親愛なる————へ 12

まえがき


ようやく『親愛なる────へディア・キャロル』編を最後まで書ききることができました……順次投稿していきますね。


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 一瞬の暗転の後……周囲の景色が瞬時に変化し、私はバランスを崩しながらもなんとか着地した。


 到着した場所は、何かのケースや書類などか乱雑に置かれた、ガランとした広めの部屋だった。


 ミューロンやモデル《Almighty》の姿はないから、逃げることには成功したようだ。



「ここは……?」


「私が倉庫として使っていた部屋だ。この人数が入れる部屋がここしか思い付かなかったのでね」



 答えたのはホーエンハイムだ。

 セレスさんの【座標転移テレポート】の座標をここに設定し、全員を連れて転移したのだとか……



「少なくともここには、ミューロンと接続された機器は置いていない。追跡は容易ではないはずだが……モデル《Almighty》がここを見つけ出すのは時間の問題だな」


「ま、そうよね……とりあえず今のうちに体制は整えておかないと」



 『禍ツ風纒』を解除し、ポーションを飲んで回復をしておく。あいつ・・・を相手に、ノーダメージで居られる自信は……残念ながらないかな……。



 さて……と呟いたホーエンハイムは、フラスコの中でぐるりと回転して目を見開く。


 その視線の先は……【テルクシノエ】の人達だ。



「【テルクシノエ】の人々よ。私のエゴで巻き込んでしまったこと、改めて謝罪をしよう」


「……その謝罪は、素直を受け入れることはできませぬ」


「……それが普通だろう。皆の人生を大きく狂わせたことには変わりないのだから」


「しかし、我々の理解の範疇を越えた出来事の連続で、今も混乱しておるところですじゃ。あなたに抱くこの感情がなんなのか、それすらも分からず……謝罪への返答は、今暫く時間をいただきたい」


「分かった。この部屋は好きに使うといい。安心はできずとも、脅威に晒されることはないだろう」



 一人の反対意見も出ないのは、彼らが納得した……とは言い難いか。ただ混乱の真っ只中にいる彼らには、答えを出すまでの時間が必要だっただけだ。



「でもさ、実際どうするの? あれを倒せる作戦ある?」


わたくしとカローナ様を足した性能なんて、完全上位互換ですわよ?」


「俺の魔道具もまだ無いことはないが……すぐに対応されるのがオチだ」


「何より、今こうしている時間にも、彼らはデータを解析してしまう。次は時間稼ぎすらもできない可能性が高い」



 私に続き、セレスさんやヘルメスさん、ジョセフさんも所見を述べる。


 その言葉には、暗に『勝てる見込みがない』という意味が隠されているようだった。



「……たった一つ、可能性が無いわけではない」


「!」



 マジで?

 この絶望的な状況を覆す何かがあると?



「この倉庫の近くに、私の自室がある。ひとまずそこで説明をしよう。4人とも、ついて来たまえ」


「……って、言ってるけど」


「行くしかないですわよね? 勝てる可能性があるのでしたら」


「最初から選択肢など無いと思うがね」



 まぁ、そりゃそうよね。

 このままだと負け確だし、行くしかない。


 意見が一致した私達4人は、ホーエンハイムに案内されるまま彼の部屋に向かうことにした。



        ♢♢♢♢



 案内された部屋に入ると、そこは狭く薄暗かった。


 元々はそれなりに広いんだろうけど、積み上げられた本やレポート、様々な機器が並び、ほとんどの場所を取ってしまっているようだった。


 到着して早々、ホーエンハイムの指示に従って部屋の中にある機器に接続されている線を全て引き抜き、ミューロンとの繋がりを物理的に遮断しておいた。



 一通りの作業を終え、腰を据えて話せる準備ができた。



「さて、ホーエンハイムよ。その可能性とは?」


「『バイオファンタジア計画』とは、何もヒトを適応人類プレイヤーにするだけのものではない。後天的に遺伝子を組み換える……それはつまり、ヒトを作り直すことすら可能だということだ」


「まさか、今からそれをやると?」


「大まかにはその認識で正しい。細かく言うのであれば……君達適応人類プレイヤーにはある種のリミッターがかけられているのだ」



 何らかの不具合でアイリス若しくはヒーラが制御不能に陥った際、暴走する適応人類プレイヤー達を旧人類のみで御することができるようにと……『ある一定以上の強さになることができない』というリミッターだ。



「『ファンタジア』の設計段階で、それが組み込まれているのだ。君達には『レベルキャップ』と言えば伝わりやすいかね? 今からバイオファンタジア計画を君達に実行し、そのリミッターを……レベルキャップを外す」


「「「「!!」」」」


 うぉぉぉっ!?

 まさかまさかまさか……ここでレベルキャップ解放イベ発生!?


 マジ?

 私達が100レベ一番乗りしちゃう?



「モデル《Almighty》は、あくまで現在のの……つまりレベル99のカローナとゴッドセレスの力を合わせた強さだ。リミッターを外してそれを越えれば、モデル《Almighty》を倒せる可能性は充分にあるだろう」


「確かに、それはやるしかないわね」


「レベル100に興味があるだけにも見えるが……」


「当たり前でしょ! そんなエサ見せられて釣られないゲーマー居ないって!」


「それはわたくしと同意ですわ! 勝てる勝てないを抜きにしても、3桁レベルの魅力には抗えませんわ!」


「ついでに、ゴッドセレスの斬り落とされた腕も治せるだろう」


「本当ですの!? ならなおさらやるしかないですわね」


「ってことで、レベルキャップ解放は決定で」


「分かった。時間短縮のため、ひとまず戦闘力のあるカローナとゴッドセレスのリミッターを解除する。そこにあるカプセルに入るが良い」



 ホーエンハイムが視線を向けた先には、あの円筒状の装置を少し小さくしたようなカプセルが幾つか並んでいた。



 ……胸がつっかえるセレスさんを横目で見つつ、私もその中へと身体を収めていく。



「今の状態のミューロンはまともに使えないだろう。故にマニュアルで操作するが……機器が動けばミューロンにも伝わる。終了まで守るのは、2人の仕事となる」


「私は戦闘は苦手なのだがね……」


「やるしかないな。俺はまだ使っていない魔道具もそれなりにある」


「頼もしい限りだ。……あとは私が成功させねばな。何しろリミッターの解除は一度もやったことがないのでね」



 ……えっ、ちょっ!?

 なんか今怖いこと言わなかった!?

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