VS オリハルダイン・オラトリア 1

「さーて、またやってきましたよ~!」


 ●オルゾ・イツモ:[¥5,000] 待ってました!

 ・オープニングでカローナ様のテンションが高い配信は何かやらかす前兆

 ・いつもハイテンションだろ

 ・ゆうていつもよりほんのちょっと声が高いから、新しい何かを隠してる

 ・AIみたいな視聴者が現れて草



「あ、やっぱりわかっちゃいます? いよいよ本格的に【モラクス火山】の攻略の目途が付きまして、今日はそれで来たんですよ」



 私の目の前には、相変わらずの鉛色の空と灼熱の大地が広がっている。視界の先にはカニの巣穴が幾つも開いており、静かなように見えて地獄が待っているようだ。



「さ、皆さん待ちきれないだろうし、パワーアップした私は実戦で見せてあげるわね!」



 『酒吞童子』の獲得、【妖仙流剛術】の習得、覚醒システム……いろんな要素でさらに強くなった自信があるのだ。試してみなきゃもったいないよね!



        ♢♢♢♢



「とりあえずは、妖気ゲージを溜めないとダメだし……カニで肩慣らしね」


 ・カニが肩慣らしはヤバい

 ・え、今のカローナ様そんなレベルに居るの?



「あ、さすがに討伐はできなさそうだけどね」



 あくまで妖気ゲージを溜めるだけ。

 “剛術”を使っても簡単に甲殻を砕けないだろうし、時間を掛けて消耗するのは避けたい。


 金蝦蛄と戦う時に本気出すもんね!



「キュララララッ!」


「【クロワゼ・デリエール】!」



 穴から飛び出してきた巨大なハサミを躱し、【変転コンバージョン】と【マキシーフォード】、【スーパー・ビジョン】で自身にバフを盛る。


 ゆっくりと流れ出す景色の中で、穴から姿を現す金剛蟹へ———



「【界分擬境かいぶんぎきょう】!」



 ほんの1秒の間にマシンガンのように連続した炸裂音が鳴り響き、カニのハサミが頭上へと跳ね上がる。


 迎え撃ったわけではなく引き戻そうとしたハサミに当てたとはいえ、威力は十分。これで弾けるなら隙を突き放題よね。



 とりあえずカニが体勢を整える前に【グラン・ペネトレイション】を一発叩き込み、ダメージを稼ぐ。こういう僅かな隙も突けるから、AGI振りビルドはやめられない。


 跳ね上げられたハサミを地面に突き立て、声を上げるカニの動きさえ、【スーパー・ビジョン】の効果中の私に取っては緩慢なものだ。



 さーて、ウォーミングアップはこれぐらいでいいでしょう……。



「皆さん、ここからは瞬き禁止ですよ!」


 ・何するつもりなの

 ・カローナ様を見るためにもうずっと前から瞬きしてないが

 ・瞬きしなくても見失うんだよなぁ

 ・改めて忠告されると怖い



 ま、動きが劇的に速くなるわけじゃないんだけど、より自由に・・・・・なるから見失いやすくなるんだよね。


 ……そこは、視聴者さん達の動体視力次第ってことで。



 【グリッサード・プレシピテ】×【グラン・カブリオール】×【トゥール・アン・レール】×【グラン・ジュテ】……私の高機動を支える4つのアビリティを捧げた、四連覚醒・・・・アビリティ———



「【アンシェヌマン・カトリエール】、起動!」



 ———刹那、直線移動と空中ジャンプを同時に使用した動きでカニの後ろを取った私は、いまだ私が動き出したことにすら気づいていないカニのお尻へ、【双舞鶴】をぶち込む。


 【双舞鶴】がそのノックバック効果を発揮しきるよりも早く、前につんのめったカニの背中の甲殻をなぞるように移動した私は、回転の勢いのまま拳を握る。


 【ドゥルガー・スマッシュ】発動!


 カニの顎へクリーンヒットした私の拳は、花火のように幾重ものエフェクトを弾かせる。一撃で12ヒットの多段攻撃が、確かにカニの身体を浮き上がらせた。



 明らかな隙!

 【双舞鶴】と【ドゥルガー・スマッシュ】により完全に地面から浮いたカニの下へ身体をねじ込み、【ドゥルガー・スマッシュ】の残りの2発を叩き込む!


