テルクシノエへ、もう一度

まえがき


 いつも読んでいただき、ありがとうございます。近況ノートにお知らせを乗せたので、チラッと覗いていただけるとありがたいです。


─────────────────────


 次の金曜日の夜、私はジョセフさんが操縦するヘリに乗り込んで海上を進んでいた。


 何か重要なクエストが発生するのは楽しみだけど、そのために学校や部活をないがしろにするわけにもいかないしね。ヘルメスさんが急いで整えてくれたけど、遅くまでゲームをしても問題がない金曜日まで待ってもらった次第だ。


 試運転も済んでるようだから、安心して乗っていられるね。



 同じくヘリに乗っているのは、操縦士のジョセフさんの他、ヘルメスさんとセレスさんだ。『考古学者』らしいジョセフさんと『アルケミスト』のヘルメスさんはどちらも非戦闘職だけど、私とセレスさんがいればまぁ、何とかなるかな?



Mr.Qクウが来れなくて残念ね」


「あいつは忙しいらしいからな。後でこの話をしたら悔しがりそうだ」


「ゲーム内でもあんまり会ってないし、最近忙しそうよね?」


「……一緒にアネファンしたかったのか?」


「べ、別にそんなんじゃないけどっ!」


「ふふ、カローナ様もMr.Q様が気になりますのね」


「セレスさんも変なこと言わないで! ちょっと忙しそうだなって思っただけよ」


「あと二か月ぐらいでWGPが開催されるだろ。そのアネファンブースを任されてるから、その準備が大変らしいからな」



 WGP———World Game Pavilionワールド ゲーム パビリオンの略。年に一度、ビッグサイトで開催される、世界中のゲームが集まるゲームの祭典だ。


 今年はアネファンの登場によってかつてないほどの注目を集めており、チケットの倍率もとんでもないことになっている。


 私も行きたいけど、チケット取れるかなぁ。



わたくしにはトークステージのオファーが来ていますわ。配信者冥利に尽きる、ありがたいお話ですわ!」


「セレスさんほどになると、そういうオファーも来るのね……私はまだまだそこまで行けそうにないかな……」



 何気に私も登録者数100万を超えてきたところなんだけど、セレスさんとはその十倍の差があるからなぁ。いずれ私もそこまで到達したいところだ。



「もしカローナ様がよろしければ、わたくしとのトークステージに招待しましょうか? Mr.Q様が取りまとめですし、カローナ様であれば話が通り易そうですが」


「うーん、なんだか負けた気がするから遠慮しておくわ……公式からオファーが来るぐらいに、自分で登り詰めて見せるわ」


「ふふ、それでこそわたくしが好きなカローナ様ですわ! 私と一緒にWGPのステージに立てることを楽しみにしていますわ!」


「ちょっ、苦しっ……」



 満面の笑みを浮かべて抱き着いてきたセレスさんの胸に、私の顔が埋まる。セレスさん、こういうところの距離感が近すぎる!



「セレスさん、こういうことはほどほどに……」


「大丈夫ですわ! こんなこと、カローナ様にしかしませんもの」


「じゃあいっか……じゃなくて、ヘルメスさんが鼻の下伸ばしてるから離して……」


「あら、ごめんあそばせ」


「おい、俺を巻き込むな」


「とか言っちゃって、ヘルメスさんも好きでしょ?」


「…………」


「ヘルメスさんのそういう素直なところ、私は結構好きよ?」



「そろそろ【テルクシノエ】に到着する、準備したまえ」



 ここぞとばかりにヘルメスさんを揶揄っていたら、ジョセフさんから報告が来た。【千里眼】を使わなくても、確かに島が見える位置にまで来ているようだ。


 誰も見たことがない二度目の【テルクシノエ】の村……はてさてどうなることやら。



        ♢♢♢♢



 二度目ともなれば、村の入り口の場所も知っている。それに、セレスさんもジョセフさんもヘルメスさんも、『病葉の舞う孤島』はクリアしているらしいしね。



「そこに誰かいるのか!?」



 門の支柱の上部、見張り台となっているであろうその場所から声が聞こえる。

 暗闇だから姿は見えないけど、若い男の声だ。


「私たちはラ・ティターニア様に村の調査を依頼されてここに来たの」


「何っ!? 少しそこで待っていろ」



 そんな声が聞こえてきて、待つこと数十秒。

 腰に剣を携えた二人の男がこちらへと向かってきた。

 

 なんだか既視感……私が初めてこの村を訪れた時と同じ会話が繰り返されているようだ。



「証明できるものはあるか?」


「これでいいかしら?」



 今回はティターニアちゃんの依頼書を持っていないから、『専属秘書』であることを示す紋章を見せる。胸辺りに取り付けたバッジのようなものだ。



「これはっ……ふむ、確かに。おい、村長に知らせて来てくれ」


「分かった」


「信じてくれたのかしら」


「ラ・ティターニア様の紋章を見間違えるはずもない。まさか女王の専属を騙る愚か者が居るはずもないしな」



 ここでも権力を発揮してくれる、『専属秘書』の称号。あの時ライカンさん相手に頑張って良かったわ。



「カローナ、お前女王の専属の称号持ってたのか」


「あら、あなたカローナ様の配信見ていませんでしたの? あの女王の剣・・・・、ライカン様相手に押していましたから」


「そこまで強かったのか……いや、堕龍おろち戦を見てれば納得か」


「えへへ、それほどでも」



 それから待つこと数分、村長さんに話が通ったのだろう。ゴゴゴッ———と重い音を立てて門が開いていく。


 門の向こうには開けた空間と、点在する民家。

 そして、遅い時間にも関わらず出迎えてくれた数名の村人。


 この景色も、一度見たものだ。

 まさしく『同じ時間を繰り返している』としか思えない、不思議な感覚に陥る。



「ようこそ【テルクシノエ】へ……と言っても、歓迎できる状況ではないのじゃがな。この村を救うため、ぜひ協力していただきたい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る