ここに来て最速記録を更新するとはね

『エクストラクエスト: 病葉わくらばの舞う孤島 をクリアしました』


『プレイヤー名: カローナ、アップル、オレンジ、グレープ の4人が称号: 《不浄を浄化せし者》 を獲得!』


『巡り、巡り、幾千の景色を、もう一度———』



 アナウンスが鳴り響き、クエストのクリアが宣言される。


 多くの村人達に囲まれ、口々に賞賛を声を掛けられては悪い気はしない。いつも配信している私はともかく、3人は慣れていないからか困ったように照れ笑いを浮かべていた。



 そんな風に村人達とやり取りをしてしばらく、サレオスさんとの約束の時間が近づいてきた。



「それじゃ、そろそろ時間だから私たちは帰らないと」


「名残惜しいですが……あなた方はきっとこれからも多くの人々を救うのでしょう。我々はこの小さな村からあなた方の活躍を願っております」


「はいっ! あ、最後に一つ」


「なんでしょう?」


「言い伝えの話……昔の人達は、その『転生の秘薬』とやらをどうしたのかしら?」


「……どうにもしとらんよ。言い伝えは言い伝え、老人が話す昔話とでも思ってくれればそれで良いのじゃ」


「……そっか。じゃぁ、いつかまた機会がありましたら!」



 村人達に見送られ村を出た私達は、島の海岸をぐるっと回って裏側へ。しばらく歩くと。そこには小さな船を岩場に着けるサレオスさんの姿があった。



「サレオスさん、こんばんは!」


「あぁ、無事村を救ってくれたようだな。あの緑の光を見れば分かる」


「えぇ、もちろんよ!」


「約束通り、君達を本土に送ろう」


「お願いね。……サレオスさんは、村の人に会わなくていいの?」


「……俺はいいんだ。村を捨てて一人逃げ出した俺の顔なんて、誰も見たくないだろうさ」


「そう……それはちょっと悲しいけど、本人がそう言うなら私はもうとやかく言わないわ」



 私達4人とサレオスさんを乗せた船が、ゆっくりと島を発つ。背後に舞う緑の光が、私達の行く先を祝福しているようであった。



        ♢♢♢♢



 【ユピテル】へと返ってきた私は、切りの良いところで配信を終了。アップルさん、グレープさん、オレンジちゃんの3人を誘って軽く打ち上げをした。


 いや~、他のプレイヤーとこうしてワイワイやるのも楽しいね。いろんな人と関われるのがVRMMOの良いところだよね。



 さて、忘れないうちにティターニアちゃんにも報告しておかないとね。


 と思って王城を訪れた私は、ライカンさんに出迎えられた。ちょっと遅めの時間だったけど、ライカンさんもティターニアちゃんも快く対応してくれた。


 私が報告している間、ティターニアちゃんは眠そうに目を擦ってたけどね。……お非~リアさんが、うとうとするティターニアちゃんのスクショと撮ってたのは黙っていよう。



 そんな感じで依頼達成の追加報酬をもらった私は、これでようやく本当にクエストクリアだと大きく息を吐いた。


 ……あ、リスポーン地点更新しておかないと。



「カルラ!」


「カーッ!」



 あたしの呼び声に反応し、肩に現れるカルラ。胸を撫でてやると、気持ちよさそうに目を閉じて声を漏らす。


 うーん、可愛い。

 イヌやネコも可愛いと思うけど、鳥も好きなのよね。



「カルラ、鬼幻城に連れてってくれる?」


「カ―――ッ!!」



 大きく翼を広げ、高らかに声を上げたカルラは私を連れて【座標転移テレポート】を発動。私とカルラの姿は一瞬でその場から消え去った。







 鬼幻城に到着した私は、とりあえず自室でリスポーン地点を更新しておく。クランとは別に自室がフィールド内にあるってすっごい助かるわ……。クラン拠点がそもそも無いんだけどね。



「カグラ様~……あれ?」



 カグラ様に会うために来てみたけど……襖を開けるとそこにはカグラ様の姿はなく、見覚えのある狐耳の麗人が座っていた。



十六夜いざよいさん、お久しぶりです」


「あなたは……カローナさんね。堕龍おろちの討伐、見事だったわ」


「いやいや、十六夜さんこそ……堕龍おろちの【闇】を一刀で斬り伏せた絶技、思わず見惚れちゃったわ」


「えぇ、ありがとう」



 あっ、この人めちゃくちゃ可愛い……。

 鈴の鳴るような澄んだ声、切れ長の強い視線と相まってクールな印象だったけど、ほほ笑んだ時のギャップが私にものすごいクリティカル。


 甘えたらなんだかんだで受け入れてくれるタイプ……であってほしいな。(願望)



