満たせ 浮世現世嘆く月下の盃
【妖仙流剛術】は、何も手でなければ発動できないわけではない。あくまで打撃と共に【雷】を叩き込み、相手を内と外の両方から破壊する技だ。
だから私が今やったみたいに、
『蹴りで【妖仙流剛術】を発動する』という発想を桔梗さんに悟られないように、私はずっと手でばかり戦ってきた。
そうしてミスディレクションを行い、今この瞬間、満を持して蹴りによる【妖仙流剛術】を当てることができたのだ。
二度と通用しない作戦ではあるけど、一撃は一撃。確かに私の技が、桔梗さんへとヒットしたのだ。
ヒットしたのだけど……何だこの感触。
まるで巨大な岩に蹴りを入れたかのように、びくともしない。
むしろ私が押し返されそうなほど重くて───
「"妖仙流
「う───」
嘘ぉ!?
という心の叫びが私の口から出るよりも早く、私の視界が大きく回る。桔梗さんに投げられたのだと察したときにはすでに平衡感覚が全てぶっ飛んで、右も左も……どころか、上も下も分からない状態だった。
なんとか【グラン・ジュテ】の残りの歩数で体勢を……と動き出そうとした私は、直後に耳に届いた「【
♢♢♢♢
———はっ!? 生きてるっ!?
ハッと目を覚ました私の視界に入ってきたのは、見慣れた闘技場の天井と、何やら話し込んでいる桔梗さんとカグラ様。
桔梗さんの【
というか、桔梗さんも“柔術”使えるのかよ!
柔術も剛術も使いこなすとか、近接最強かよ!!
……いや、私が割と簡単に【妖仙流】アビリティを習得できるぐらいなんだから、『百鬼夜行』の皆はむしろ
得意不得意があるというだけで、使えると考えた方が自然だ。
あー……完全に油断した……。
「目が覚めたか! あたいに一撃入れるとは、見事だったぞ!」
私が身体を起こすと、桔梗さんは目を覚ましたことに気が付いたのだろう。私にそんなことを言いながら、パァッと花が咲いたような笑顔で駆け寄ってきた。
「最後の最後でやられちゃったけどね……」
「気に病む必要はない。プレイヤーと酒呑童子という
「桔梗さん、なんだかうれしそうね……」
「もちろん! 強い奴が増えるのは大歓迎だぞ!」
他の【妖仙流】アビリティを使わなかったり、最後の一撃を外したりと、色々手加減をしておいて何を……と言いたいけど、本気で戦ったらボッコボコにやられるから言わないでおいた。
「カローナよ、元気にしておったか?」
「あ、そうだった。カグラ様久しぶり! もちろん元気だけど……カグラ様最近見なかったよね、何かあったの?」
「なに、旧友のところに遊びに行っておっただけじゃよ」
「カグラ様の友人って……それだけでなんかすごそう……」
「ただ女神をやっておるだけじゃ、大したことなどない。むしろカローナは関わらない方が身のためじゃ。自身の貞操のためにもな」
「ちょっと今サラッと凄いこと言わなかった!? 『女神やってる』って何!? 『貞操のため』って何!? 私女神さまに貞操狙われるの!?」
「あやつのことはどうでもよい。それよりカローナよ、見事【雷】を使いこなしたようじゃな」
「ス、スルー……カグラ様ってそういうところあるよね……。まぁ、ようやくまともに一撃入れたって感じかな?」
「今はそれで十分じゃ。なれば、【雷】も授けることとしようかの」
『アビリティ: 【妖仙流剛術──紫電】 を習得しました』
『ユニーク
「!!」
キタ——————ッ!!
おっと、某掲示板の人みたいになっちゃった。
いやでも、これは仕方がない。【妖仙流】アビリティだけでなく、ユニーク
妖気解放時に『鴉天狗』か『酒呑童子』かを選択できる感じか……戦いの幅がめっちゃ広がりそう。
「ありがとうございます、カグラ様!」
「こういう時にだけ調子よくなりおって……まぁ、お主らしくて良いのじゃが」
「別にいいじゃない。ごめんねカグラ様、今色々忙しくて、終わったらまたゆっくり話すわね」
「む……まぁ仕方がないのじゃ」
さーて、念願の強力な打撃系攻撃アビリティも習得したし、いよいよ【モラクス火山】攻略かなぁ。
オリハルダイン・オラトリア……だっけ? 金の蝦蛄っぽいレアモンスター。
ヘルメスさんの注文だし、【テルクシノエ】に行けるかどうかが賭かってるんだから、早めに倒しておかないとね!
事前情報だと、カニを消し飛ばす超火力らしいけど……果たしてどうなることやら。
素材を持って帰る必要があるから、なるべく甲殻を壊さないで綺麗に持って帰りたい……って、そんなことを心配するほど、甲殻は柔らかくないかな。
でも万が一もあるし、最近動画で勉強した『エビ・カニの〆方』を実践するときが来たかな……。
大きくて鋭い、串みたいなものがないかなー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます