病葉の舞う孤島 3

 村長さんに連れられて、村の中でも一番大きい建物……おそらく村長の家であろう場所に通された私達は、改めてティターニアちゃんの依頼文を村長さんに見せる。



「うむ、確かに……ラ・ティターニア様のもので間違いない」


「そうでしょ? ティターニアちゃ……様もこの村のことを気にかけていて———」


「そうか……女王様は、我々をお見捨てにならなかったのだ……」



 嗚咽交じりにそう呟く村長さんの様子見、私達は思わず口を紡ぐ。

 それほどまでに追い詰められていたのだろう。


 『悪魔に乗っ取られ、意思とは関係なく動く』という症状など、知らぬ人から見れば頭がおかしいと思われるだけ。噂が立てば誰も近づきたがらないし、もし身体が勝手に人を襲ったら……と考えると、むやみに自分達から助けを求めることもできない。


 八方塞がりのまま病は広がっていき、滅亡の一途を辿るのみ……といったところだろうか。



「と言っても、すぐに解決できるわけじゃないからね? 病気について色々教えてくれないかしら?」


「……あぁ、そうじゃな。話をしなければ始まらない。…………見せた方が早いじゃろう」



 そう言って村長さんは、おもむろに右足を前に出し、巻いている包帯を解いた。



「っ……!?」


「これが、【テルクシノエ】に救う病魔の影響じゃ」



 村長さんの脚は、明らかに人間のものではなかった。


 分厚く硬い、黒紫の鱗が全体を覆い、前方に3本、後方に2本伸びる指は何処か鳥類を思わせる。


 かといって、もう片方の脚や両腕は普通なのだ。明らかに右足だけが異常であることが分かる。



「この村に居る者全てが、身体のどこかがこのようになっておる。老若男女問わず、全員がな……」


「……想像以上ね……いったいいつからこんな病気が?」


「さて、どれぐらい前だったかの……。もう覚えておらんほどじゃ。こんな状態では満足に漁にも出られん。船を使わなくなってどれほど経つかのう……」


「原因に心当たりは?」


「はっきりとしたことは儂らにも分からない。が、これではないかと思えるものはあるのじゃ」



 そう言って村長さんが取り出したのは、一枚の木の葉。

 ただし、それは普通・・と呼ぶにはあまりにも歪すぎた。


 表面はボコボコと異常に波打ち、何より色が赤紫一色。

 明らかに普通ではないその葉を見れば、確かにこれが原因だと言われれば納得する様相だ。



病葉・・の舞う孤島』ね……。



「絶対それが原因じゃん」


「そうよね……。こんな風になってる木は一本だけ? それともたくさんあるの?」


「紫になっているものもあれば、黄色や白など……変色は様々にわたる。原因こそこの目で見たわけではないが……」



 何かを言いかけた村長さんが、言い淀んで目を伏せる。

 明らかに怪しい反応。

 原因に予想がついているのなら、隠す必要はないのだから。



「どうかしたの?」


「いや…………直接見たわけではないのじゃが、この島のどこかに恐ろしい魔物が居るらしいのじゃ。そいつが原因で、この島全体の木々が脅かされている……と予想しておる」


「なるほど、恐ろしい魔物ね……なら、そいつを倒せばいいわけね?」


「やってくれるのか?」


「もちろん! ティターニア様から村を救うのも頼まれているからね!」


「感謝しますのじゃ、プレイヤーの方々よ。じゃが、今宵はもう遅い。この家は自由に使ってもらってもよいのじゃ、明日からでも調査をお願いしたい」


「そうね、こうも暗くちゃ調査なんて無理だし。お言葉に甘えさせてもらうわ」



 一旦の話し合いを終え、私達は村長の跡について別の部屋へと移動する。


 とりあえず、サレオスさんが迎えに来るのは二日後。それまでは移動先の部屋で寝泊まりすることになるのだけど……あ、これもしかしてリスポーン地点更新になる?


