第五章 ~猜疑に満ちた仮面舞踏会~

妖精女王が助けてほしそうな目でこちらを見ている

まえがき


おっと、手が滑って新章突入してしまった!

章タイトル、まだ深く考えてないので……どこかで変更するかもしれません。


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「諸君、ゲーム内二つ目のスペリオルクエスト、ご苦労だった」



 スペリオルクエスト『親愛なる————へディア・キャロル』のクリアアナウンスが流れた後、私達は一度『アーカイブ』のクラン拠点に戻ってきていた。



「いや本当……めっちゃ疲れたわ」


「このメンバーの誰か一人でも欠けていたら、クリアはできていなかったかも知れませんでしたものね」


「俺は大したことはしていないが……」


「何言ってんのヘルメスさん、魔剣とか魔槍とかいっぱい使ってあいつ・・・と互角に戦ってたじゃん」


「そうですわよ。モデル《Almighty》はわたくしとカローナ様を合わせたぐらいの強さ……それと互角だなんて、ランキングトップレベルですわよ!」



 これはマジでそう。

 生産職のヘルメスさんは確かに私やセレスさんより遥かにステータスは劣るけど、それを補って余りある装備の強さがあった。


 このゲームはステータスが全てじゃないって再確認したわ。



「さて、そろそろ本題に入ってもいいかね?」



 パンッと手を叩いて場をまとめたジョセフさんに、全員の視線が集まる。



「本題?」


「うむ。『親愛なる————へディア・キャロル』のクリアは全プレイヤーにアナウンスされているため、隠しようがないだろう。そしてその情報の公開を、多くのプレイヤーが待ち望んでいる」


「まぁ、そうよね……」


「それに、レベルキャップの開放だなんて、それこそ全プレイヤーに関わりますものね」



 全く何の前触れもなく、いきなり『スペリオルクエストのクリア』のアナウンスが届いたのだ。ゲーム内でたった二度しか達成していない快挙・・、しかもついにレベルキャップが解放されるとなれば、誰しもがその情報を望むに決まっている。



「そう、そのレベルキャップの開放が問題なのだ。行う場所が【ディア・キャロル】である以上、そこにプレイヤーが殺到するのは間違いないが……」


「集まりすぎて大変なことになるのは間違いないわね」



 しかも、それだけの人数が【テルクシノエ】に集まることを想像すると……せっかく何十年ぶりに元に戻ったのに、踏み荒らされるのは可哀そうだ。



「そこで提案だ。それらの情報公開や統制に関しては、『アーカイブ』に任せてもらいたい」



 ジョセフさんが言うには、ひとまずレベルキャップ開放の方法や場所は一般公開するらしい。


 【ディア・キャロル】に到達する方法が現状アーカイブが管理している『ヘリコプター』しか存在しないため、一日に運べるプレイヤーの数には限りがある。それをうまく調整しつつ、順次希望者のレベルキャップ開放を行うというのだ。


 もちろん、自力で【ディア・キャロル】に到達した者は止めるつもりはない。


 また、クエストによって明かされたプレイヤーに関する数々の真実は、【ディア・キャロル】内のほかに『アーカイブ』の拠点でも目を通すことができるようにしてくれるらしい。



「というわけで、次の二人の配信では、クエストに関する詳細は我々『アーカイブ』によって公開される旨を伝えてくれれば良い。無論、レベルキャップ開放後のステータスに関しては自由にしてもらっていいがね」


「正直めっちゃ助かるわ」


「ですわね。わたくし達では説明しきれない部分もありますし、丸投げしますわね」


「明日中にはまとめておこう。二人は明日にでも配信を再開してもらって構わない」


「オッケー!」


「うむ、ではこれでお開きとしておこう。私はすぐにでも帰らないと、他のメンバーにどやされそうなのでね」



 そう言うジョセフさんは、今までに見たことがないほどに目が爛々と輝いていた。よほど世界観に対する考察が楽しいんだろうな……。



「まぁ確かに解散するにはちょうどいい時間かな。ヘルメスさんは?」


「俺はまだまだ製作途中の装備が残っている。鍛冶場に戻って生産の続きだな」


「セレスさんはどう?」


「カローナ様が解散するのならそれでも良いですけど、まだ何かやるのでしたら付き合いますわ!」


「あ、ホント? じゃあ……もうちょっとだけお願い!」



        ♢♢♢♢



 というわけで、ジョセフさん、ヘルメスさんと別れた後、私とセレスさんが来たのは、ティターニアちゃんのところだった。


 彼女は【テルクシノエ】をやけに気にかけていたから、事の顛末はきちんと説明しておいた方がいいだろう。


 きっとそれは、ティターニアちゃんも望んでいるから。



「……では、【テルクシノエ】はこれで完全に救われたのじゃな?」


「えぇ、もう病気だと言われていたもの・・・・・・・・・・・・は完全になくなったわ」


「あぁ……これでやっと安心できる。其方らには感謝してもしきれないの」


「ところでティターニアちゃ……様。あなた、もしかしなくても【テルクシノエ】の出身よね?」


「分かるか。……まぁ、妖精族はあの島ぐらいにしか滅多に居らんからの」


「それにしては、ティターニア様はお若く見えますが」


「正確には、私の祖父があの島の出身じゃ。それから私の代までは、こちらの島で生を受けておる」


「なるほどね……あれ? 祖父ってことは、この国の王様って3代しか……」


「そんなわけなかろう。あくまで妖精族での話じゃ。それより以前は、妖精族ではなく別の種族が玉座に座っておった。それを祖父が継いだのじゃ」



 なるほど、そういう王家もあるのか。

 実力主義的な……血筋に拘らず、民の有益となる者を選んで王に据えるという。

 様々な種族が暮らす統一国ならではかもしれない。



「まぁ良い。とにかく……ありがとう。我が祖父の故郷を守ってくれて」



 ティターニアちゃんが頭を下げる。

 女王という立場でありながらそこまでするのだ。『テルクシノエを救う』というのは、それほど・・・・だったのだろう。


 そんなティターニアちゃんの様子にほっこりしつつ、私とセレスさんはテンプレ通りに『女王様が頭を下げるものじゃない』と言っておく。



「其方らへの褒美は追って渡すことにする。それでよいか?」


「もちろん!」


「お任せいたしますわ」


「ならばそうしよう。うむ……よし。時にカローナよ、お主に頼みたいことがある」


「私? 何かしら?」


「ついにじゃ、ついに……来てしまったのじゃ」



 深刻そうに表情を沈ませるティターニアちゃんに、私は思わず身構える。

 だってそうでしょ。女王様ともあろう者がそんな表情を見せるだなんて、よほどのことに違いない。


 戦争とかスタンピードだとか……もしかしたらクーデターなんてことも……。



 そんな風に考えていた私に対し、ティターニアちゃんが懐から取り出したのは、一枚の手紙だった。


 封筒に包まれてたそれはきちんと蝋封がされており、特段怪しそうな部分はない。この手紙がどうしたというのだろうか。



「こればかりはお主に助けてもらうしかないのじゃ。これは私へのダンスパーティの招待なのじゃから……!」



 ……なんて??

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