”剛”を以て”剛”を制す 後編

 私と桔梗さんは、鬼幻城の地下にある闘技場で対峙する。

 相対する桔梗さんは、目にはっきりと闘志の炎を燃やし、不敵な笑みを浮かべている。


 よほど自信があるのだろう。

 まぁ、私を一撃で消し飛ばす威力のアビリティを自由に使えるんだから、そりゃ自信もつくか。


 今回は、その自信を利用させてもらうわよ?



 先手は……私だ。



「ふっ……!」



 【マキシーフォード】と【ドゥヴァン・デブーレ】でAGIにバフを掛け、腰だめに佩いた『蟹剛金箍かいごうきんこ』で範囲攻撃アビリティ【ウェーブスラッシュ】をチャージ。


 桔梗さんの性格上、『範囲外に逃げる』なんてことをしないはず。



 だからこそ———ほらきた。



「っ!」



 踏み込んできた桔梗さんを見て、【ウェーブスラッシュ】を即時キャンセル。すぐさま“妖仙流棒術”——【風花】でカウンターを狙う。


 さて、このまま私に攻撃を仕掛ければ、手痛いカウンターが待っているが、加速した桔梗さんの脚は、簡単に止まらない。


 というか、そもそも止まる気はないようだ。

 迷いなく踏み込み、握りこまれた桔梗さんの拳には、バチバチと電光が迸っていた。


 本来相手の勢いを利用する【妖仙流棒術】は、【妖仙流剛術】と正面からぶつかるには不利。いきなり“剛術”のぶっぱとは……桔梗さんも出し惜しみはしないようだ。



 と、私が冷静に思考していられるのも、今のところ桔梗さんの動きは私の読み筋だからだ。


 “棒術”は“剛術”を使わせるための囮。

 すでに“棒術”をキャンセルし、身体を沈めた私は、拳を振りかぶる桔梗さんの懐へ———



「【双舞鶴】!」



 強力なノックバックアビリティを叩き込む!


 【双舞鶴】は、【連獅子】から進化したアビリティだ。

 『ステップ系アビリティを使う程』という条件が外れ、いきなり放っても十分なノックバック効果を発揮してくれるアビリティだ。


 その分、リキャストが長いというデメリットはあるけど……



 私が振るう『蟹剛金箍』が、桔梗さんの華奢な身体へと吸い込まれ———



 ———ガキンッ!

 という、生身の身体が出すには明らかに異常な音と共に、吹き飛んだのは私の方・・・だった。



「っ!?」



 何それ!? 私が吹っ飛ぶの!?


 以前、『魂を喰らう魔剣ソウル・プレデター』によって『プレデター』となったプレイヤーが、私の【神斬舞】を耐えたのとはどこか異なる。


 まるでノックバックがそのまま返ってきたような感覚だ。



 くっ……【グラン・ジュテ】起動!


 吹っ飛ばされたのは仕方がない。【グラン・ジュテ】の空中ジャンプによって体勢を整え、再びの桔梗さんとの衝突に備える。


 幸いにもノックバックによって間合いが空き、大振りなアビリティを振り回すだけのスペースはある。



 見せてあげましょう……三連覚醒・・・・アビリティ———



 【恋人ザ・ラバーズ】の獲得によってスルーしていたけど、レベルが99に到達したことによって、新しい機能が追加されていた。


 それが、アビリティの『覚醒』システム。


 レベルが上がるほどに様々なアビリティを獲得することができる一方、使わないアビリティも発生してくる。その救済のためのシステムだ。


 簡単に言うと、選択した2つ以上のアビリティを消費して覚醒し、別の新しいアビリティを獲得することができるのだ。



 当然私も、このシステムが解放された後、色々なアビリティを覚醒して試してみたのだ。これはその一つ———



 【闘殴乱舞】×【シークエンスエッジ】×【パワーノック】の三連覚醒!



「【ドゥルガー・スマッシュ】!」


「ふぉっ!?」




 私の拳から放たれた、一撃12発の多段ヒットアビリティの衝撃波が、急遽ブレーキを踏んで上体を逸らした桔梗さんの真上を突き抜けた。


 残念、ヒットなし。

 けど、【ドゥルガー・スマッシュ】は3撃まで連続で放つことができる!


 ……と見せかけて。



「“妖仙流剛「“妖仙流柔術”——【小夜嵐】!」——!?」



 『【ドゥルガー・スマッシュ】は3撃まで連続で放つことができる』、それ自体がブラフ!


 2発目を押し返すつもりで“剛術”を使おうとする桔梗さんの行動を読んでいた私は、【ドゥルガー・スマッシュ】を1発だけ放って残りは捨て、“柔”よく“剛”を制す!


 同時に発動した【スーパー・ビジョン】によって視界に移る全てがゆっくりと流れる中、等速・・で迫る桔梗さんの腕を横から叩く。



 私が梵天丸さんと戦っている時、【大伐断】の軌道を曲げられたように……【嵐】は【雷】を飲み込むのだ!



「ふんっ……!」



 ちょっとはしたないけど、男性のように気合を一発。身体ごと巻き込むように桔梗さんの一撃を逸らし、その勢いのまま桔梗さんの襟を掴み———



「くっ……!」



 瞬時に一歩下がった桔梗さんの道着を掴めず、私の手は空振りして桔梗さんの前を通過していく。空振りは残念だけど……



 これでいい・・・・・のだ。本命は———!



「“妖仙流剛術”———【紫電】!」


「ッグ……!?」



 苦悶の声は、桔梗さんの口から。

 桔梗さんの“剛術”を逸らした回転の勢いのまま放った、紫の雷を纏った回し蹴り・・・・が、確かに桔梗さんの鳩尾へと突き刺さった。

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