親愛なる————へ 3

 セレスさんの魔法、【ビッグバン・スラスト】が、その猛威を振るう。


 セレスさんの後ろに隠れた私にはダメージはないけど、凄まじい閃光と熱、衝撃に呑まれたティラノサウルスは、跡形もなく消し飛んだようだった。



「えぇ……また一撃で消滅ですの……?」


「あら、わたくしの真似ですの? 可愛いですわぁ!」


「真似したつもりはないけど、衝撃的過ぎて、ね……」


「相手はHPもMDFも低かったようですし、わたくしの相手になりませんわ!」



 高笑いするセレスさんをドン引きした様子見ながら、私は少し口調がおかしくなっていたようだ。


 いやでもこれはビビるって……堕龍おろち戦の時のウンディーネ型相手にもそうだったし、このティラノも消し飛ばしたし……。


 呪文の詠唱時間を捻出できれば、さすがは『瞬間火力ランキング1位』といったところか……。



「それにしても、この部屋はなかなか厄介ですわね」


「え? あ——……」



 部屋の中を見渡しながら呟くセレスさんの言葉を聞いて、私も彼女が言わんとしていることを察した。


 あれだけの魔法を受けたはずの部屋のガラスは、割れるどころかヒビ一つ入っていないのだ。



「威力に関わらず、アンチマジック効果が付与されていそうですわね」


「私が足場にして壁を跳ねても割れなかったし、相当丈夫なのね」



 戦闘データを集めるための部屋のようだし、簡単に破れるような弱い素材で作らないか。



「しかしそうなると、困りましたわね。このまま戦闘を続ける以外に、この部屋から出る方法が思いつきませんわ」


「そうね……とりあえず、このまま戦闘を続けましょうか。ちょうど次の相手も出てきたみたいだしね」



 私がそう言ったのは、目の前で再び床が開いたからだ。


 そこから現れたのは、これまた巨体。先ほどのティラノサウルスにも劣らないほどの、ずんぐりした見た目のゴーレムであった。


 【鑑定】の結果は……


————————————————————


Name: モデル《Vitality》・プロトタイプ

Lv:99


————————————————————



「先ほどと打って変わって、完全に耐久型ですわね……」


「物理が効かない相手だと、私はかなり苦手な相手よ?」


わたくしは『暗黒呪術師』ですわよ? お任せくださいな!」




 で、約10分後。

 デバフも呪いも盛り盛りで焼き殺されたゴーレムが消えていった。

 私はただ見てるだけだった。











 次の相手は、『モデル《Agility》・プロトタイプ』。

 こいつは確かに速かった。

 今まで私が戦った中では一番ぐらいに。


 まぁでもこいつの敗因は、『鴉天狗』状態の私よりも遅かったことかな。


 ってことで、こいつは【小夜嵐】でぶん投げられ、壁のシミになったのだった。













 少し厄介だったのは、『モデル《Intelligence》・プロトタイプ』。

 こいつは他の相手よりも高性能なAIを積んでいたのか、攻撃の使い方が上手かった。スピードが速い私への牽制も上手くて、私も攻めあぐねていたぐらいだからね。


 けど、そこはさすがセレスさんだった。

 セレスさんが発動しようとした水魔法を見抜いた『モデル《Intelligence》』は、水属性に強い土魔法で相殺。


 続くセレスさんの風魔法に対し、『モデル《Intelligence》』は風に強い火魔法で対応しようとするも、直前に相殺した水魔法の水分が残っていたことにより、火魔法が満足な威力を発揮できず直撃。


 その一手で戦況は傾き、そのままセレスさんが押し切って撃破。

 『思ったより弱かったですわね?』というセレスさんの言葉が印象的だった。






 そして再び開く床……



「何回戦えばいいのよ、これ……」


「……いえ、どうも様子がおかしいですわ」


「あれ、止まった?」



 開きかけていた床が、途中で止まったのだ。

 そうなると次の相手も出てくることなく、代わりに私達の背後で、自動ドアが開くような音が聞こえてきた。


 後を振り返ると、そこにいたのは———



「ヘルメスさん?」


「二人とも無事だったか」



 そう、そこにいるのはヘルメスさんだった。

 片手にホーエンハイムが入ったフラスコを抱えた彼は、少し疲れた様子であった。



「データを取られるのは癪だ。早くこの部屋から出ると良い」



 一つだけ存在する目を細め、そんなことを言うホーエンハイム。私とセレスさんは顔を見合わせた後、従った方が良いと彼らの後をついて部屋を出ることにした。



        ♢♢♢♢



「ヘルメスさんも無事だったのね。どうやってここに?」


「あぁ……俺は捕らえられて意識を失っていたようなんだが、ホーエンハイムが解放してくれたようだった。意識を取り戻した時には、周りには誰もいなかったがな」


「ってことは、ジョセフさんは一緒じゃなかったかぁ。どこ行ったんだろ」


「ホーエンハイム様は、この【ディア・キャロル】に関して詳しそうですわね?」


「……詳しいも何も、【ディア・キャロル】は私が生前に使っていた研究施設なのだから」


「「「はっ?」」」



 私達3人の視線が、一斉にホーエンハイムへと集まる。

 【テルクシノエ】の人々に悪さをしていそうなこの飛行船が、ホーエンハイムの持ち物だって?



「だが、私が居ない状態で動いているのはありえない。アドミニスター接続には、他でもない私自身の認証が必要なのだが……」


「ちょちょちょちょっと待って、一旦整理させて……え、この飛行船、あなたの?」


「そうだ。私が生前、『ファンタジア計画』、並びに『バイオファンタジア計画』の研究のために使っていた施設だ」



 『ファンタジア計画』———それは、『アネックス・ファンタジア』のゲームタイトルになっているほど、ストーリー上において重要なものだ。


 『アネックス計画』が堕龍戦で明かされたから、いずれ『ファンタジア計画』にも言及があるんだろうとは思ってたけど、まさかこんなに早くやってくるとは。



「今は『ミューロン』……【ディア・キャロル】を支配するAIに接続して停止命令を出したのだが……ここに居るであろう何者かによって再び稼働されるのも時間の問題だ。早めに止めなければ……」


「色々と悩んでるところ申し訳ないけど、まず『ファンタジア計画』について教えてくれない?」


「……仕方がない。君達プレイヤーには、知る権利はあるだろう」


「お待ちになって。そういった話こそ、ジョセフ様がいた方が良いのでは?」


「う、確かに……」



 でもめっちゃ気になるぅ……。



「ホーエンハイム。お前ならジョセフがどこに連れていかれたか分かるだろ?」


「設備の場所が変わっていなければ、見当はついている。そこへ案内しよう」


「お願い、早めにね!」



 答えがそこにあるのに、謎のまま放置するのが一番モヤモヤするのよぉ!

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