親愛なる————へ 6

「『適応人類プレイヤー』は何度死のうと、アイリスに蓄積された情報を元に全く同じ機能や記憶を持った状態でヒーラによって再生産される。君達が言う『リスポーン機能』とは、この一連の作用のことだ」



 ジョセフさんはもちろんのこと、私やセレスさんも絶句し、言葉を発することができない。


 ホーエンハイムの話が本当なら……いや本当なんだろうけど、それでは『リスポーン』はゲーム的な機能ではなくなってしまう。


 マザーAIの『アイリス』と『無尽蔵機関ヒーラ・システム』が停止した瞬間、私達からは『リスポーン』が消えることになるし……


 逆に言えばその両方が存在する限り、いくらでも『リスポーン』を……


 あっ。



「あ───っ、そういうことかぁ」


「……恐らく、私もカローナ君と同じことを考えていたよ」


「な、何ですの?」



 うーわっ、気づいちゃった。

 そりゃ、カグラ様も『怒りで我を忘れるな』と言うわ。


 ホーエンハイムさん、とんでもないことやってるな?



「半永久的に再生を繰り返す適応人類プレイヤーを作る『ファンタジア計画』が成功したとなれば、次に考えるのは……旧人類・・・適応人類プレイヤー化ではないかね?」



 私が考えていたことを、ジョセフさんは上手く言葉にしてくれた。


 そう、『ファンタジア』によってほとんど完全な不老不死が実現することが証明されてしまったのだ。ともすれば、研究者がそれを欲してしまうのは必然。



「つまり、【テルクシノエ】の人々が言っていた『バイオファンタジア計画』とは、後天的に・・・・にファンタジアを埋め込み、適応人類プレイヤー化する計画であって───」


「ホーエンハイムさん、あなた……【テルクシノエ】の人達全員を、『バイオファンタジア計画』の人体実験に使った・・・・・・・・ってことね?」


「そんなっ……!」



 ヘルメスさんは眉を潜め、セレスさんは驚愕の表情を浮かべて口を手で覆う。ずっと黙って聞いていた村人達も、真実を知って絶句する他に無いようだ。


 当の本人はというと、しばらくの間目を閉じて無言を貫いていた。



 時系列的にはこうだろう。

 何年……何十年かもしれないけど、随分昔に、【テルクシノエ】に目をつけたホーエンハイムが【ディア・キャロル】によって孤島を訪れた。そこで村人達を上手く口車に乗せ、『バイオファンタジア計画』を行ったのだ。


 つまり、村人達が言う『神』とはホーエンハイムのことで、『方舟』が【ディア・キャロル】というわけだ。


 まぁ、確かに文明レベルが低い彼らから見たら、【ディア・キャロル】は空からやってきた方舟に見えても仕方がない。


 その後村人達は、『ヒーラ』によって復活する機能を有することとなり、ずっと長い時間を過ごしてきた。


 『バイオファンタジア計画』は公では行われていない……というか、『新しい人類を1から産み出す』なら百歩譲って許すとして、『現存の人間に手を加える』のは禁忌だろう。


 だからこそ人里離れた孤島で秘密裏に行われ、対照実験・・・・として似た状態での実験を繰り返し、データの採取のために定期的に記憶を回収している……【テルクシノエ】はその時からずっと研究試料でしかなかったのだ。


 ───そしてそれがなぜか、ホーエンハイムが死に、今の状態になってからも行われている。



「いやぁ、マジかぁ……」



 怒りは湧かない。

 サイコパスというか……決して理解できない得体の知れない化け物にであった気分だ。



「とにかく、今現在も稼動している【ディア・キャロル】を止める他にないだろう」


「……ま、そうね……」



 この場でホーエンハイムに詰め寄ったところで、【ディア・キャロル】は止まらないのだ。今は解決策を考えるのが優先だ。



「【ディア・キャロル】を止めるには、ここを支配している『ミューロン』を止めるしかないだろう」



 【ディア・キャロル】は、ホーエンハイムが『ファンタジア計画』と『バイオファンタジア計画』を研究していた施設である。


 この星全体としては、マザーAIである『アイリス』が全てを支配しているものの、【ディア・キャロル】内に限り、そのグレードダウン版AI、『ミューロン』がコントロールしているという。


 当然、船内にも『ヒーラ』が使われており、適応人類プレイヤーや『バイオファンタジア計画』の対象者は【ディア・キャロル】内で何度でもリスポーンするのだという。



「ホーエンハイム、そのミューロンとやらがどこにあるのか知っているんだろ?」


「もちろん、案内はするが……」


「するが……何だ?」


「【ディア・キャロル】のセキュリティはかなり厚い。システム上の壁は私が突破できるだろうが、兵士・・を止めることはできないのでね」


「ちょっと待って、今兵士・・って言った?」


「当然、侵入者を排除するための戦力は置いている。機械を使うより、船内を自由に動ける戦力の方が柔軟に対応できるのでね」


「つまり、生物兵器が襲いかかってくると?」


「うむ。『バイオファンタジア計画』によって産み出された、無限に再生する最強の兵器が───」


「ちょっ」



それは先に言えっ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る