閑話 世紀のチョロイン

 授業終わり!

 さーて、部活だ部活!


 9月後半とはいえ、気温はまだまだ高い。だけど、最近私の部活へのモチベーションもかなり高いのだ。特に、一年生への指導がね。



 私に憧れてダンス部に入ったって娘も多いし、それだけ彼女たちのダンスへのモチベーションが高いのだ。それに、やっぱり人前に出て自分を魅せる部活に入ってくる娘達は、見た目が良くて自信家が多い。


 自分に自信を持ってる人って、私好きなんだよね。思い切りが良くて、見ていて気持ちがいいというか……。


 時々ぶつかることもあるけど、それもまた青春ってことで!

 でも、着替えの時に堂々と見てくるのは勘弁かな。



 じゃ、さっさと移動して準備を……お? ハヤトから連絡?


 メッセージアプリを開けば、そこにはハヤトからの『トミーの家で勉強していくから帰り遅くなるかも』という簡単な連絡が入っていた。



 ふむ、勉強とな?

 ハヤトは真面目だなぁ……テストまでまだ2週間ちょっとあるっていうのに、勤勉なようでお姉ちゃんも鼻が高いぞ。


 しかし、トミー君の家か……。

 よし!


 ハヤトに返信を一つ。

 『その前にダンス部の部室に来て』っと。











「で、なんで僕はダンス部に呼ばれてんの?」


「私が呼んだから?」


「なんで鏡の前に座らされて、先輩たちに囲まれてるの?」


「これがカナっちの弟……これはうらら達が鼻息を荒げるのも分かるわぁ」


「肌めっちゃ綺麗だし髪の毛細いし、遺伝の力って偉大だわ」


「だってあんた、トミー君の家にそのまま行こうとするじゃん? 準備は必要でしょ」


「準備って……別に勉強するだけだし、男友達の家に行くのに気にすることなんてあるの? 許可もらったとはいえ女子部活の部室になんて、めちゃくちゃ落ち着かないんだけど……」


「大丈夫よ。ダンス部のメンバーの間でも、あんた結構人気だから」


「ホントそれ。弄り甲斐ありそうだしね」


「そういうことじゃないんだよなぁ」


「じゃ、早いとこやっちゃうから、みんな協力お願いね!」


「「「了解!」」」


「何を———わぷっ!?」



 とりあえずサクッとスキンケアして、日焼け止めは必須ね。

 化粧下地とファンデを……これは私の仕事だ。他のメンバーには髪とか眉を弄ってもらおう。


 という訳で、ハヤトのメイクアップ作戦開始。ただの勉強会にそんなのが必要かって? 必要なんだよなぁ、トミー君ち、萌香モカちゃんが居るから。


 あの子、ぜひ我が四条家に来てほしい……おっと本音が。

萌香モカちゃんを逃がさないためにも、ここいらでハヤトに見惚れさせとかないとね。


 ふはははっ、萌香モカちゃんよ! 家に来た想い人がめっちゃキラキラしててキュンッってなるが良い!!


 後はハヤトが好意に気付くだけなんだけど……それが一番ハードルが高いかも。



        ♢♢♢♢



 はぁ……テストなんて憂鬱だ。


 トミーこと『冨山 雄大』の妹、萌香モカは、自室のベッドの上で溜め息をついた。



 遊びにも行けないし親には『勉強しろ』なんて言われるし、結果が悪かったらお小遣い減らされるし……。


 そんなに頻繁にテストやらなくっても勉強はしてるって。……多少は……。


 何かご褒美がないとやってられないわ。お兄に何か買ってきてもらおうかな。



「うーっす、ただいまー」



 お、噂をすれば。



「お兄、私プリンか何か……」


 萌香モカはリビングのドアを開け———



「お邪魔しまーす」



 ———そっとドアを閉めた。



 なんか王子様がいたような気がしたけど、気のせいかな? まさかね……なんか輝いてるように見えたし、テストへの不安で変な夢でも見たんだよきっと。


 きっとそう、幻覚でもなければ、髪とかメイクとか『今からデートに行くよ』ぐらい完璧にセットされたハヤトさんが見えるわけ。もう一度ちゃんと確認して……


 ガチャッ———



「ぁっ、モカちゃんこんにちは。お邪魔します」



 ———バタンッ


「お兄のあほ————っ!!」


「な、なんだとうっ!?」



 ハヤトさんが来るなら一言言ってくれればいいじゃん!?


