VS オリハルダイン・オラトリア 2

 オリハルダイン・オラトリアが放ったパンチが、空気の壁を突破する音を響かせる……それはつまり、その一撃が音速を越えている・・・・・・・・ということだ。


 直後、拳から放たれたオレンジ色のエフェクトを纏う衝撃波は、轟音と共に地面を抉り、空気を焼き、巣穴から出てきていた無数の金剛蟹をことごとく砕きながら、地平線の彼方まで突き抜けていった。



 ───私が回避できたのは、ただの勘のお陰であった。


 巣穴から出てきたオリハルダイン・オラトリアの拳に灯る眩い光を見て、私の勘が警鐘を鳴らしたのだ。


 ただ漠然と、『これはヤバい』と。

 『鴉天狗』状態になっていたのは幸いだった。その爆発的な加速力をもって反射的に真横へ飛び込んだ私は、直後に発生した衝撃波にバランスを崩されながらも回避に成功していたのだ。



 ・ひぇぇ……

 ・シャコパンチえっぐ!?

 ・ワイバーン型の最後のブレスがこんなんじゃなかった?

 ・普通のレアモンスターが撃っていい威力じゃない……

 ・カローナ様よく避けた!



 しかし、安心してもいられない。

 オリハルダイン・オラトリアの拳に灯る光は、もう片方にもあるのだから。



「【無重力機動アグラビティ・マニューバ】!」



 オリハルダイン・オラトリアの目がこちらを向き、身体を反転させると同時に、私は逆方向へと宙を駆ける。


 再びの破裂音───直後の衝撃波がフィールドを破壊するも、すでに私の姿はそこには無い。



「【兜割かち】!」



 私はすでに後ろよ!


 【無重力機動アグラビティ・マニューバ】でオリハルダイン・オラトリアの背後に回り込む勢いのまま、その頭へ『蟹剛金箍』を叩き込む。


 ガキィンッ! と金属同士がぶつかる甲高い音が響くも、オリハルダイン・オラトリアから漏れたダメージエフェクトは僅かなものだ。



 こいつもこいつで硬すぎる……っ!



「おっと……!」



 オリハルダイン・オラトリアが、身体をバネのようにして跳ねた勢いで私も弾かれ、身体が宙を舞う。


 やつの身体の側面に生えている刺が掠ったのか、私の脚からは僅かなダメージエフェクトが漏れていた。


 カニを簡単に砕くパンチに、私のアビリティも弾き返す硬さ、そしてその甲殻自体もそこかしこが鋭く、武器のような鋭さだ。


 全身凶器みたいな生物だ。



「っ!?……いやとりあえず大丈夫かな……」



 宙を駆けて体勢を整える私を正眼に捉え、再び前脚を畳むオリハルダイン・オラトリアの姿を見て、またあの攻撃がくるのかと身構えた私だったけど……


 オリハルダイン・オラトリアの前脚から光が消えているのを見て、すぐにはあれ・・は来ないだろうと思い直す。



 光が消えたということは……あの一撃はチャージして放つタイプの技ということだ。


 まぁそうだよね。

 あんな威力をポンポン撃てたら、今頃カニは絶滅しているだろうし。


 問題は、チャージにどれだけ時間がかかるのかだけど……



「「「キュララララッ!」」」


「おっ?」



 地響きと共に何かがこちらへ向かってくる……というか、向かってくるのはカニしかいないんだけどね。


 普段は縄張りから出てこないカニだけど、その巣穴を消し飛ばされてしまったら話は別。


 そもそも金剛蟹を捕食するオリハルダイン・オラトリアは、彼らにとって宿敵。共通の敵が現れたことで逆に結束力が強まったようで、無数のカニがオリハルダイン・オラトリア目掛けて吶喊を始めたのだ。


 ラッキー!

 これに乗じて、オリハルダイン・オラトリアをぶっ倒す!


 たまたま呉越同舟となった私とカニ達は、オリハルダイン・オラトリアという共通の敵に立ち向かった。


 あれだけの強さのカニが大量にいるのだ。いかにレアモンスターと言えど、無事では済むまい!



        ♢♢♢♢



 なんて、数分前に思っていた自分を殴りたい。

 それからほんの数分後、目の前に広がる光景に、私は驚愕を隠せずにいた。



「嘘……このシャコ、強すぎ……?」


 ・こいつ最強では?

 ・これでユニークじゃないとかマジ?

 ・やっぱモラクス火山って地獄だわ



 カニがオリハルダイン・オラトリアに殺到した後、私は自分にヘイトが向いていないことを良いことに、攻撃に巻き込まれないように気を付けながらヒットアンドアウェイを繰り返したのだけど……


 風向きが変わったのはそれからすぐだった。



 前脚に光が灯っていなくても、カニを砕くには十分すぎたようだ。

 オリハルダイン・オラトリアにカニが近づく度に、破壊音と共にカニが砕け散る。


 複数のカニに捕まっても黄金の甲殻はハサミを通さず、バネのように身体を跳ねさせて押し返し、再びシャコパンチで吹き飛ばす。


 その全てが、一撃。

 オリハルダイン・オラトリアの射程圏内に入った瞬間、カニは次々と消し飛ばされていく。ワ〇パンマンかよ! と声を荒げたくなる光景だった。



「と言っても、悪いことばかりじゃないわね」


 ・やってることがせこくて草

 ・ちゃっかりしてますわ

 ・火事場泥棒で草



「いいじゃない、ちょっとぐらい!」



 まったく……せっかく周囲にカニの素材がたくさん落ちてるから、拾い集めてただけじゃない。火事場泥棒なんて失礼しちゃうわね。



 気を取り直して……近づくのが怖いから、少し離れたところから【妖仙流柔術】を使ってカニを投げまくっていた私は、すでに妖気ゲージは0になり、鴉天狗が解けてしまっている。


 妖気ゲージを溜め直すとして……大量のカニとの戦闘もほとんど消耗なしに切り抜けたオリハルダイン・オラトリアとのタイマンだ。



 集中するから、コメント返せなかったらごめんね!

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