 一瞬にして計24ヒットの打撃が叩き込まれ、空中に居たカニは抵抗すらできずに天地が反転する。その一瞬を、今の私が逃すわけがない。



 【アンシェヌマン・カトリエール】の効果は、覚醒に使用した4つのアビリティの効果……『大ジャンプ』、『直線移動』、『空中ジャンプ』、『回転』を、一定時間内のみ使い放題というぶっ壊れ性能だ。


 上下が反転したカニの真横を大ジャンプで抜け、回転と空中ジャンプの応用で、頭を地面に向けて・・・・・・・・空中に着地した私は、薙刀の切っ先を向ける。


 狙うのは口だ。



「【兜割かち】!」



 大ジャンプと直線移動を合わせた高速移動で振るう薙刀が、寸分違わずカニの口へと吸い込まれる。


 そのままの勢いで地面へと叩きつけると、少なくないダメージエフェクトが弾ける……が。



「おっと」



 慌てて薙刀を引き抜く。

 カニが口を動かした瞬間、ミシッてちょっと嫌な音がした気がしたんだよね……。普通のモンスターならともかく、金剛蟹に思いっきり噛まれたら『魔皇蜂之薙刀』でも折れそう……。



 ・……は?

 ・普通にカニを追い詰めてない?

 ・ダメージ的にはまだカニはピンピンしてそうだけど

 ・でもカローナ様はノーダメだから、このままなら余裕で討伐できない?

 ・カローナ様に覚醒アビ持たせたらこれほどになるのか……



「いやでも、実際覚醒システムが楽しくてね!」



 普通のレベルアップでは獲得できないアビリティも覚醒システムで手に入れることができ、一段上のステージに到達した気分だ。


 ただし、覚醒アビはリキャストが長めだから、そればかりでは困るけど。



 起き上がるカニに向けて【グラン・ペネトレイション】を放り込みつつ、ダメージを稼ぐ……と、ここで妖気ゲージが100%に到達。


 うーん……ここで『酒呑童子』を使ってもいいんだけど、カニを倒すまでにタイムオーバーになりそう。カニは倒せるだけど、妖気ゲージを溜めるための戦闘だったから、妖気ゲージを消費していては本末転倒だ。


 何より、ここで『酒呑童子』のお披露目は、クライマックスではないから動画的に微妙……。



 ……カニさんには申し訳ないけど、ちょっと後回しにしよう。

 今回の目的は、金蝦蛄だからね!



「 ———”くろく、くろく、くろく、蒼窮覆う黒の迦楼羅天”———『鴉天狗』起動!」



 肌がほんのりと黒く変色し、背中には妖気でできた黒翼が生えてくる。そしてぶっ飛んだAGIで目指すのは……もちろんオリハルダイン・オラトリアのところだ。



「ごめんねカニさん! 後でまたお礼参り・・・・しに来るから!」


 ・お礼参りは草

 ・台詞がヤンキーのそれなのよ

 ・カローナ様はヤンキーだった?



「私は清楚系ですぅっ!」












 金蝦蛄……オリハルダイン・オラトリアの居場所は、一応事前情報からなんとなく見当がついている。『鴉天狗』のスピードなら、多少カニの縄張りに入ってもすぐに駆け抜けられるし、大丈夫でしょ。



 カニの縄張りも関係なく駆け抜けること数十秒……巨大な岩と地面との境目にぽっかりと空いた巣穴にたどり着いた。


 絶対にここだ・・・と言い切れる。

 だって、その巣穴の周囲に、カニの甲殻が散乱してるもん。

 絶対カニを食べてるよこれ。

 ここに居るのは、カニなわけがない。



 私の存在に気付いたのだろう。

 巣穴の奥にチラッと見えたのは、黄金の輝き。光を反射して怪しい光沢を放つ身体を持つそのモンスターは、機械のような眼球をぐりぐりと動かしながら私の前に現れる。



『レアモンスター: オリハルダイン・オラトリア に遭遇!』



 ———その直後だった。



「っ!?」



 【スーパー・ビジョン】の効果によってゆっくりと流れる景色の中でさえ、目にも止まらぬ速さ・・・・・・・・・で金蝦蛄の前足が振り抜かれる。


 パァンッ! と空気の壁を突破する音と共に、一瞬遅れて破滅的な衝撃波が私に襲い掛かった。

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