 最悪最悪最悪っ!

 だらしない部屋着姿見られた!

 解いただけのボサボサの髪見られた!

 直してないメイク見られた!


 あーっ、もうっ!!



「あいつ、すごい勢いで階段駆け上がっていったな……運動会でもあんな機敏な動き見たこと無いのにな」


「……やっぱり今日はお呼びじゃなかった?」


「いや、むしろ最高のタイミングだろ。つーか、お前いつになくキマってるな?」


「これはっ……お姉ちゃんが勝手にやったんだよ……」


「カナコ先輩直々のそれか……そりゃモカもああなるわな。男の俺でも惚れるわ」


「やめろよ……モカちゃん怒ってないかな?」


「どうせすぐ落ち着くし、さっさと勉強しようぜ」


「……? まぁいいけど。いつになくやる気じゃん?」


「今回のテストはなぁ……あんちゃんとアネファンのレアアイテムを賭けて勝負してんだよ。『堕龍おろちの龍王鱗』って、あれ一人一個だけだろ?」


「あー……あれ賭けてるなら本気も出すか。あんちゃんを誘ってないのも納得だわ」


「そういうわけだ。今回は絶対負けられん! ……とりあえず数学教えて」


「はいはい……」


 リビングの机を二人で囲み、教科書を広げる。『一番の勉強は、人に教えることだ』と言われるぐらいだ。自分のためにもなるし、喜んで協力しよう。











 ハヤトさんが家に来てから一時間ほど。

 みすぼらしい所を見せまいと、メイクも髪も、服装も完璧に直してきたところだ。


 ハヤトさんもちょうど休憩を入れるタイミングっぽいし、お茶淹れたけど……行って大丈夫かな。主に私の心臓が。



 ……ショートパンツはちょっと攻めすぎかな。引かれたらどうしよ……。でもハヤトさんはこれぐらいはしないと……ええいっ!



「あ、あのっ……ハヤトさん、お茶、どうぞっ……!」


「あ、モカちゃんありがとう!」


「ひぅっ」



 あーっ、ダメダメダメッ!

 その笑顔はクリティカルすぎる!

 まともに顔見れなくなるからやめてほしっ!


 てか待って!

 髪上げてるの新鮮すぎん!?

 急に男らしくなって私の情緒が追い付かんのだが!?


 それで急にフニャッて柔らかい笑顔はダメッ! 反則ッ! しゅきすぎる♡ 何時間でも見てられる♡



「モカちゃん?」



 あっでもそんなに見てたらハヤトさんに迷惑すぎる! せめて写真とかっ、額縁に入れて部屋に飾りたい!♡


 頼んだら撮らせてくれるかな!? いや一秒でも多く目に焼き付けてっ、でも永久保存は必至っ、もーどうすればいいのっ!♡


 待って私今変な顔になってない!? にやけてるところとかハヤトさんに見られたら死っ! いやでも死んだら会えなくなるからそれはやだっ! なんかもうっ、あああああぁぁ————————っ!!



「モカちゃん、どうしたの? 大丈夫?」


「は、はいっ、大丈夫でしゅ……ですっ」


「wwww」


「くっ……!」



 ニヤニヤ笑ってるお兄をぶん殴りたいっ!

 けど、ハヤトさんの目の前でそんなことっ……!



「つーかモカ、お前服も髪も気合い入りすぎだろww そこまでしてんのは初めて見たわww」


「マジ黙れよクソお兄……」


「え、すごく可愛いと思うけど? ピンク系のルームウェアとショートパンツ、モカちゃんにすごい似合ってるし。ちょっと目のやり場に困るけど……」


「はへぁっ」



 可愛いって!? 可愛いって言われた!? ふへっ、ふへへへへっ♡ あーもう許す! お兄も許す! 


 ちゃんと誉めてくれるハヤトさんしゅきっ!♡ しかも目のやり場に困るとか言って頬染めて目逸らしちゃうところとか突然可愛い♡


 待って待って! 『目のやり場に困る』って、それ私を女の子だと認識ぁぁぁぁぁあああっ!もうこれ結婚しかねぇなぁ!♡



「そういえば、モカちゃんもテストだったよね? どうかな、せっかくだし一緒に勉強——」


「するぅっ!」



 ハヤトさんと一緒に勉強とか、やるに決まってるじゃん! ハヤトさんに誘われたら何時間でもやるって!


 あーっ、テスト最高かよっ!

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