 クエスト終わったらまたカグラ様のお城行って、更新し直さないといけないなぁ。



        ♢♢♢♢



「ふぅ……とりあえず今のところは順調ね」


「すみません、カローナさん……話とか全部任せてしまって」


「ん? いいのいいの! ティターニアちゃんの依頼書を持ってるの私だし、話が拗れなくていいでしょ?」


「そう言ってくれると助かる」



 村長さんとの話の後、私達は貸し出された一室で再び会議をしていた。


 男女が同じ部屋……と思わなくもないが、このゲームにR18要素はない。変に触れようとしたら垢BAN対象だ。



「ログイン次第、例のモンスターを捜索するとして……皆は何時ごろにログインできるのかしら?」


「俺は昼からいけるな。ちょうど明日は午前中しか講義がなくて、午後から暇なんだよ」


「いいなぁお前、俺バイトあるからすぐには無理かもな。夜遅くなると思う」


「講義とかバイトとか……もしかして皆さん大学生?」


「そういえばちゃんと自己紹介してなかったな。俺ら大学生で、サークルで知り合った仲間なんだよね」



 わーぉ、年上。



「カローナさんは高校生でしたっけ? いいですね、青春って感じで」


「青春なのかは分からないけど……すみません、ずっとため口で話していました」


「ううん、全然気にしてませんよ! ゲームの中では関係ないですし、誰とでもフランクに接することができるのがカローナさんの良いところでもありますから!」



 うーん、オレンジちゃんめっちゃいい子……。現実でもこんな感じだったら、さぞモテるんだろうなぁ……


 となると、気になる点が一つ。



「オレンジちゃん、このお二人のどっちかと付き合ってるの?」


「えっ?」


「「ブフッ!?」」


「いや、だって気になるじゃない」



 勢いよく吹き出したアップルさんとグレープさんを横目に、私はストレートに問いかけてしまった。


 いやね……大学生で、サークル仲間で、男子2人に女子1人……気になるでしょ。



「い、いえ、そのっ、私は二人がゲームに誘ってくれて始めてみたらハマっちゃって、そのっ、二人は友達です!」


「……あ、そうだな……」


「……友達、だな……」


「え、なんかごめん」


「???」


 ・これは可哀想

 ・カローナ様なんてことを……

 ・酷い


 ごめんって!

 全然そんなつもり無かったんだから!


 見るからに落ち込む二人と、それを見て察した私と、何がなんだか分からずキョトンとしているオレンジちゃん。



「そ、それを言うならカローナさんはどうなんですか!?」


「えっ、私に聞いちゃう?」


 ・おっ

 ・キタッ!?

 ・聞きたいような聞きたくないような



「それは秘密……♡ って言うと、なんだか誤魔化してるみたいに聞こえるからはっきり言うけど、その手の関係はなにもないよ?」


「えっ……花の女子高生なのに?」


「う゛っ……それを言われると……。部活も勉強もあるし、視聴者さんだって私の配信の頻度知ってるでしょ? 遊ぶ時間がいつあると?」


 ・確かに

 ・俺らは嬉しいけど、なんか悲しい

 ・プロやな、カローナ様

 ・もっと青春してええんやで?



「コホンッ……えー、とりあえず私は夜の7時ぐらいにまたログインするから、早くログインできた人は各自自由に探索を進めるってことで」


「オッケー。戦力的にカローナさんが必要そうだったら夜まで待つことにするよ」


「了解! その時は協力するわ。それじゃ、今日は解散ってことで!」



 とりあえず、用意されていた布団に入ってリスポーン地点を更新……あ、そうだった。明日も配信するんだし、予告はしておかないとね。


 と思って、カメラの前で寝そべりながらマイクをバイノーラルモードに変更。静かに微笑みかけ———



「明日は19時から配信しますので、ぜひ見てくださいね。では、おやすみなさい……♪︎」



 更新がピタリと止まったコメント欄を閉じ、配信を終了してログアウトする。



 よし、早めに寝て明日に備えようかな!

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