VS オリハルダイン・オラトリア 4

「水鏡に凪げ、浮世現世うきようつせ嘆く月下の盃───『酒呑童子』、起動!」


 ・っ!?

 ・酒呑童子!?

 ・妖気解放の別パターン!?

 ・突然ユニークぶっこんで来るなこの人!?



 身体の中から妖気が爆発するように溢れ出し、姿が変化し始める。


 縦に割れた瞳孔。

 赤く艶やかな唇から覗く、鋭い牙。

 額から生えた、二本の角。

 『酒呑童子』たるを示すそれら全てが人間とはかけ離れ、しかし妖しい魅力を放っている。



 けどその性能は、決して可愛いものではない。


 『鴉天狗』がAGI大幅アップであったように、『酒呑童子』はSTRとVITの大幅アップ。そして、打撃系アビリティの威力の増加、行動中の怯み・・を無効にする『スーパーアーマー』、ノックバックを相手に反射する『ノックバックカウンター』を持っている。


 私が桔梗さんと仕合をしていた時、【双舞鶴】のノックバックを反射されたのは、この『ノックバックカウンター』のせいだったようだ。



 制限時間は5分。

 この間、私は最上位妖怪の名に恥じない暴力装置となる!



「フッ……!」



 ズンッ! と、地面が蜘蛛の巣状に割れるほどの踏み込みと共にオリハルダイン・オラトリアの横っ面に突き刺さったそれは、まさに雷の如く———



 “妖仙流剛術”——【紫電】。

 雷速に肉薄する打撃と炸裂する雷の衝撃波、そして『ノックバックカウンター』によって私が受けるはずだったノックバックすら相手に叩き込む。


 それらの組み合わせによって到達した威力はオリハルダイン・オラトリアの巨体を確かに浮かせ、横転させるに至った。




 やっば、これ……こんな世界が変わるほどパワーアップするんだ。時間制限があるとはいえ、あまりにも強すぎる。


 UIを操作し、装備を『妖仙之姫ようせんのひめ——戦舞装せんぶのよそおい』に変更。そして『魔皇蜂之薙刀』をインベントリに放り込み、『蟹剛金箍』を取り出す。



 『酒天童子』状態では、さすがに『鴉天狗』ほどのスピードは出ない。けど、その分勝っている部分はある。


 それが、軸の安定感・・・・・だ。


 オリハルダイン・オラトリアの巨体に私が攻撃をぶつけても、通常であれば私も跳ね返される。


 けど、酒天童子状態中の『ノックバックカウンター』が、私が受けるはずだった反動を跳ね返してしまうから、私の一撃は見た目よりも遥かに重い攻撃となるのだ。


 それこそ、オリハルダイン・オラトリアの巨体を浮かせられるほどにね。



「キュルオッ!」


「ふっ!」



 オリハルダイン・オラトリアが体勢を整えるよりも速く宙を駆けた私は、無造作にその目を掴んで追撃を叩き込む!


 【界分擬境】!

 分身して見えるほどの打撃がオリハルダイン・オラトリアへと叩き込まれる。


 私の手に残る、確かな手応え。

 ミシッ……と軋む、目の付け根部分。

 パラパラと甲殻の破片が落ちたのを、私は見逃さない。



「"妖仙流剛術"──【紫電】!」


「キュルオォォォォッ!」



 紫の雷を纏う私の回し蹴りがオリハルダイン・オラトリアの目を捉え───僅かな拮抗のあと、その金の甲殻を砕きながら振り抜かれた。


 少なくないダメージエフェクトと共に、オリハルダイン・オラトリアの絶叫が響く。



 悪くないダメージが入った、このまま……っ!?


 空中で身を捩って着地したオリハルダイン・オラトリアが、目映い光を灯す前脚を畳み込む。


 来る───ッ!



 次の瞬間、放たれるは破滅の光。

 前脚に溜め込まれたエネルギーを一気に放出するその一撃は、軽々と地面を砕きながら遥か後方へと突き抜けていく。



「いきなりぶっぱしても、当たるとは思わないでよね!」



 なんて強がる私は、実は冷や汗だらだらだ。

 音速を超える一撃なんて、見てから避けるのは無理。常に相手の正面に入らないように動いてるだけで、回避もかなりギリギリだ。



 【サードギア】発動!

