病葉の舞う孤島 9(終)

 そんな感じで、樹を斬り倒すこと数十分。

 緑の苗を中心に直径10m程度の開けた空間ができた。


 これだけの樹を切り倒すなんて、現実だったら一日はかかるんだけど……さすがはゲーム。アビリティであっという間に終了だ。



 で、その次の作業は、『切った樹を燃やす』らしい。


 これもまた魔法職のオレンジちゃんとグレープさんが大活躍!

 私は良く燃えるように風を送ったり、状態異常を回復する『キュアポーション』を炎に突っ込んだりしている。



 どうやら、『キュアポーション』を一緒に燃やすというのも必要な工程らしい。理由はあんまり分からないけど、燃やした灰が清められるとかなんとか……



 んで次は、できた灰を使って魔法陣を描く。

 緑の樹を中心にして、開けた空間いっぱいに描いていくらしい。


 私はコメント欄見ながらできるからいいけど、これノーヒントでできるものなの? 先人たちが残した情報ってやっぱり偉大だなぁ。



「ふぅ、ちょっと疲れたわね……」


「お疲れ様です、カローナさん。なかなかの重労働でしたね……」


「でもおかげで早く終わったっすよ」


「炎も使えるあたり、カローナさんってかなり万能ですよね」


「器用貧乏って言っちゃだめよ?」


堕龍おろち戦MVPプレイヤーに器用貧乏なんて言える奴いねぇよ……」



 実際私のキャラビルドはかなり尖ってると思うけどね。

 ステータスの振り方は、ほぼSTRとAGIだけ。

 アビリティもバフがほとんどだし、高STR+スピード+高威力アビリティで火力を出しているだけだ。


 そんな風に喋りながら作業を進めていく。

 作業中、モンスターが全く襲ってこないのがありがたい。いちいち戦ってたら全然進まないからねぇ。



 ちなみに描く魔法陣のヒントは、村長さんの部屋にある本に書いてあるらしい。初見ではその本を読み解いていって攻略するんだって。


 ……もうとっくに『アーカイブ』から攻略法が出てるから、今さらなんだけどね。



「おー、オレンジちゃん魔法陣描くの上手いわね」


「こういうの、結構得意なんですよ! 昔から絵を描くのが好きなので」



 そして最終工程へと移る。

 全員で魔力を流し……つまり、MPを消費して魔法を起動していくのだ。


 この魔法陣を使用することで緑の樹が成長していき、この樹を中心に島全体を浄化していく———という流れだ。


 4人で協力して魔法陣を起動すると、魔法陣を形作る灰が徐々にぼんやりとした光を灯し、それが全体へと広がっていく。



 ……これ、結構な量のMPを消費するわね……。

 この辺りもやっぱり魔法職必須なのね。けど『呪われた亡者カースド・デッド』を倒すのに魔法職だけだと不安だから、バランスの取れたパーティ前提のクエストだ。



「本当助かるわ……こうやっていろんな特技を持ち寄って攻略すると、本当に楽になるわね」


「カローナさんってクランに入ってないんでしたっけ?」


「入ってるわよ? 配信で言ってなかったっけ」


 ・言ってたっけ

 ・あれだろ、ミカツキちゃんを誘ってたやつ

 ・ゲームオタ、ドルオタ、脳筋お姉ちゃん、メスガキの4人組

 ・それだ!

 ・しれっとプロ二人いるのヤバいな



「ちょっと、あなた達どんな覚え方してるのかしら!?」


「カ、カローナさん……?」


「あ、ごめんね……コメントがあまりにもだったから……私とMr.Q、ヘルメスさん、ミカツキちゃんでクランを組んでるのよ」


「Mr.Qって、総合ランキング1位じゃないですか!?」


「しかもヘルメスって『鍛冶師』で有名な……」


「もしかして、カローナさんが色んな装備を持ってるのって、クランメンバーにヘルメスが居るから……?」


「あはは、確かにそれもあるわよ」



 ヘルメスさんの本音としては、『私を着せ替え人形にしたい』だろうし。

 もちろん私も了承の上だから大歓迎なんだけどね。クオリティめっちゃ高いし、いろんなコスプレ楽しい……。


 現実でもやってみ……いや、それはちょっと恥ずかしいか。



 クエストの方はというと、いよいよ佳境に入った。

 ポーションで補充しながら私達でMPを流し込み続けること10分以上、次第に大きくなり始めた緑の樹は見上げるほど、両手を広げても幹の太さに届かないほどになっていた。


 暗いから見えにくいけど、オレンジちゃんの魔法によって照らされた葉は瑞々しい緑に輝き、この島を覆う変色した樹と大違いの神々しい雰囲気を漂わせている。



 そして、魔法陣の光が収まって一拍。


 ドクンッ! と心臓の鼓動のように脈動し、緑の樹から円形状に光が放たれ、島全体へと広がっていく。



 ……美しい光景だ。

 放たれる光が広がっていく度に他の樹々にもほのかに光が灯り始め、森自体が星空のように輝きを放つ。


 次第にその輝きは緑の光へと変化していき———



「……すごい」



 そう呟いたのは誰だったか。

 緑の樹の脈動が収まった森は、『幻想的』という表現がぴったりだろう。


 緑に満ちたそこは星月夜のように光が踊り、島の復活を祝福しているようだった。



「……そうだ、村の様子は!?」



 幻想的な景色に目を奪われていた私はハッと思い出す。

 村人たちが治ってないと意味ないしね!



        ♢♢♢♢



「おぉ、おぉ、プレイヤーの皆様、よくぞ……」


「ありがとう……本当にっ……!」

「これで私たちは救われました!」



 そんな私の心配も杞憂だったようだ。

 戻ってきた私たちを出迎えたのは、今にも泣き崩れそうな村長さんと、声を震わせながら口々に感謝の言葉を漏らす村人たちだった。


 そんな彼らの身体は、どこにも異常がない。



 島を蝕んでいた異色・・の樹が消え、侵食されていた村人たちも元通りに回復し……もうこの島に、病葉わくらばが舞うことはないようだ。



『エクストラクエスト: 病葉わくらばの舞う孤島 をクリアしました』


『プレイヤー名: カローナ、アップル、オレンジ、グレープ の4人が称号: 《不浄を浄化せし者》 を獲得!』


『巡り、巡り、幾千の景色を、もう一度———』



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