紆余曲折してスタート地点に戻ってくる徒労感よ

「それは『アネックス・ファンタジア』の世界全体に影響を及ぼす、スペリオルクエスト・・・・・・・・・に繋がるものだと確信している」



 そう言い切るジョセフさんの表情は、自信に満ちたものであった。

 私よりも遥かに思慮深い人物だ。色々な面から考えた結果の結論なのだろう。



「マジ……?」


「うむ。堕龍おろち戦がそうだったように、スペリオルクエストは『アネックス・ファンタジア』の世界観に直結する内容であるはず。となれば、『リスポーン機能』という根本的な機能に関わるこれ・・は十分にその可能性があると考えている」


「『アーカイブ』がこの考察を公開しないのは、そういった理由ですのね」


「単純に裏が取れていないというのもあるがね」


「え、逆に裏が取れてたら公開するの?」


「当然そのつもりだ。我々の目的は、『アネックス・ファンタジア』の世界の謎を解き明かすこと。決してコンテンツを独占することではない」


「はぇー……」



 私だったら公開するの躊躇っちゃうけど……ゲーマーだったら『自分だけ』っていうのは憧れるからね。


 想定外に発生しちゃった『百鬼夜行』は別として。



「しかし、今のところもう一度【テルクシノエ】に向かう手段がないのだ。サレオスとやらは、クエストをクリアした者の前には現れないらしい」


「……ワンチャンできないか聞いてみる?」



 すんなりそう言い切った私にジョセフさんが何かを言う前に、私はその名前を呼ぶ。もちろん、私の相棒の名だ。



「カルラッ!」


「カ———ッ!」



 私の頭の上に現れたカルラが、翼を広げて声高らかに鳴き声を上げる。


 こらこら、髪型崩れちゃうでしょ。



「あっ、確かにその子はカローナ様を掴んで飛べますわね」



 セレスさんの言う通り、カルラは私を運べるほどの力強さがある。この子に連れていってもらえるんじゃないかと思ったのだ。



「ってことでカルラ、【テルクシノエ】まで私を運べる?」


「……ムリダトオモウ」


「えっ」


「あら……」


「な、なんで……」


「テルクシノエマデハ、ジキュウリョクガモタナイ」


 あー……なるほど。

 私を抱えたまま長時間は飛べないのか……さすがに途中で海に落とされたら嫌だしなぁ。



「あっ、一旦カルラだけで【テルクシノエ】まで行って、テレポートできるようにしてから改めて連れていってもらうのは……」


「それなのですが、なぜか【座標転移テレポート】で【テルクシノエ】には行けないようになってるのですわ。私の【座標転移テレポート】でも範囲外になっていますもの」


「えぇ、なんで?」


「外部からの魔法などを弾くような、何らかの細工が施されていると見ている」



 すかさずジョセフさんのフォローが入る。となると、海路で直接行くしか無くなるのか……。いっそのこと、プレイヤーの手で船を作るか? それでもどれだけ時間がかかるのか……



「……方法がないわけではない」



 唐突に口を開いたジョセフさんに、私とセレスさんの視線が集まる。ジョセフさんの表情は、どこか得意気な雰囲気が。



「元々、空に浮いている島に行くための手段として手を加えていたが……せっかくだ。二人にも協力してもらうことにしよう」


「協力って……何に?」


「見れば分かる。ついて来たまえ」



 そう言って移動を始めるジョセフさん。

 私とセレスさんは顔を見合わせ、仕方がないとついていくことにした。



        ♢♢♢♢



 ジョセフさんに連れられて、やってきたのは『アーカイブ』の地下室。堕龍戦の時でも入ったことが無かったけど、こんな部屋があったのね。


 ジョセフさんがアビリティを使って中を照らすと……



「えっ!? これってもしかして……あの時のヘリコプター・・・・・・?」


「その通り。【霧隠れの霊廟】に埋もれてしまったそれを、我々が回収してここに運んだのだ。誰も覚えていないようだったのでな」


「私もすっかり忘れてたわ」



 うーわっ、確かにそうじゃん。

 堕龍おろち戦が終わったあと、『どうやって浮島に行くんだろう』ってちょっと思ったけど……私もうその答えを知ってたじゃん。


 セレスさんもあのスクショは見ているから、目から鱗といった表情を浮かべている。



「そのヘリコプターを修理して【テルクシノエ】まで行こうってことよね? 直せそうなの?」


「大部分は問題ない。我々のメンバーの中に、そういうものに詳しい者もいたのでな」



 流石『アーカイブ』……ヘリの構造に詳しい人材すらいるなんてね。



大部分は・・・・、ですのね?」


「うむ、基本的な構造は現実にあるものと同じ。しかし、問題なのは動力源。我々の知るエンジンは見当たらず、代わりに見たこともない機関が存在していた。調べた限り、その機関でMPを動力に変換するらしいのだが……」


「それを作るのに材料が足りていない……ってところかしら」


「その通り。あの大きさのヘリを動かすには、高効率かつ高出力の魔力変換機構が必要となるだろう。そして、その材料を調達できる場所も予想で来ているのだが……」


「待って、私の中で全部繋がったわ」



 MPを動力に変換・・ってところでピンときた。

 だって、私は『MPを毒に変換する機構』を使っているのだから。

 多分これ、ヘリの修理にヘルメスさんも関わってるな?



「つまり、【モラクス火山】にいるオリハルダイン・オラトリアを討伐して持って帰ってこればいいんでしょ?」


「ヘルメス君から話が伝わっていたのかね? なら話が早い、オリハルダイン・オラトリアの素材が必要となるのだ。できるかね?」


「まぁ、やるしかないでしょうね」



 あー、何この一周回って原点回帰した気分。

 結局【モラクス火山】の攻略に帰ってくるんかい!!

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