 【セカンドギア】の効果が終了し、白い煙が上がる私の脚が再び動力を取り戻す。


 あんな高威力の技を放っておいて、オリハルダイン・オラトリア自身も当然無事ではない。反動により身体を大きく仰け反らせながら、ダメージエフェクトを散らす姿は、私から見れば明らかな隙だ。



「私が今できる最強モード、見せてあげるわね!」


 ・おっ

 ・最強モード?

 ・ここからまだ上があるの?



 左手を腰に当て、振り上げた右手を振り下ろしながら顔の横に持ってきて横ピース! そしてアビリティを口遊む———


 【アイドリング・ルーティーン】は、設定したポーズと共に他のアビリティを使用することで、そのアビリティの効果を倍にする効果を持つ。


 アイドルっぽい可愛い振り付けから発動するアビリティは———



「【ファイナルゼーレ】!」



 【ファイナルゼーレ】は、残りHPが少ないほど他のステータスを大きく上昇するバフアビリティだ。『禍ツ風纏まがつかぜまとい』の効果によって私のHPはすでに1……減少分のおよそ90%のステータス上昇量が、【アイドリング・ルーティーン】の効果によって倍になる!


 90%×2と『禍ツ風纏まがつかぜまとい』による100%のバフが合わさり、一気に私のステータスは数倍に膨れ上がるのだ!



 一瞬遅れて体勢を整えたオリハルダイン・オラトリアが、眩い光が灯るもう片方の前脚を———



「こっちよ」


 ・っ!?

 ・はっや!?

 ・瞬間移動かよww



 私の声は、オリハルダイン・オラトリアのすぐ下から。

 前脚を畳んだ瞬間に、オリハルダイン・オラトリアの死角へと飛び込んだのだ。


 全てを叩き壊すようなあのシャコパンチも、そのパンチよりも内側に入ってしまえば怖くない。いかに目が良くても……いや、目が良すぎるからこそ、その目を潰されたら知覚感覚が激減する。


 私がここまで接近するまで、気づかないほどにね。



「“妖仙流棒術”———【風花】」



 シャコパンチが放たれる寸前、横から【風花】を突き入れて方向を斜め前へ。次いで、振り切った前脚を掴んだ私は、身体を捩じ込んで前脚を背負う。



「“妖仙流柔術”———【小夜嵐】!」



 停止からトップスピードへ———『鴉天狗』に及ばない加速力は、バフによる高ステータスで埋める!


 まるでスローモーションのようにふわりと浮いたオリハルダイン・オラトリアの巨体は、次の瞬間、轟音と共に地面へと叩きつけられた。



 さぁ、チェックメイトだ。


 インベントリを操作した私の手元に、一本の剣が現れる。

 銘を、『ストリームライン付与剪断特化5段階強化アルブス・グラディウス』———以前、Mr.Qクウが使用していて、堕龍・タイタン型の腕を簡単に斬り落としたというヤバい剣だ。


 対オリハルダイン・オラトリアの秘密兵器として、ヘルメスさんが私にくれたのだ。一応、『恋人ザ・ラバーズ』の素材のお礼として。


 耐久が低すぎてたった一回しか使えないから、ここぞというタイミングでしか使えない切り札だ。


 今がその時!



「キュロ———ッ!」



 仰向けに倒れたオリハルダイン・オラトリアの口へ、アルブス・グラディウスが深々と突き刺さる。甲殻を避けたとは言え、スコンッとあっけなく刺さったあたり、えげつない切れ味なんだろう。


 おっと、まだ動くの?

 なら……



「“妖仙流剛術”———【紫電】!」



 アルブス・グラディウスを避雷針として、紫の雷が弾ける。圧倒的な衝撃波がアルブス・グラディウスを破壊するよりも早く……柄まで押し込まれた剣の切っ先は、確かにオリハルダイン・オラトリアの神経を断ち切った。


 ビクンッと一度だけ身体を跳ねさせたオリハルダイン・オラトリアは、直後に地面へと力なく崩れ、そのまま二度と動くことはなかった。



『レアモンスター: オリハルダイン・オラトリア を討伐しました!』

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