妖精女王ティターニアのおつかい

「さて、改めてカローナよ。私がこの国の女王、『ラ・ティターニア』じゃ」


「よろしくお願いします」


 ・ちゃんと挨拶できて偉い

 ・どっちに言ったんだろう……

 ・この場合はどっちもだろ



 《専属秘書》の称号を入手した後、ライカンに連れられて私は王城の一室へと案内された。


 入ったのは所謂『謁見の間』と言うべきところで、数段高いところに置かれた王座にティターニアちゃんが座り、その脇にライカンさんとお非~リアさんが立っている。



 私はその段差の下で、(形式上だけど)膝を付いて対面しているというわけだ。



「さて、早速じゃが、カローナの実力を見込んで頼みたいことがある」


「はい」


「【ユピテル】から少し離れた場所……湾を挟んだ向こう側にある島にある村、【テルクシノエ】で、原因不明の病が流行っておるとの情報が入ったのじゃ」


 ・テルクシノエ?

 ・あれ、これあのクエスト?

 ・女王様経由でも発生できるんだな



 『カローナ様が頭下げてるの珍しい』とか言う失礼なコメントの中に、どうやらクエストについて知っているようなコメントがいくつもある。



「詳しく聞いても良いですか?」


「うむ……しかし、残念ながらこちらにもほとんど情報がないのじゃ。あまり外部と関わりがない村なのでな」


「そっかぁ……でも視聴者さんが知ってるみたいだし、後で教えてね?」


 ・了解!

 ・意外と簡単だしサクッといけそうだけどな



「受けてくれるかの?」


「もちろん! クリアできたらまた報告にこればいいのよね?」


「……敬語でないのが気になるのじゃが……。まぁ良い、現状の報告と、可能であれば病の治療までできたら万々歳じゃの」


「オッケー! じゃあ早速……」


「そして2つ目じゃ」



 おっと、今から行く気満々だったけど、どうやらまだ頼みごとがあるようだ。


 私を呼び止めたティターニアちゃんに目を向けると、なぜか若干頬を赤らめて目を逸らす彼女の姿があった。


 何これ可愛すぎん?

 同じのじゃロリのカグラ様は余裕があるタイプで可愛いけど、ティターニアちゃんは突然あざとくて、それもまた良い……。



「その……カローナは『ダンサー』なんじゃろ?」


「んっ、職業ジョブの話? それなら確かに私はダンサーよ? サブだけど……」


「それならば、これも頼みごとなのじゃが……その…………私にダンスを教えてもらえないかの?」


「かわよ……じゃない。ダンスを教えるの? いいけど、どうして?」


「それは、その……」


「詳しく話せば長くなりますが……ティターニア様は前王が急逝したことにより、この歳で女王に即位しました。それからというもの、忙しい日々が続き……女王としてではなく、女の子しての嗜みを知らぬまま……」


「あー……ダンスって、『社交ダンス』のことなのね」


 ライカンさんの補足が入ったことにより理解できた。


 確かに貴族、それも王族ともなれば、他の貴族やなんかとの付き合いだとか、社交シーズンだとかでダンスは必須になる。


 私も社交ダンスは当然やったことあるし、その歴史も散々聞かされたものだ。


 でもティターニアちゃんは年齢的にも幼いし、父親の急逝と即位、その後のゴタゴタを考えると、確かにそんなことやっていられるほどの余裕はなさそうだ。


 だからといって、急遽とはいえ『女王』の立場になってしまっては、今さら『できない』とは言いにくいだろう。


 恥ずかしさを堪えて打ち明けてくれたのだ。

 応えるしかあるまい。



「そういうことだったらもちろん協力するわよ?」


「本当か! 社交シーズンまでもう少しじゃ。せめて恥をかくことが無いようにしたい」


「任せて! 私こう見えても、たぶんプレイヤーの中でトップレベルにダンスが得意だからね。ティターニアちゃんをあっという間に国一番のダンサーにしてあげるわ」


「頼もしい限りじゃ。時間がある時でよい、少しずつでも授業してくれるとありがたい」


「了解! それなら、まず最初にやっておくことなんだけど……」


「む? もしかして早速教えてくれるのか?」


「とりあえず体力作りに走り込みと筋トレから」


「えっ」



        ♢♢♢♢



 ふふふ……ちょっと虐めすぎちゃったかも。

 だってティターニアちゃん、筋トレしてるとなんかすごいエロ……じゃない、艶っぽい声出すんだもん。


 上気した頬とそこを伝う汗、そして荒い息遣いと、時々漏れる喘ぎ声……。

 私はそっちの気・・・・・はないけど、これは目覚めてしまうかも。



 ・まだにやけてる

 ・スペックから目を逸らせば、カローナ様も大概こっち側だよな

 ・いやでも筋トレするティターニアちゃんを見てるとこう……心が荒ぶる

 ・規制に引っかからないように頼む



「そうね……ならこれからは配信せずに私一人で楽しむことにするわね」


 ・それはズルい!

 ・ライカンに認めてもって、俺も専属秘書になるか

 ・でもお前らダンス教えられないじゃん

 ・筋トレならガチ勢だからよ



 コメントに適当に反応を返しつつ、新たに発生したクエストを確認する。



 『エクストラクエスト: 妖精女王のダンスレッスン 』

 これは文字通り、ティターニアちゃんにダンスを教えるクエストだ。意外と簡単にクリアできそうだけど……どんな報酬が用意されてるのだろか。



 『エクストラクエスト: 病葉わくらばの舞う孤島 』

 こっちが本命のクエスト。【テルクシノエ】という小さな村に流行る病を治すクエストである。ありがたいことに視聴者さんにも結構クリアしている人がいるようで、ある程度チャートも組まれているようだ。


 クリア報酬でもらえる称号には、摂取したポーションの効果量を上げる効果もあるようで、HPポーション、MPポーション、SPポーションと色々なものを多用する私にとっては必須級である。



 これは速攻で取っておきたいということで、【テルクシノエ】に向かうための船が出るであろう船着き場に来たんだけど……。



「なんか誰も【テルクシノエ】に行くための船を出してくれないんだけど? どうすればいいのこれ」


 ・病気が流行ってる島だからね

 ・船乗りも行きたくないんだろうな

 ・その辺の船乗りに声を掛けてもダメだよ

 ・日が落ちる時間に酒場の片隅で酒飲んでる角が生えた人を説得すれば船出してくれる



「なるほど、それは情報ないと難しいかもね。ありがとう!」



 視聴者さんにガイドしてもらいながらの攻略はズルいかな?

 まぁでも別に禁止されてるわけでもないし、私が気にしてないからいっか。


 夕暮れまではまだ時間はありそうだし、それまでは暇つぶしついでに港周辺の探索でもしようかな。

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