昨日の友はレア素材(サイコパスではない)

「よくぞ堕龍おろちを打ち倒したのう、カローナよ」



 堕龍おろちを討伐し、ゲーム内初のスペリオルクエストをクリアした私達は、『パレードリア』の拠点で打ち上げ&アーカイブの面々の質問責めを終えた。


 今はその翌日。

 さすがに疲れきっていた私はログアウトしてすぐに寝たかったけど、まさか弟に『風呂ぐらい入れ』と叩き起こされることになるとは……。



 まぁ、確かにそれは乙女としてどうかってことかな。


 ちなみに、失った左腕は元通りに回復した。

 というのも、『パレードリア』のメンバーの中に『大神官』なんていうヒーラー系最上位職業ジョブのプレイヤーがいて、部位欠損すら治してくれたのだ。



 他の方法が『一度死んでからリスポーン』しかなかっただけに、死なずに済んだから万々歳である。



 とはいえ装備は破壊されたままなので、武器も含めて一式全てをヘルメスさんに預けて修理してもらっている。


 あれだけの激闘の後も、ヘルメスさんはまだまだ忙しそうだ。



 そんな感じで一日しっかり休んだ私は、再びログインしてカグラ様と対面しているわけだ。



「倒せて良かったわ、本当に……次の問題が山積みだけどね」


あれ・・のことじゃな。あれがこの世界の真の姿じゃて」


「もっとファンタジーなゲームだと思ってたんだけどなぁ。ちょっと禍々し過ぎません?」


「仕方がないじゃろう。人類の存亡をかけた計画の結果なのじゃからな」


「まぁそうだけど……」



 そう、堕龍おろちの出現も今の空の状態も、当時の人々が必死に生きた結果なのだ。

 そうしなければとうの昔に人類は滅んでいた可能性だってあるわけだし、文句なんか言えるわけもない。



「それにゲーマー的には燃えるしね」


「あれを見て燃えてくると言えるとは、お主もなかなか血気盛んじゃのう」


「だって新しい敵が現れたってなったら、攻略したくなるのがゲーマーでしょう」


「あの空を冒険する必要があるのじゃから、お主のその性格もありがたいものじゃがな。しかし、どうする? 龍の力なくして、お主はあれを攻略できるのか?」


「それは……まぁ何とかなるんじゃない?」


「ふっ……お主の行き当たりばったりで何とかしようとする姿勢、妾は嫌いではないぞ。どれ、ひとつ妾が力を貸してやろう。ボレアバラムの尻尾を出すが良い」



 おっと、なんだかストーリーが進んでるっぽい?

 というかカグラ様は、私がボレちゃんの尻尾を持っていることを知ってるのね。


 ヘルメスさんに渡して何か装備を作ってもらおうと思ったけど……カグラ様に何か作ってもらった方がいいかも!


 ってことで、ボレちゃんの尻尾をインベントリから取り出し、カグラ様へと渡す。



「ふむ、間違いなく龍のものじゃな。……さて、やるかの」


「カグラ様、それは?」



 手の前に魔法陣を展開したカグラ様は、そこから何やら野球ボールサイズの塊を取り出した。黒緑色に脈打つそれは———



堕龍おろちの身体の一部じゃ。回収しておいた」


「えぇ……なんでそんなものを持ってるの……」


堕龍おろちの存在は許容できないが、その強さは評価すべきなのじゃ。そして堕龍おろちが龍を取り込んだように、堕龍おろちの崩壊は龍の力を取り入れることで防ぐことができる」


「つまり、堕龍おろちとドラゴンの素材を合わせることで、安全に堕龍おろちの力を使えるようになるってこと?」


「話が早くて助かるの」



 パンッと両手を打ったカグラ様の目の前で、ボレちゃんの尻尾が分解されてく。


 尻尾の先だけとはいえ、私も余裕で乗れるほどの巨体を持ったドラゴンの尻尾だ。鱗や尻尾など、それなりの量の素材に変化してく。


 そして、続いてボレちゃんの鱗と堕龍おろちの肉が魔法陣に包まれる。


 雷のようなエフェクトを弾けさせながら眩い光に包まれるそれらは、徐々に小さく、洗練された見た目へと変化していく。



 待つこと数十秒。

 光が収まった魔法陣の中から出てきたのは、表面に鱗のような凹凸を持つ、小さなクリスタルであった。


 カグラ様はそれを手に取ると、慣れた手つきで紐を取り付け、ネックレスとした。



「ほれ、受け取るが良い」


「あ、ありがとうございます」



 大きさはせいぜい3cm程度で、翡翠色が美しい。

 光にかざしてみれば、結晶の中に黒っぽい何かが閉じ込められているのがほんのりと透けて見える。



————————————————————

 アイテム名: 禍ツ風纏まがつかぜまとい(アクセサリ)


 説明:脈動する厄災の断片は、その身を押し込めて静かに佇む。不死なる生物は未だ死せず、さらなる繁栄を、ただ只管ひたすらに———


 効果:使用後、『禍ツ風纏まがつかぜまとい』状態となり、1秒ごとにHPの1%のスリップダメージを受ける代わりに全基礎ステータスを1%上昇する。(HPが1になった時点でスリップダメージが停止し、『禍ツ風纏まがつかぜまとい』状態解除までステータスアップを維持)

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「え、強っ」



 HPを消費するとはいえ、最大値で全ステータス約100%アップは破格すぎる。


 Mr.Qクウのエクスカリバーみたいな、『HPが少ないほど能力上昇』みたいな装備とかアビリティがあれば、HP減少すらもメリットに転換できるし。


 まぁ気になるとすれば、発動してから効果量が最大になるまで100秒ぐらいかかるの少しネックか。



 そして、武器とか防具じゃなくて、『アクセサリ』枠なのが最高。


 私カメラしかアクセサリ使ってなかったから、枠がまだまだ余ってたのよね。



「気に入ったかの?」


「もちろん! これ使ったら私がさらに速くなるわね」


「お主が強くなるのなら、妾の望むところじゃて。もし浮島へ行きたいのであれば、カルラに頼むと良い」


「おっけー! って言っても、すぐに行く気はないんだけどね」


「ほう?」


「まだ地上マップを全部回ったわけじゃないし、ヘルメスさんとの話で【モラクス火山】にも行ってみたいなって思ってるしね」


「ふふ……ボレアバラムと別れてから落ち込んでいるかと思うたが、その様子なら心配はなさそうじゃな」


「だっていつかまた会えるでしょ」


「それで良い。……時にカローナよ」


「何ですか?」


「お主の戦いを見て、手合わせ願いたいという妖怪が居る。いつでも良いが、相手になってやってくれ」


「えー……また梵天丸さんみたいな修行が始まるの……?」


「安心せい、梵天丸より数段強い相手じゃ」


「それ全く安心できないんだけど!」



 私は勢いよくツッコミを入れるけど、カグラ様は柳に風とばかりにカラカラと笑うだけである。


 梵天丸さんより数段強いとか、それただの化け物……。



「まぁいいですけどぉ……新しい妖仙流とか教えてくれます?」


「無論。桔梗は妖仙の【雷】……"妖仙流剛術"の使い手じゃ」


「よーし、俄然やる気出てきた。その桔梗さんとやらに、仕合の件受けると伝えてくれます?」


「伝えておこう」


「ありがとう! それじゃ私そろそろ行きますね」



 スペリオルクエストで私のチャンネルもめっちゃ盛り上がったし、早い内に次の配信しておきたいしね。


 新しく買ったマイクの使い心地も確認しておきたいし、ご新規さんを抱え込んでおかないとね!

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