酒場で絡まれるのはファンタジーではお約束
それから一時間ほど経った後。
港町の探索をそこそこに、夕暮れ時に酒場にやってきた。
コメントで指摘されていた『角が生えた男』とやらは見当たらず、どうしようかと悩んでいたのだけど……酔っ払いに捕まってしまったのだ。
彼らは船乗り……それも『
そんな彼らも、私のことを『竜騎士』だと知っていたようで、良い酒のアテができたとばかりに絡まれてしまった次第だ。
「しっかしドラゴンに乗って
「かーーっ! 俺らも船ばっかじゃなくてドラゴンに乗ってみてぇもんだぜ! んで龍騎士だなんて言われてよぉ!」
「バカ言え、お前が乗っても龍騎士どころか、エサにされそうなオークにしか見えねぇぜ?」
「お前の太い腹で乗られたら、ドラゴンだって飛べやしねぇよ!」
「でも私にミルク奢ってくれたし、太い腹も捨てたもんじゃないわよ?」
「ガッハッハッハッ! 『太っ腹』ってか! こりゃ一本取られたぜ!」
「そりゃあいい! どれだけ腹に肉がついても『太っ腹だから』って言い訳できるな!」
「そんな太っ腹の俺らだから仕方ねぇ! おいマスター、嬢ちゃんにもう一杯持ってきてやりな!」
「抜け駆けしてんじゃねぇ! 次は俺が奢ってやるつもりだったんだが!?」
「あ、ありがとう……でも夕飯の時間にもなって家に帰らずに、お酒飲みながら女の子に奢ってるって……奥さん怒りません?」
「おっと、怖いこと言うなよな」
「『海の嵐より嫁が怖い』ってのは、船乗りの間じゃよく聞く話だからな」
「龍騎士様に『嫁の討伐依頼』出したら、サクッと討伐してくれねぇかな?」
「そりゃあいい!
「奥さんに伝えておきますね(^^)」
「まままま待ってくれ!」
「「「ガッハッハッハッ!」」」
こんなやり取りをひたすら続けていた。
最初は見た目でちょっと怖いと思ってしまったけど、話してみるとなかなか気持ちの良い性格の人ばかりで、有意義な時間だった。
そんな風に時間をつぶしていると、ふと店のベルが鳴ると同時に入ってくる一人の人物に目が行く。
長めのマントとターバンのような布で隠してはいるものの、それでも分かる二本の角。
どんな種族かは分からないけど、『
『
「どうやら探してた人が来たみたい。おじさん達、お話してくれてありがとうね」
「……ちょっと待ちな、嬢ちゃん」
私が席を立ち、男のところへ行こうとすると、船乗りの男の一人に手首を掴まれた。
「嬢ちゃんの待ち人って、もしかして
「あいつはやめておけ。ろくなことにならんぞ」
「どうして?」
「【テルクシノエ】の村に病が流行ってるのは知っているだだろう? あいつはそこから逃げてきた男なんだよ」
……なるほど、なんでその男が【テルクシノエ】に連れて行ってくれるのかとちょっと疑問だったけど、もともとその村の住民だったのか。
そこは腑に落ちたけど……おじさん達が口をそろえて『やめておけ』というほどの理由とは考えにくい。
「分かってないようだから教えてやる。【テルクシノエ】に流行る病は、どうも普通じゃない」
「噂によると、身体を悪魔に支配されるらしい」
「悪魔に? ……どういうこと?」
「まぁ詳しいことは分からねぇけどよ。身体の一部が悪魔のように変形し、自分の意思とは無関係に勝手に動くとか……」
「そんな噂があるから誰も村には近づきたがらねぇ。誰も悪魔になんか支配されたくねぇからな」
「あの村にいたあいつだって、悪魔に操られているかもしれねぇ。酒場でのケンカは見ねぇが、あいつが自分の船に乗せた後は分からねぇからよ」
『悪魔に支配された』ねぇ。
確かにおじさん達の心配は分かるけど……こっちにはクリアへの完全チャートもあるし、何なら視聴者さんからのナビゲートもある。
それほど心配する必要はないのだ。
「ま、いざとなれば私なら逃げられるわよ。伊達に
「そうだけどよ……可愛い子が自ら危険に飛び込もうとしてんなら止めたくなるってのが男心なのさ」
「それでも行くってなら止めねぇが、引き際は誤るなよ?」
「大丈夫! ありがとうね!」
私は振り返ることなく、後ろ手に手を振っておじさん達に別れを告げ、席を離れる。後は件の男と交渉するだけだ。
……と、私がその男に声を掛けるため近寄ろうとした直前。
「すみません! おじさん、私たちを【テルクシノエ】に連れて行ってくれませんか!?」
どこか見覚えのある赤色、オレンジ色、紫色のカラフルな髪が綺麗な3人組の男女が、私よりも先にその男へと話しかける。
先を越されたっ———!!
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