”剛”を以て”剛”を制す 前編

まえがき


ちょっと最近モチベが低下しておりました、すみません……


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「遅いぞカローナ、待ちくたびれたぞ!」


「ごめんね、桔梗さん」



 ようやく、桔梗さんとまともに対峙する時がきた。


 元々レベリングが終わったら挑むつもりだったし、"恋人ザ・ラバーズ"とその取り巻きを大量に狩ったことにより、一気にレベル99カンストまで到達することができたのだ。


 待たせたのは数日だったけど、バトルジャンキーな桔梗さんは待ちきれなかったのだろう。頬を膨らませてプンスカ怒る桔梗さんは、申し訳ないけど可愛い。



「でも待たせた分だけ期待以上のものを……というか、宣言するわね」


「何をだ?」


「今日中に桔梗さんから一本取るわね」


「ほう……」



 桔梗さんが、ニィッと獰猛に口角を上げ、鋭く伸びた牙を覗かせる。深紅の瞳の奥で縦に割れた瞳孔が怪しい光を帯び、今すぐにでも襲いかかってきそうな闘志だ。


 ……そんな彼女に水を差して悪いけど……



「その前にちょっと協力してもらっていい?」


「……すぐに仕合をするのではないのか……」


「そんなに悲しそうな顔しないで……今から【妖仙流剛術】を習得してみせるから」












 場所を変え、桔梗さんと共に闘技場へと足を運んだ私は、『妖気解放』を行いつつ桔梗さんへと疑問を投げかける。



「桔梗さん、【妖仙流剛術】を扱うのに必要な能力って何?」


「ん? そんなの、雷に耐え得るだけの耐久力だろう?」


 やっぱりそうか。

 私が【妖仙流剛術】の発動に失敗して自爆したとき、感覚的にはモンスターの攻撃を受けたのと同じような感じがしたのだ。


 それはつまり、私自身の耐久が足りず、超過分のダメージを受けてしまったということ。


 これは、『アビリティの取得に要求されるステータスを満たしていない』からではないかと考えたのだ。


 【妖仙流柔術】は、最低速度と最高速度を参照する───つまり、プレイヤーにはAGIを要求する。


 【妖仙流棒術】は、おそらくDEX。

 当時からDEXにポイントを振っていたから、十分条件を満たしていたはずだ。


 ここまでで予想される【妖仙流】アビリティの取得条件は……

 ①妖怪の誰かとの仕合のフラグを立てること

 ②【妖仙流】アビリティによって要求されるステータスを満たすこと

 ③仕合をする妖怪から一本取ること

 ……かな。あくまで予想だけど。



 それで、【妖仙流剛術】に要求されるステータスなんだけど……桔梗さん曰く、VIT……いや、この場合はVITとSTRのバランスかな。


 威力を十分に炸裂させるSTRと、それに耐え得るVIT、そこに妖気解放を合わせて【妖仙流剛術】の完成だ。



 そんなわけで私が今からやるのは、【妖仙流剛術】が使えるギリギリのラインを見極めるため、レベルアップで貯めたポイントをVITに少しずつ振りつつ、【妖仙流剛術】の習得を目指すのだ。


 他にも【妖仙流】アビリティが存在すると考えると、全部平均した感じのステータスがいいんだろうけど……ずっとアタック全振りのプレイスタイルだったから、そこは変えたくない。


 今さらVITやINTに多く振っても、使えそうなアビリティは生えてこないだろうしね。


 とりあえず、5ぐらいVITに振って、と……



 『妖気』を手に集中し、雷へと変換する。

 パチパチという空気を裂く音は次第に強くなり、目の眩むような閃光が───



「止めろ。暴走しかけているぞ」


「っと」



 『妖気解放』状態を解除し、強制的に妖気を霧散させる。もしこのまま続けていたら、前回の二の舞になっていただろう。


 やっぱり普段から妖気を使った戦闘をしているからか、妖気の異常に敏感なようだ。


 ここを読み間違えたら、自爆コースだ。

 今のが暴走直前の感覚ね……覚えておこう。



「痛みか違和感があっただろう? それはカローナの肉体が追い付いていないということ。また死ぬぞ?」


「そうね……気を付けるわ」



 再びステータスをVITに振り、『妖気解放』を行って【妖仙流剛術】の練習……これを繰り返して【妖仙流剛術】の取得条件を満たしていく。



 ……漫画とかでよくある修行パートとはかけ離れた、非常に地味でズルい感じだけど……まぁそこはゲームだからってことで。



 そんな風に調整し始めてしばらく───



「っ……おっ、もしかして……これきた?」



 妖気が変換された雷がバチバチと激しく荒れ狂うも、私への影響はない。

 いや、むしろ身体の奥から力が漲ってくる感覚すらある。


 なるほど、これこそが【妖仙流剛術】というわけだ。



「雷を外に漏らしてしまっているところは未熟ではあるが……及第点ではあるだろう」


「やった……!」


「そんなことよりだ! 仕合をやらぬか? もうつかえるのであろう!?」


「そうね……お待たせ桔梗さん。全力で楽しみましょう!」



 私は確かな感覚を掴み、晴れ晴れした表情で桔梗さんと向き合う。

 桔梗さんから放たれる空気が軋むようなプレッシャーは、さすが百鬼夜行に名を連ねる大妖怪と言ったところか。


 肌身に突き刺さるように感じるほどのそれを受け……私はにやりと口元を歪めた。

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