閑話 大樹海の異変
初のスペリオルクエストが終了して数日、プレイヤー達は未だ勝利の美酒に酔い、浮ついた雰囲気を醸し出していた。
しかし、
【極彩色の大樹海】への壊滅的打撃。
【ターミナル・オロバス】の崩壊。
果ては、空の崩壊に伴うマップの拡張。
その影響はあまりにも大きく、スペリオルクエストが終了した今もなおアクセス数が記録を更新しているほどだ。
中でも、【極彩色の大樹海】の中心部がオルトロスによって食い荒らされ、開けた大地になったことが大きい。
【極彩色の大樹海】の中心部は、『アネックス・ファンタジア』の中でも屈指の難易度だ。『
そんな【極彩色の大樹海】の中心部が開かれたことにより、プレイヤー達は中心部へと踏み込むことが可能となったのだ。
そこで我々は、あるプロジェクトを打ち立てた。
それは———『大樹海踏破プロジェクト』。
【極彩色の大樹海】を踏破するにはこのタイミングが最も良いと言える。
しかし当然、前人未到の樹海を攻略するのは、困難を極めるだろう。
集まったのは、いずれも腕に自信があるプレイヤー達、総勢15人。
我々はその全貌を明らかにすべく、ジャングルの奥地へと向かうのであった……」
「なんでお前、ドキュメンタリーのオープニングみたいなことやってんの?」
「なんでって……実際ドキュメンタリー作るんだろ?」
そんな風に軽口を叩きあうのは、クラン『カメラマン』に所属する
専用のアイテムを用いることで配信者のように動画を撮影することができ、彼らはそれを使って撮影・編集を行っている。
彼らが手掛けた映像作品は好評で、写真集と共に彼らの人気コンテンツとなっている。
今回は他のプレイヤーに協力してもらい、戦闘職10人と『カメラマン』のメンバー5人、合わせて15人で【極彩色の大樹海】の中心部へと向かうこととなった。
「噂によると、【極彩色の大樹海】にはとんでもない化け物が住んでいるらしい」
「誰も見ていないから真偽は不明だが、オルトロス型を倒したとかどうとか……」
「そんなの聞いたらさ、映像に収めたくなるってもんだぜ」
「めっちゃ昔に流行った『未確認生物を追え!』みたいな番組さ、あれに本気になるの分かるわ」
「未確認生物とかワクワクするし」
「アネファン内だと確実に未確認生物がいるから余計にだよな」
「さすがに女王蜂とか出てきたら太刀打ちできないんで、その時は逃げてもいいよな?」
この先に待っているであろう未知の生物に心を躍らせつつ、彼らは樹海の奥地へと足を踏み入れる。
どこか弛緩した雰囲気の彼らの様子は、確かに
が、ここを支配しているのはプレイヤーではなく『女帝』。
彼女は、自身の領域が汚されるのを決して許さない。
ゴウッ! と、強い風が木々の間を吹き抜け、バランスを崩しかけたメンバー達が思わず足を踏ん張る。
風の発生源は
ワイバーン型を彷彿とさせる、巨大な翅。
禍々しい紋様と極彩色が、見る者すべてに畏怖を与える。
15人のメンバーが見上げる中、その無機質な複眼には
そこにいたのは、10mを優に超えるだろう、巨大な蛾のモンスター。
『ユニークモンスター: フラゴニトロ・ファラエナ―“
「ひぃっ!」
アナウンスと共に、誰かが悲鳴を上げる。
それは、メンバーの中の『鑑定士』によるものだった。
『鑑定機能』は、全てのプレイヤーに備わっている機能の一つだ。しかし、普通のプレイヤーが鑑定によって確認できる内容は『名前』と『レベル』程度であり、その全容は把握しづらい。
『鑑定士』ともなれば、相手のステータスやアビリティなども確認することができるようになり、
そんな
そのモンスターの
「何か分かったか!?」
「こいつ、レベルが百ごじゅ———」
「キュルルルルルルルルルルッ!!」
耳を劈く金切り音と共に、フラゴニトロ・ファラエナの翅が激しく振動し、灰黒色の煙のようなものが視界を覆いつくす。
その正体は、
「まさかっ———」
その
最後に覚えているのは、フラゴニトロ・ファラエナが翅を擦り合わせることによって発生した火花と、直後に視界の全てを覆いつくす灼熱と閃光。
15人のプレイヤー達は、何かをする暇すらなく
遠くからでも分かるキノコ雲を作り出し、【極彩色の大樹海】の一部に焼野原を作り出したフラゴニトロ・ファラエナは、プレイヤー達が消えていくのを眺めた後、ゆっくりとその場を後にする。
もちろん、
“
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