「ところで十六夜さん、カグラ様は?」


「カグラ様は外出中よ。不在の間は私が代理になってるの」


「あー、なるほど。十六夜さんめちゃくちゃ強いものね……十六夜さんってどれぐらい強いの?」


「『百鬼夜行』の中で一番。カグラ様に次ぐ強さ……と言ったら分かるかしら」


「ごめん、『百鬼夜行』って?」


「カグラ様の配下のうち、実力順で上位100人をそう呼んでるのよ」


「ティターニアちゃんの『任命近衛兵』みたいなものかな……」


「もちろん私が1位よ。2位以降は夔逸きいち、桔梗、梵天丸、黒足袋……ちなみにカローナは10位ぐらいかしら」


「えっ!? 私も順位に入ってるのね……梵天丸さんから一本取ったんだし、もうちょっと上の方でも……」


「一本だけでしょう? その程度で順位が変動するほど『百鬼夜行』は薄くないわ」



 あからさまに数字が出るパラメータなんだし、上位になったら何かあるのかな。もしかしたら、カグラ様への挑戦権が得られるとか?


 それだと最高なんだけど……勝てる気がしないから妖仙流アビリティがもっと欲しいかも。



「それなら……もしよければ十六夜さん、私に【抜刀術】を教えてくれないですか?」



 私の突然のお願いに、十六夜さんはキョトンとした表情を浮かべた後、少しの間逡巡する。そして……



「……なら、桔梗に勝ったら」


「本当!? って、夔逸きいちさんじゃなくて桔梗さんでいいのね」


夔逸きいちは手が空いてないから」


「ふふ、俄然やる気が出てきたわ!」


「それはちょうど良かったわ」


「?」



 意味深な発言をし、一度手を叩く十六夜さん。

 何事かと不思議そうに見つめていると、どこか遠くからドドドッ! と足音が聞こえてくる。


 そしてその数秒後、バンッ! と勢いよく襖が開け放たれた。



「カローナが来たのか!?」


 現れたのは、弓道着のような服に身を包んだ女性。私より背が少し小さくて、もしかしたら歳も私より幼いかもしれない。


 額からは二本の角が生えており、明らかに人間ではない……というか、『鬼』であることが分かる。



「彼女がカローナよ」


「どうも、あなたが桔梗さん?」


「そうだ、待っていたのだぞ。今すぐ仕合をしよう!」


「えっ」



 今からかぁ……良いけど、ちょっと今気が抜けてるんだよね。もう結構夜遅いし、三日間のクエストを終えたばかりだし……。



 私が悩むような反応を返すと、桔梗さんはちょっとしょんぼりした様子で問いかけてくる。



「ダメなのか……?」


「ダメじゃないけど……私、今全力出せないわよ?」


「なぜだ?」


「疲労と……あとは装備が揃ってないから」



 梵天丸さんよりも強いらしい桔梗さんと戦うのに、『冥蟲皇姫の鎧インゼクトレーヌ・クロス』がないと相手にもならないだろうし。



「そんなわけで、今あなたと試合しても満足できる戦いにはならないかも」


「む、そうか……」



 あら、思ったより素直。

 やっぱり私が睨んだ通り、彼女は単純に戦いたいのではなく、拮抗した試合が好きなのだ。



「代わりと言ってはなんだけど、少しだけでいいからあなたの技を見せててくれないかしら? 次の試合の時、楽しい戦いになるようにね」


「そんなのでいいのか? 強くなってくれるのなら、あたいも嬉しいが」



 そう言いながら拳を構えるあたり、戦いたくて仕方がないのだろう。



「ここではだめよ。やるなら闘技場に行きなさい」


「分かった。カローナ、早く行くぞ!」


「はいはい……」



 桔梗さんに背中を押されながら、カグラ様の部屋を後にする。


 カグラ様によると、桔梗さんは【妖仙流剛術】の使い手。新しい【妖仙流】の技、たっぷり見せてもらうわよ!











 と、息を巻いた8秒後。

 リスポーンRTAの最速記録を更新した私は、クソでかため息を吐いてそのままログアウトした。





─────────────────────あとがき


 ひとまず『病葉の舞う孤島』のクエストが終了しました。最後はダイジェスト並の早さで駆け抜けましたが……何かおかしなことが起きているのに気付きましたか?


 その1~9まである『病葉の舞う孤島』の話の中で何か不可思議な部分を発見した方は、それを忘れずに続きをお待ちください(_ _)

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