人アミュールラバーズ』シリーズ。


 いや、とんでもないクオリティだ。

 マネキンに着せて飾っておくだけでも、誰もが足を止め、呆然と見入ってしまう程異常な・・・魅力。


 バラを思わせる紅を黒と深緑が彩る、どこか怪しい雰囲気があるゴージャスなドレスだ。落ち着いた紅で派手すぎるわけでもないのに、視線が吸い込まれ離せない。



 『魅惑の恋人アミュールラバーズ』は全部で5部位。


 『魅惑の恋人の幻花ドレス・オブ・アミュールラバーズ』は、肩から胴を覆い、腰から足首まで至るロングスカートを備えた胴装備のドレス。チラリと見える胸元と背中が、これまた魅力的だ。


 続いて、『魅惑の恋人の誘果ファシネイション・オブ・アミュールラバーズ』。これは目元を覆う黒いマスクで、仮面舞踏会マスカレードでも使われるもののようだ。


 『魅惑の恋人の棘蔦グレース・オブ・アミュールラバーズ』は、指先から肘までを覆うグローブだ。肘のあたりから先端にかけて、紅から深緑へと変化するグラデーションとなっており、ネペンテス・アグローの蔦のようにも見える。


 『魅惑の恋人の麗葉バスル・オブ・アミュールラバーズ』はドレスに隠れて見えないけど、腰のあたりに固定されドレスのスカートがボリュームを保つために形を作っているパーツだ。固定されているといっても非常に軽く、動くのに支障はなさそう。


 『魅惑の恋人の淵根アビス・オブ・アミュールラバーズ』は、足元を彩る暗褐色のヒールである。靴単体で見ると見劣りする色合いだけど、全身を統一装備にすると、地面から咲き誇る一輪のバラに見えるから不思議だ。



「最高級のクリプト・カルコーマの糸をふんだんに使用し、ネペンテス・アグロ―の花弁を余すことなく馴染ませました! 王国に二つとない最高の出来だと自信をもって言えます。軽くしなやかでありながら強靭、多少の攻撃では傷すらつきません。全身に装備することでまるでカローナ様が一輪のバラに見えるようデザインし、老若男女問わず魅了する、ゴージャスでファビュラスな———」



 メルルカさんの口から溢れる情熱パッションを適当に聞き流しつつ、私は性能を確認しておく。



 どうやら『魅力値』というマスクデータが関係しているらしく、私自身と『魅惑の恋人アミュールラバーズ』シリーズの魅力値の合計が高いほど、そして私と『魅惑の恋人アミュールラバーズ』シリーズの魅力値に差がない・・・・ほど、ステータスに補正がかかる。


 片方だけが魅力的でもバランスが悪く見えるから、きっとこんな効果になっているのだろう。


 ついでに、アビリティエフェクトにバラの蔦と棘のようなエフェクトが追加され、ちょっとカッコよく見えるのだとか。



 さっきまでダンスパーティがどうだとか言ってたのに、実際にドレスを着てみたら踊ってみたくて仕方がないっ……!


 これを見越して、ティターニアちゃんは私に打診したのかも。

 私も結構チョロかったのかもね……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る