跋扈せよ 揺り籠は、歪な真実を孕む

 村長さんについて客室に入った私達は、促されるままにソファに腰を下ろして村長さんと対峙する。


 目の前にいる村長さんの様子も、側に待機している衛兵らしき男も、一回目の時と変わった様子はない。



「よくぞ来てくださった、プレイヤーの方々よ。知っているとは思うが、この村は———」


「その前に村長殿。我々から聞きたいことがあるのだが、良いかな?」



 村長さんの言葉を遮り、ジョセフさんが口を開く。

 突然のことに、村長さんは頭の上に『?』を浮かべながら口をつぐんだ。ジョセフさんの次の言葉を待っているようだ。



「まず、我々は一度ここを訪れているのだが、覚えはあるかな?」


「……いや、記憶にないのじゃ。何かの間違いでは?」



 村長さんの様子は、嘘をついている様子は全くない。そもそもここで嘘をつく理由もないし、これは記憶がなくなっていると考えて間違いはないだろう。



「確実にここを訪れているし、村長殿とも話をしている。これは確実にあなたの直筆だろう?」



 ジョセフさんがインベントリから取り出したのは、一枚の紙。

 『病葉の舞う孤島』をクリアした際、それを証明するために村長から貰った直筆のサインが入ったものだ。


 ジョセフさんから紙を受け取り覗き込んだ村長さんは、途端に顔を歪めて頭を抱えた。



「っ……なんじゃ、頭がっ……」


「その様子を見るに、あなたは本当に我々のことを覚えていないようだ。我々は確かに、あなた達の病気を治したというのに」


「病気を治した……? そんなバカな……わしらは未だにこうして———」


「そう、今現在、あなた達の病気は治っていない。もしやそれは、治ることのないものではないのかな? 例えば、そう……病気でもなんでもなく、あなた達はそもそも人間では———」


「な、何を言うか! 我々は———」


「それを知るためにも、我々に全て明かしていただきたい。ここに降臨したという『神』とは何者だ? 『転生の秘薬』とは?」


「っ……分からない、分からないのじゃ……!」


「それが分からなければ、あなた達は永遠にこの呪縛から逃れることはできない。なんでもいい、我々に教えてくれ」


「っ……ダメじゃ、思い出そうとしても霧がかかったように曖昧になる……なんじゃ、これほどの罰を受けるほどの罪を、儂らは犯したというのか……。この呪いから逃れられる方法を、お主らは知っておるのか……?」


「……苦しむ覚悟があるのなら、やりようはある」


「やってくれ! 儂が苦しむだけで村が救えるのなら、それ以上望むことはない!」


「であれば……セレス君」


「お任せください」




 ジョセフさんに呼ばれ、村長さんの前に来たのはセレスさん。右手に赤黒いエフェクトを纏う彼女の様子は、配信で見せるような明るいものとは正反対の、禍々しいものであった。



「すみません、村長様……よろしいですか?」


「うむ、それで村が救えるのなら」


「では……どうか、お気を確かに。【禁断の呪術フォビドゥンカース——ネクロ・クロニクル】」


「ぐっ……!?」



 『暗黒呪術師』専用アビリティ、【禁断の呪術フォビドゥンカース——ネクロ・クロニクル】。相手のトラウマを呼び起こし、精神を削り取るえげつないデバフアビリティだ。


 村長さんの様子を見るに、この病気と思われる何かが始まったきっかけが、彼らの心に深く突き刺さっているはず。


 精神の安定を守るために記憶を無くしているのかは分からないけど、呪術によって記憶を掘り起こし、それを明らかにしようというのだ。



 村長さんは頭を抱えて蹲り、苦しそうな唸り声をあげる。

 無理やりトラウマを掘り起こされる精神的ストレスは、想像を絶するものだろう。


 次第に様子も変わってきたのか、唸り声の中にうわ言のような言葉が混ざり始めた。



「そうじゃ……身の程を知らず、強欲に求めてしまった我々の……っ」


「っ! セレス君!」


「えぇ、っ……」



 セレスさんが右手を振り、赤黒いエフェクトを霧散させる。冷や汗を流し、肩を揺らして息をする村長さんの様子は、焦燥しきっているようだった。



「落ち着いて、ゆっくり話してほしい」


「う、うむ……あれは、何十年と前の話じゃ……空からやってきた箱舟から降り立った神……いや、あれは人じゃった。人智を越えた、神のごとき魔法を扱う、人じゃ。そ奴は儂らに、確かに言ったのじゃ」



 『もし私に協力すれば、不老不死にしてやろう』と———



「不老不死を望むなど、身の程知らずにもほどがある! じゃが、あの時の儂らは、それを望んでしまったのじゃ!」


「その神とやらは、どうやってあなた達を不老不死に?」


「……バイオファンタジア計画」


「何……?」


「その正体は、儂らも何も知らない。が、確かにそう言った。『バイオファンタジア計画の礎になれ』と……」



 そして、と村長さんは言葉を続ける。



「儂らは一人残らず『箱舟』に乗り込んだのじゃ。はっきりと思い出した……見たこともない生き物の姿、到底理解もできない何らかの装置の数々……人ではない音声でそれ・・は儂らを迎え入れ、こう言ったのじゃ……」



 ———『ようこそ、【ディア・キャロル】へ』と———










『遥か遠き幻想にさえ手を伸ばすように──』


『現時刻を持ちまして、スペリオルクエスト・・・・・・・・・: 親愛なる————へディア・キャロル が開始されます』


『プレイヤー達よ、真実を受け入れる覚悟はできていますか?』



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