病葉の舞う孤島 1

「すみません! おじさん、私たちを【テルクシノエ】に連れて行ってくれませんか!?」



 どこか見覚えのある赤色、オレンジ色、紫色のカラフルな髪が綺麗な3人組の男女が、私よりも先におじさんへと声を掛ける姿が目に入った。


 あれは以前、私が『鴉天狗』のお披露目を行った時にたまたま会った3人組……アップルさんとグレープさんとオレンジちゃんだった。



 咄嗟に私はカメラを操作して彼らが映らないようにし、マイクのモードを切り替えてノイズキャンセリングを起動する。



 ・なにかあった?

 ・カメラが急に思わぬ方向を向くという



「あ、ごめんなさい皆さん。今ですね、別のプレイヤーに先を越されまして……さすがに映すのはどうかと思いまして、急にカメラを動かしてしまってすみません」


 ・あー、なるほど

 ・カローナ様が酔っ払いと駄弁ってるから……

 ・ちゃんと配慮するカローナ様えらい

 ・これがマイクの新機能の正しい使い方なんだなって



 カメラを自分の顔に向け説明を入れると、使用者さんも納得してくれたようだ。

 クエスト自体は誰が優先だなんてないし、早いもん勝ち。

 配信だからって、先を越されたら仕方がないよね。



「連れて行ってくれないんですか?」


「【テルクシノエ】を助けてやるという申し出はありがたい。が、お前らはあの村を襲う病魔の怖さを本当に分かっているのか?」


「それはっ……」


「下手に手を出されて犠牲者を増やすわけにもいかない。あの村の出身者として、これ以上犠牲を出すわけにはいかないんだ」


「むぅぅ……」



 どうやらオレンジちゃんは反論できない様子。

 この人の我儘ってわけじゃ無くて、身を心配しての発言だからか何も言えなくなってしまったのだろう。



「『【テルクシノエ】に連れて行ってくれるおじさん』ってさ、最初は断ってくるの?」


 ・『【テルクシノエ】に連れて行ってくれるおじさん』は草

 ・最初は断ってくるよ

 ・ある程度情報を入れておかないとダメ



「そうなんだ。どおりで……」



 3人が顔を突き合わせてなにやら相談を始め、腕を組んでうーんと唸り、肩を落として溜め息を吐く。


 息ぴったり過ぎて、見ていて面白い。


 そんな彼らは、しょんぼりした様子でその場を離れようとし───成り行きを眺めていた私と目が合った。


「あっ……」


「か、カローナさん!? お久しぶりです!」


「この前のスペリオルクエストヤバかったですね! 俺見てました! こう、空中を飛び回って……」


「いやマジ、このゲームってあそこまでできるんだって初めて知りました!」


パアッと明るい表情になった3人が駆け寄ってきて私を取り囲む。悪い気はしないんだけど……


「あはは、ありがとう。けど今配信中だから、あなた達が映っちゃうわよ?」


「あっ、ごめんなさい! つい興奮しちゃいました!」


「すみません! 邪魔しちゃ悪いっすね……」


「あ、でもちょっと待ってね。良ければ教えてくれないかしら?」


「何ですか?」


「あなた達、『病葉わくらばの舞う孤島』ってクエストをやろうとしてるのかしら」


「そうなんです! あの人に連れて行ってもらえるって聞いて来たんですけど、相手にされなくて……」


「私もやろうと思ってたんだけど、取り合ってくれない感じだったの?」


「そうですね、説得が難しい感じで……」



 となると、どうしようかな。

 先に『【テルクシノエ】に連れて行ってくれるおじさん』を説得する文句を考えておく必要があるかも。


 私はすでにクエスト自体は発生してるから断られることはないとは思うんだけど……



 あれ? 何か変だな?



「あなた達って、クエストが発生してる?」


「え? いえ、あの人を説得してクエストが開始するんじゃないんですか?」


「そうだよね。視聴者の皆さん。それであってる?」


 ・そりゃそうだろ

 ・普通は【テルクシノエ】に連れて行ってくれるおじさんを説得して開始する感じ

 ・あれ? カローナ様ってティターニアちゃんからの依頼ですでに発生してね

 ・確かに



「なるほど、そういうことか……私は今からクエストに行くんだけど、ここで再開したのも何かの縁だし。もしよければ一緒に行く?」


「え、良いんですか!?」


「いやでも、さすがにそこまで世話になるのは……」


「まぁ、あなた達が配信に出てもいいって言うならね。呉越同舟……って、別に敵同士ってわけじゃ無いけど、同じ船に乗りかかった仲間ってことで」


「そういうことでしたら、ぜひ!」


「オッケー! じゃあ、私に任せておいて!」



        ♢♢♢♢



「あん? ……またお前らか。何度来ても【テルクシノエ】には───」


「俺らじゃなくて、こっちの女の子から用があるんすよ」


「どうもおじさん、こんにちは」



 グレープさんに促され、私は前に出て会釈する。おじさんは眉を潜め、怪訝な表情を隠しもしない様子だ。



「自分達で説得できなかったから別のプレイヤーに交代か。それでどうにかなると?」


「説得じゃないんだなー、これが」


「何……?」


「じゃーん、これなーんだ?」



 私はインベントリから一枚の紙を取りだし、おじさんの前に広げて見せる。


 おじさんは目を細めてその紙を覗き込み───直後、目を見開いて私の顔に視線を向ける。



 金箔で彩られたその紙に書かれているのは、紛れもない『妖精女王ラ・ティターニア』のサインと直筆の依頼文。



「私は【テルクシノエ】の調査と救済を、ラ・ティターニア様から・・・・・・・・・・・依頼されたの。女王様から直々の命令、協力してくれますよね、おじさま?」

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