VS オリハルダイン・オラトリア 3

まえがき


目指せ★1000


─────────────────────


 『妖気解放』が切れると『妖仙之姫ようせんのひめ——戦舞装せんぶのよそおい』は強制的に解除されてしまう。


 そうなると装備なし状態になってしまうので、少し余裕をもって『冥蟲皇姫インゼクトレーヌ』シリーズに変更してある。



 問題のオリハルダイン・オラトリアはというと……



「多少はダメージを受けてはいるけど、まだまだピンピンしてるわね」


 ・ヤバくね?

 ・こりゃ確かに最強モンスター談義で上位にくるわ

 ・カニが全部一撃だもんなぁ



 硬さ自体はカニと変わらないどころか、もしかしたら多少低いのかもしれない。けど近づいた瞬間粉砕されるから、カニの猛攻もまともに届いていないのだ。


 それを可能としているのは、強力無比のシャコパンチはもちろんのこと……機械のようにギョロギョロと動く目と、身体をバネのように跳ねさせる胴体の力だろう。


 これだけの破壊力を持ってるのに、地味に機動力が高いのが辛いわ……。



 となると、やっぱりあの目を潰すのが先決だよね。

 シャコの目ってアホみたいに性能が高いらしいし、そこを潰せばかなり戦力をそぐことができるはず。



 ・カローナちゃんもっと喋って

 ・黙ってるときは集中してる証拠

 ・この時間もカローナ様の配信の醍醐味だよね



「あ、ごめんね! とりあえず、あの特徴的な目を何とかしたいと思いまして」



 【変転コンバージョン】を掛け直して、と……。

 ついでに首から提げた翡翠色の結晶を指で弾き、『禍ツ風纏まがつかぜまとい』を発動する。


 刻一刻と削れていくHP。

 そもそも一撃受けたら終わりなんだから、HPが1以上あれば問題ないでしょ。



「【アンシェヌマン・カトリエール】起動!」



 瞬間、私の身体は弾かれたように宙を翔け、一気にオリハルダイン・オラトリアへと肉薄する。【スーパー・ビジョン】の効果によってゆっくりと流れる世界の中、私はオリハルダイン・オラトリアと目が合った。


 ちょっと怖い。



「ふっ……!」



 回転と空中ジャンプを駆使してオリハルダイン・オラトリアの殴打を躱し、背後に回り込んで薙刀を振り下ろす!



「【兜割かち】!」



 ガキィンッ! と甲高い音を響かせ、薙刀の刃がオリハルダイン・オラトリアの目の根元と激突する。


 やっぱりめちゃくちゃ硬い……というか火花が散るって、こいつ金属か何かでできてるの?



「っと……!」



 オリハルダイン・オラトリアの尻尾が地面を強烈に叩き、その巨体が跳ね上がる。私も空中に跳ね上げられるのだけど……【アンシェヌマン・カトリエール】と【無重力機動アグラビティ・マニューバ】が使える私の空中機動力は十分に高い。


 自分から空中に跳ねたこいつは、墓穴を掘ったということだ!



「【界分擬境】!」



 空中を駆け抜け、すれ違う一瞬の間に無数の斬撃を叩き込む。

 重なって響く音とダメージエフェクトを置き去りに、離れていく身体を無理矢理引き戻し、再び薙刀を振り下ろす。


 オリハルダイン・オラトリアが着地するまで、残り1秒……いや、まだいける!



 叩きつけた薙刀を起点に、オリハルダイン・オラトリアの頭側へ身体を回転、そして———



「【ドゥルガー・スマッシュ】!」



 オリハルダイン・オラトリアの顔を下から掬い上げるように、多段ヒットアビリティを叩き込む!


 私とオリハルダイン・オラトリアの間で弾けた幾撃もの衝撃波は、オリハルダイン・オラトリアの巨体を僅かに浮かせ、私の身体も容赦なく弾き飛ばす。


 そんなノックバックも歯を食いしばりながら空中ジャンプで無理やりキャンセルし、拳を握った私は———



「キュロォォォッ!」


「っ!?」



 耳を劈く叫び声を上げたのは、オリハルダイン・オラトリアだった。


 まだ炸裂している途中だった【ドゥルガー・スマッシュ】の衝撃波を一発のシャコパンチで押し返し、期せずしてそれは私が放たんとしている2撃目へのカウンターとなったのだ。


 避けられ———いやっ! 【無重力機動アグラビティ・マニューバ】!



