親愛なる————へ 4
「『ミューロン』からすれば、プレイヤーは研究対象。当然研究室へと送られる」
「その研究室にジョセフも居るということか」
「おそらく。その突き当りを右に曲がった先にエレベーターがある。それで下へと向かう」
私達はホーエンハイムの案内で【ディア・キャロル】内を移動していた。
金属のようでプラスチックのような不思議な素材で作られた通路は、私が知る『アネックス・ファンタジア』の世界観とはまるで違う光景だった。
【ディア・キャロル】内は他に誰も居ないのか、移動途中に見かけるガラス張りの部屋の中は閑散としていた。
「私をモニターに近づけろ」
エレベーターの場所へとたどり着くと、ホーエンハイムはそうヘルメスさんに指示する。
ホーエンハイムが入ったフラスコがモニターに近づけられると、そこから発された光がホーエンハイムの目をスキャンし、エレベーターが稼働したのだ。
「凄い技術ね……」
「それぐらいのセキュリティが無ければ……万が一にでも研究が盗まれでもしたら、この世界がひっくり返るほどだからな」
「……それなら余計に動いているのが謎ね……」
「ありえない、と言い切りたいところなのだがな……」
エレベーターでしばらく降下し、到着した先……より重厚そうな扉をホーエンハイムが開くと、物々しい機械が所狭しと並ぶ光景が目に入る。
そしてその先、ガラス張りの向こうに広がる光景は———
「うぉ……」
「これは……また凄まじい光景ですわね……」
「これ、村人も全員
薄暗い、だだっ広い部屋の中に、分厚いガラスでできた円筒状の装置がいくつも並んでいる。その中は薄緑の液体で満たされており……
そして、【テルクシノエ】で出会った村の人々が一人ずつ収められていたのだ。
ファンタジーと言うよりは、どこかホラー要素を含んだSFというべきか。まるで世界観が違うその光景に、私はただ茫然とすることしかできなかった。
『———緊急排出を開始します』
ホーエンハイムが何やら操作をしたのだろう。
そんなアナウンスが流れると同時、円筒状の筒の中から液体が抜かれていき、捕らえられていた人々が次々と解放されていった。
♢♢♢♢
「なるほど、そうして私を解放してくれたのだな」
その後、ジョセフさんをはじめ、解放された【テルクシノエ】の人々を別の広い部屋に移動し、これまでの経過を説明した。
始めは驚いていたジョセフさんも徐々に納得した表情へと変化していき、そして今は顎に手を当てて何やら考え込んでいる様子だ。
「ジョセフ、記憶は正常か?」
「記憶……あぁ、もしや
「うむ。【ディア・キャロル】はより多くの情報を収集するため、プレイヤーからデータとして記憶を回収する技術を備えている。その代わり、その分の記憶が当人から消えてしまう副作用があるが……」
なるほど、記憶の回収ね……【テルクシノエ】の人達が、クエストの度に記憶が無くなっていた様子だったのは、これのせいだったのね。
……って、
「ちょっと待って、
「いや、そうか。今までずっと感じていた違和感の正体は……そういうことだったのか」
そう切り出したのはジョセフさんだった。
「今まで出会ったNPCは皆、我々のことを『プレイヤー』と呼んでいたな。我々はゲームをプレイしているという認識だから、それはある意味間違いではない」
しかし、とジョセフさんは言葉を続ける。
「NPCから見て、我々が
思い返せば、カグラ様もティターニアちゃんも、最初の方に寄った武器屋のおじさんも、全員が私に対して『プレイヤー』と呼んでいた。
たしかに、そもそもNPCが『プレイヤー』という概念を持っていること自体がおかしいのだ。
若しくは……
「おそらく、我々が使う『プレイヤー』という言葉と、君達NPCが使う『プレイヤー』という言葉の意味が異なるのではないのかね?」
そういうことだ。
私達が勝手に『プレイヤー』=『ゲームをプレイしている人』と認識していただけで、カグラ様達が同じ意味で言葉を使っているとは限らないのだから。
「……プレイヤーというのは、あくまで俗称である。正式名称は『
「編集、か……それはつまり」
「分かるかね。『ファンタジア計画』、それは———」
———
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