小さな孤島に潜む、大きな闇

「ジョセフさぁん!」


「随分騒々しいね。まずは落ち着きたまえ」



 謎解き系と言えば『アーカイブ』!

 ってことで、私とセレスさんはジョセフさんにアポを取って『アーカイブ』を訪れた。


 『病葉の舞う孤島』について知りたいと連絡したら、ジョセフさんが快く受けつけてくれた形だ。



「さて、我々の考察を語る前に、君達がどこまで気づいているか、教えてもらっても良いかな?」


「えぇ、簡単に言うと……『病葉の舞う孤島』のクエストをクリアした人が何人もいることが変だなって」


「このゲームはリアルタイム進行ですから、最初の一人が病気を治したのなら、それ以降のプレイヤーは病気がなくなった後の【テルクシノエ】を見るはずですわ」


「でもクエストに挑戦した人が見る度に病気に脅かされてるし、記憶がなくなってるかのように同じ展開が続くのよね」


「そこで、『【テルクシノエ】の島は同じ時間をループしている』、と考えたのです。いかがでしょう?」


「ふむ……」



 私とセレスさんが簡単にまとめた話を聞いたジョセフさんは、顎に手を当てて考える仕草をする。


 でも、たぶんこれぐらいの考察なら『アーカイブ』の人達なら当然考えてるだろうし、どこから話すべきかと考えてる、みたいな感じかな。



「まず一つ、君たちが『病葉の舞う孤島』のクエストをする中で、明らかにおかしいと思った部分はなかったかね?」


「明らかにおかしい? って言われると、村長さんの言い伝えの話は腑に落ちなかったけど……」


「それも後に関係するが、そこではない。……まず、あの島には無事な草木は存在しなかっただろう?」


「そうね。『呪われた亡者カースド・デッド』を倒した後に出現する緑の樹を見つけるのよね」


「うむ……そして、あの島には『呪われた亡者カースド・デッド』以外のモンスターは出現しない」


「そうですわね……魔法陣を描いている間も、モンスターが一体も出現しなかったですし。……今思えば、それも不思議ですわね」


「草木は全滅、モンスターは何も存在しない。そのうえ漁に出なくなって何年かという話だ。……彼らは何年かも分からない長い時間を、いったい何を食べて・・・・・生きてきたのだ・・・・・・・?」


「「っ!?」」



 ゾクッと背筋に冷たいものが走る。


 そうだよ、なんで気が付かなかった?

 NPCはアネファンの世界で生きているわけで、プレイヤーに『空腹値』があるように、NPCにも当然衣食住が必要となる。


 村長さんの話では、忘れるほど昔から病魔に侵されていたわけで……何年も何十年も、食料が全くない状態で過ごしていたことになる。



 『呪われた亡者カースド・デッド』だけじゃない。

 あの村に住む村人全員が、何かを隠している。



「それに関しての解答が一つある。村長の話にも出てきた、『転生の秘薬』だ」


「……やっぱりそうよね。あれが私もすごく引っかかってる」


「うむ、であるなら……この世界において、『転生』とはいったい何なのだろうか」


「え……転生って言うと、その言葉の通りなんじゃないの?」



 普通に考えるのなら、『死んだ人が別の命を宿して生まれ変わること』だろう。私だってそっち系への理解はある。『悪役令嬢転生RPG』シリーズの配信もやってたし。



「言い方を変えよう。このゲームの中で『転生』を見たことがないかね?」


「そう言われても……」



 セレスさんをチラッと見ると、彼女も首を傾げている。

 転生……?

 生まれ変わる……

 いや、『生き返る』だとしたら……



「まさか、リスポーン・・・・・?」


「その通り。彼らの言う『転生の秘薬』とは、我々が言う『リスポーン機能』ではないかね?」


「いや、それはっ……」



 『リスポーン機能』こそ、ゲームには必須の機能だ。それこそRPGだろうがFPSだろうが、ジャンルに関係なく備わっているべきであって、ゲームであるなら・・・・・・・・誰もそれに疑問を持つことはない。


 だからこそ、『リスポーン』という現象自体がストーリーに関係しているという発想にはならない。


 なるはずがない。



「そう、『リスポーン機能』は備わっていることが当たり前であって、誰もそれを不思議に思わない。それこそがこの謎を解くヒントではないかね?」



 そう前置きをして、ジョセフさんが『アーカイブ』としての考察を語る。

要約すると、こんな感じだ。



 全ての始まりは、言い伝えの中に出てきた『神』の登場。それまで普通の暮らしをしていた村人達は、神との遭遇によってプレイヤーのように『リスポーン機能』が備わってしまった。


 それ以降、死んでもリスポーンする身体……実質的に『不老不死』となった彼らは、何年も何十年も生きてきたのだ。


 飲まず食わずで餓死しても、復活するのだから。


 『呪われた亡者カースド・デッド』にもリスポーン機能が備わっているとしたら、クエストの後で彼は復活しているはずだ。



 そう考えると、同じクエストを何度もループしていることの説明が付く。



「しかし、この考察にも疑問は多く残る。『神』の正体とは何なのか? 『転生の秘薬』とは? 記憶が消えている現象については?」


「確かに、そればっかりは考えても答えは出ないわね」


「もう一度【テルクシノエ】を訪れる方法が、今のところ見つかっていないのだから、答え合わせができないのが歯痒いのだがね」



 もしあの島を本当に救おうと思うのなら、そのループが発生する前……つまり神との遭遇時に起こった何かを解決し、ループの前の状態に戻す必要が出てくる……ってところかな。



「しかし、それさえ解決できれば、我々は大きな謎を解くことができると考えている。つまり、プレイヤーとNPCとの間にある違いについての謎が」


「プレイヤーとNPCとの違い? それは、人が動かしてるのかAIが動かしてるのか、じゃなくて?」


「『転生の秘薬』によって【テルクシノエ】の村人がリスポーン機能を獲得したというのなら、他のNPCもリスポーンできるはずである。逆に言えば、我々プレイヤーも、『転生の秘薬』の効果によってリスポーンが可能となっていると考えることもできる。つまり……」


「まさか、リスポーン機能はもともとプレイヤーにも無かった、と言いたいんですの?」


「その可能性が高い。この問題を解決できれば、『この世界におけるプレイヤーとはどのような存在なのか』を解くカギとなるはずだ」



 そして———と、一度深呼吸を挟んだジョセフさんは、神妙な面持ちで続く言葉を積紡いだ。



「それは『アネックス・ファンタジア』の世界全体に影響を及ぼす、スペリオルクエスト・・・・・・・・・に繋がるものだと確信している」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る