 死が目前に迫った私の脳は、瞬時に正解を叩き出す。

 すなわち、この一撃を避ける方法だ。



 【アンシェヌマン・カトリエール】の回転によって後転すると同時、黒い泡のようなエフェクトを纏う脚を、迫りくるシャコパンチに合わせる。


 【無重力機動アグラビティ・マニューバ】の効果は、歩行行動を経ず・・・・・・・移動を可能にするアビリティ。その運動エネルギーは、脚に発生する斥力・・による。


 つまり、脚の裏に一時的に反重力場を作り出すことによって、空中を滑るように移動することができるのだ。



 迫りくるシャコパンチに脚裏を合わせると……発生している反重力場によって私の身体は攻撃から離れる方向へと反転し、逃れることができる!



「っ……」


 ・ひぇっ

 ・何が起こった!?

 ・速すぎて見えん

 ・当たっ……てない!?



 自身のすぐ側を通り抜ける風圧に顔を歪めつつ、2発目を警戒してオリハルダイン・オラトリアの横へと回り込む。身体の構造上、前にしか打撃を放てないからね。



 とはいえ、オリハルダイン・オラトリアの前脚には、すでにはっきりと分かるほどに光が灯っている。次にいつ、あの極大威力の攻撃が飛んできてもおかしくない状態だ。



 けど、ここで『下がる』なんて選択肢はない。

 右手に薙刀を握り、左手は地面について前傾姿勢をとる。

 逃げる気などさらさら無い、クラウチングスタートの構えだ。


 そもそも遠距離攻撃を持たない私は、近づかないと攻撃できないしね。



 よーい……ドンッ!


 自分の中でスタートの鐘を鳴らすと同時、【ドゥヴァン・デブーレ】のAGIバフをかけ【アンシェヌマン・カトリエール】の直線移動で地面を蹴る。


 【スーパー・ビジョン】と【千里眼】によって目から漏れるエフェクトが空中に軌跡を描き、それが消えるよりも早く───私の身体はオリハルダイン・オラトリアの顔を射程圏内に捉えている!



「ふっ……!」


 ・えっ、あっ

 ・いかん、追い付かん

 ・速っww

 ・避けられ……いや、もう当たってんのかこれ



 このスピードにも反応し、回避行動を取ったオリハルダイン・オラトリアはさすがだ。


 けどその回避行動も、移動した勢いのまま拍子をずらして放った私の【蜂閃華】がヒットしたあとだ。



 避けたはずなのに、ダメージを受けている……その小さな綻びは、より大きな混乱へと広がっていく。



 【ファイアー・ボール】発動───と見せかけて。


 魔法系のアビリティは、放つ時に必ず魔法陣を伴う。それは小さくても私の身体を隠せるほどだし、放たずにキャンセルすると消えるまでに1秒かかる。


 今私がやったみたいにね。



 消えるまでにほんの1秒だけしか存在できなかった魔法陣にさえ、驚異的な動体視力を持つオリハルダイン・オラトリアは反応してしまう・・・・・・・


 その魔法陣を正眼に捉え、前足を畳むオリハルダイン・オラトリアの横っ面へ、【セカンドギア】と【エア・スリップ】でさらにスピードを磨いた私の【グラン・ペネトレイション】が突き刺さる。


 クリティカル発生と共に残る、会心の手応え。



 見えてるのに、避けられない。

 不思議だろう?


 私のスピードが見えている動体視力はさすがだけど、その巨体ゆえに身体を動かすまでの早さはそこまで早くない。


 そのラグこそが、オリハルダイン・オラトリアの最大の弱点だ。



 要するに……全ての攻撃を、見てから反応するまでのコンマ何秒の間に収めれば、一方的に有利を取れる!



「っ……!」



 バチンッ! と地面を強く叩き、オリハルダイン・オラトリアが後退する。


 あぁ、そうだ。

 前方にしかシャコパンチを放てない性質上、一度距離を取るしかない。


 これも読み通り……そして、そこはまだ【ウェーブスラッシュ】の攻撃範囲よ!



「キュルオッ!」



 離れたはずのその瞬間に、オリハルダイン・オラトリアの両目へ、範囲攻撃の衝撃波が襲いかかる。


 距離による威力減衰で大したダメージにはなってないけれど、視界が潰れるその隙は、あまりにも大きい。


 入れるなら、ここしかないだろう!



「水鏡に凪げ、浮世現世うきようつせ嘆く月下の盃───」



 ———『酒天童子』、起動!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る