第四章 ~親愛なる————へ~
閑話 暗躍するGM
「ふ~……ゲーム内初のスペリオルクエスト、なかなかに盛り上がったな」
都心部のとある高層ビルの一室に集まった数人の人物の内、一人がそう溢した。
ここは『アネックス・ファンタジア』の運営チームの会議室であり、今はスペリオルクエストが無事に終了したことを記念して祝杯を上げていたところだ。
オフィスでお酒など飲めるわけもないため、缶コーヒーでの乾杯となったが。
如何に超高性能のAIがアネファンをコントロールしているとはいえ、膨大なデータ量、集中するアクセス、そしてその状態が5時間も続くとなれば、運営側も気の抜けない時間が続いたのだ。
「これでようやくゲームストーリーも進んだことだし……」
「新マップとか新モンスターとか確認しとかないとな」
「浮島に行く方法、気づく人居るのかなぁ」
「バグとか起きないといいけど」
「お前らなんで乾杯の直後から仕事の話してんの? 社畜なの?」
初のスペリオルクエストクリアを記念しようというのに、運営のメンバーは四六時中『アネックス・ファンタジア』のことしか考えていないらしい。
いや、会議室に集まって、缶コーヒー片手に談笑してるだけマシか。
この場に顔を出さないどころか、今もサーバー室に籠りキーボードを叩いているGMも居るぐらいなのだから。
「GMさまはサーバー室?」
「だろうな。堕龍戦で色々と想定外もあったし、GMさま的には辻褄合わせないと気が済まないんだろうさ」
♢♢♢♢
無数のウィンドウが現れては消え、キーボードを叩くとさらに現れては消えていく。
数時間、ほとんど休憩もせずにPCを操作し続けるのは、『アネックス・ファンタジア』を生み出したGMであった。
これだけ根を詰めてPCに向かう理由は一つ。
『アネックス・ファンタジア』の調整である。
そもそも、先ほど終了したスペリオルクエストにおいて、いくつものイレギュラーがあったからだ。
女王魔蜂とオルトロス型の戦闘が起こるのも、それで女王魔蜂が勝ってしまうのも想定外。
たった二人でタイタン型を討伐するのも想定外。
カグラの行動も……
『かかか、
ふと部屋の中に響いた声に手を止め、思わず顔をしかめる。
幼いながらも威厳に満ちたその声は、メインサーバの隣に設置されたモニターからだ。
「……他人事みたいに何を言っているのかしら。あなたのせいでもあるのよ、
『ふむ?』
彼女が目を向ける先、アネックス・ファンタジアのメインサーバに並立するように置かれたモニターに、少女の姿がホログラムとして浮かび上がる。
美しい着物と二本の角、せいぜいが10歳前後だというのにも関わらず滲み出る艶やかさ。
その姿は間違いなく、妖怪の長である『カグラ』であった。
正確に言えば、これはNPCであるカグラを動かすAIだ。
会話を可能とするため、ホログラムでカグラの姿を映し出しているに過ぎない。
「カルラに頼まれたからといって、ハクヤガミが参戦するとは思えない。ましてや一般プレイヤーと共闘なんて……あれもあなたの命令でしょう」
『うむ、そうじゃ』
「
『カローナにとって必要だと思ったからじゃな』
「カローナ……あの配信者ね。確かに稀有な能力の持ち主だけど、あなたがそこまで執着するほど?」
『何を言っておる。妾を
「それは分かっているわ。あの女王蜂と適合したのも彼女だったもの」
『お主が知らないだけで、あの世界ではすでに【因子】に適合した者は何名か居る。
ぐうの音も出ない正論。
まさかAIに論破される時が来るとは。
しかしカローナ、カローナと……カグラにそこまで言わせるプレイヤーとは珍しい。
私としては、たった二人でタイタン型を打倒したあのプレイヤーや、ウンディーネ型を消し飛ばした魔法使いも気になる。
特に後者は、ハクヤガミと共闘したことにより好感度が上がり、カグラとのスペリオルクエスト発生の道が開けたはずだ。
……思った以上に、
いや……
「……何を焦っているのかしら。最初から自分で望んだことじゃない」
自らに言い聞かせるように独り言を漏らす。
イレギュラーはあったものの、巨視的には望んだ方向へと確かに向かっている。であるなら、イレギュラーも好意的に見ても良いのではないだろうか。
「
『もちろんです、マスター』
部屋に設置された最も大きいディスプレイに、女性の姿が現れる。
浮世離れした美しさを持つその女性は、女神のような慈愛に満ちた表情で女性を見つめる。
「
『えぇ、お任せください』
誰もが
プライマルクエストを発生させた4人に加え、Mr.Qと共にタイタン型を打倒した『スターストライプ』、ウンディーネ型を消し飛ばして火力ランキング1位に躍り出た『ゴッドセレス』、【崩天】を受け切って見せた『お非~リア』……
ピックアップされた複数人のプレイヤーデータが精査され、『アイリス』の中へと纏められていく。
これらは全て、『アネックス・ファンタジア』の産みの親である彼女にとって必要なものであった。
「『アネックス・ファンタジア』が
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あとがき
ちょっと詰め込みすぎたか……?
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