病葉の舞う孤島 4
「こんばんはー、カローナです! クエスト2日目、頑張って行きますよー!」
・待ってた
●オルゾ・イツモ:[¥5,000] 応援!
・進捗はどうかな
「まずはその確認ですね。オレンジちゃん達が先に探索してるはずですし……」
私のソロだったらともかく、オレンジちゃん達に攻略を待ってもらう理由はない。
まぁ、私がログインした時点でメッセージとか無かったから、まだクリアまでいってないのは分かってるんだけどね。
「あ、カローナちゃんお疲れ様ー」
「オレンジちゃんどうも! 今どんな感じ?」
「実は……」
先にログインしていたアップルさんとオレンジちゃんで探索をしていたところ、森の奥で目的の魔物らしきものを発見したらしいのだ。
姿は全身黒っぽい猿のようで、2mを越えていそうな巨体。樹の枝や葉を齧っているところを見つけ、戦闘に突入。
結構強かったらしく、二人で挑むのは無謀だと悟った彼女らは、一度撤退してやり過ごしたらしい。
その魔物に噛まれた樹は、噛まれた部分を中心に深緑のヒビ割れのような模様が広がっていったようだ。
「この森の状況は、どうやらそいつのせいで間違いなさそうだぞ」
「あ、アップルさんもこんばんは!」
「うっす、こんばんは」
「話を聞いた限り、噂の魔物ってのがそいつで間違いなさそうね……ってか、そんな風に樹が蝕まれていくってなると、この森全体がヤバイんじゃない?」
「あー……昼間に見て初めて知ったけど、もう手遅れっぽいぞ」
「というと?」
「黄色とか赤とか紫とか……色んな色の樹は見たけど、緑色だけは無いんだよな」
「あー……もしかして全滅……?」
「たぶんな」
となると、どうしようか。その魔物を倒すのは必須として、変質した樹や葉が病の原因ならそっちもどうにかする必要がある。
『魔物の討伐』と『森を元に戻すこと』。この二つがクエストクリアの条件かな?
サレオスさんが迎えに来るまでの2日間で、魔物の討伐はともかく樹を元に戻すまでできるのかなぁ。
一応、まだ視聴者さんに攻略チャートは聞いていない。そりゃだって、配信者ならちゃんと攻略しないと。
それに視聴者さんからすれば、自分が攻略法を知っているクエストを頑張る配信者を見るのも乙なものだ。こう、初めてのお使いに行く子供を見守るような感じでね。
まぁ、間に合わなさそうだったら手伝ってもらうけどね。
「魔物の被害ってそれだけ? 村人とか襲われてないのかな」
「今のところは何ともないらしい。けど、いつ襲われるかも分からない状況だし、向こうもこっちを敵として認識してたっすね」
「日が落ちたらまた襲ってくるんじゃないかって話をしていたところなんです」
「十分あり得るわね……」
今は夏だから日が長いとはいえ、完全に夜になるのはもう間もなく。暗闇から襲われたら堪ったものではない。
「日没に備えて松明か何か燃やしてもらおっか。何ヵ所かに分けてつければ結構明るくなるでしょ?」
「それがいいかもっすね。じゃ、手分けして交渉ってことで」
「カローナさんにもお願いしていいですか?」
「もちろん! 急いで準備しないとね!」
♢♢♢♢
すっかり日が落ち、電灯などもないこの島には宵闇に包まれる。が、唯一存在する村である【テルクシノエ】には、明りが灯っていた。
中央にはキャンプファイヤーのように大きい篝火が一つ。そして周囲にも一定間隔で火を起こし、なるべく全体を照らせるようにしたのだ。
「よし、これでひとまずオッケー。オレンジちゃんとアップルさん、ありがとう!」
「薪がたくさんあってよかったっすね」
「必需品だろうし、村の人達もよく協力してくれましたね」
「病気を解決するためなんだし、結構快く引き受けてくれたわね」
「後はあいつが現れるかどうかなんだけど……これで来てくれるんすかねぇ」
「……ありきたりだけど、エサでもセットしておく?」
「そんな、動物じゃあるまいし……」
「いや、樹に噛り付いてたぐらいだし意外とありかもよ?」
そんなことを言いつつ、アップルさんが取り出したのは
「あんたそれ、焼きたいだけでしょ……」
「アップルさん、どうしたのそれ」
「いやー、時間はたくさんあったから釣りしたら爆釣でさぁ。カローナさんも空腹値回復しといた方がいいんじゃないっすか?」
「もう食べる気満々じゃん」
もうナイフに刺して焼き始めてるしね。
いや、でも悪くない提案かな。
このゲームには『空腹値』があり、これが上がりすぎるとパフォーマンスに影響してくる。この島に来てからは食べるものが何もなかったから、結構空腹値がピンチだったのだ。
というわけで、村人たちも含めてプチ宴会開始。飲めや歌えや……なんてことはないけど、少しだけ明るくなった村人たちの表情が見れて満足だ。
「プレイヤーのお三方、感謝しますじゃ」
「お礼ならこっちの男の子に言ってあげて」
「いやー、別に釣りして遊んでただけなんだけどなぁ」
「そうは言っても、村の者達があんな表情をするのは久しぶりのこと。病のせいで気が滅入っていただけに、この心遣いはありがたいのですじゃ」
「そうねぇ……もしお礼を、というのであれば、教えてほしいことがあるのだけどいいかしら?」
「うむ、何でも聞いてくだされ」
「じゃあ……何かこの地に伝わるもの……そう、例えば昔話とか伝承とか。そういったものがないかしら?」
私の言葉を聞いた村長さんの目が、少し鋭くなる。
やっぱり何かありそうなのよね。最初の顔合わせの時に言い淀んでいたのに気づいたから、底にヒントがあると踏んだわけだ。
「……何でもないただの伝承であれば、お話しますのじゃ」
「ぜひ」
「では……『その昔、この地には神が訪れた』———」
———空に現れた箱舟から降り立った神は、こう言います。
『清貧に生きる謙虚なあなた達に、贈り物を授けましょう』と。
そうして送られたのは、『転生の秘薬』でした。
『その薬を飲めば何度でも生まれ変わり、長い長い輪廻を幸福に生き続けられるでしょう。それをどうするかは、あなた達のご自由に』と、神は言います。
村人たちは迷いました。
永遠の幸福か、島の自然と共に生きるか。
「『そして村の者達は、その秘薬を———」
「Gyaooooooooaaaaa!!」
「「「っ!?」」」
村長さんの話に耳を傾けていた私達は、突如として響いた慟哭と薙ぎ倒された松明へと目を向ける。
人のようで人ではない、悪魔のような見た目をしたそいつは、アップルさんが釣った魚を両手に握り、無機質な目をこちらへと向けてくる。
間違いない。
こいつが、追っていた魔物だ!
『ユニークモンスター:
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