新兵器を携えた私は、画面越しでもファンを〇せるらしい

「皆さんこんにちは! 今日も元気に配信やっていきますよー!」


 ●チョロリスト:[¥5,000] 待ってました!

 ●ロッケン:[¥3,000] スペリオルクエストお疲れ様!

 ・スペリオルクエスト終わっても定期的に配信してくれるカローナ様助かる



「チョロリストさん、ロッケンさん、スパチャありがとうございます! いやー、堕龍おろち戦は大変でしたね、本当に……」


 ・カローナ様めっちゃ生き生きしてたからよかった

 ・龍装状態? とかいうやつ、あれよくコントロールできたよね

 ・無限空中ジャンプは強すぎた

 ・俺はオロチ戦参加したけど、なかなか怖かったぞ



「いやホント、龍装状態が今も使えたら良かったんだけど……まぁバランスブレイカーすぎるから仕方ないか」


 ・クリアしたからヨシッ!

 ・なんか、今日カローナ様の声良くない?

 ・いつも美声定期

 ・声が良くなったのはなんとなく分かる



「あ、気づきました? 実は、マイクを新しくしまして」


 ・本当だった

 ・ワイの耳に間違いはなかった

 ・マイクの変化を聞き分けるとか、普段からどんだけ配信見てるんだよ

 ・これだけのために生きてるんだから当たり前だよなぁ



 実はスペリオルクエストを配信していく中で、あれだけの激戦だからか声が聞きづらいという意見が多かった。


 いつもは『次元超える天文鏡』付属のマイクを使っていたけど、いい機会だからと外付けの高性能マイクを購入したというわけだ。


 外付けだからアクセサリ枠を使う点と、少々値が張った部分が気になるけど。



「でもこれなかなかすごくてね? 私の声の波長やなんかを登録しているから、モードを切り替えることでAIが私の声を判断して優先的にひろうことができるのよね。もちろん周囲の音を拾うこともできるわよ」


 ・はえー、すっごい

 ・今のマイクはそこまで進化してるのか……

 ・カローナ様の声がよりはっきり聞こえるようになるってこと?

 ・それだけで最高

 ●プレーンかき氷:[¥10,000] マイク代に



「あっ、プレーンかき氷さん、ありがとうございます! 将来的には『パノプティコン』も導入したいなぁと思ってたり……」



 『パノプティコン』……正式には、『360°全方位対応4Dライブシステム』。

オート操作の無数のカメラが某監獄のように配信者を取り囲み、360°全方位から撮影した動画を高性能AIが瞬時に統合して配信するシステムである。


 もちろん、オート操作されているカメラ自体は映らない仕様だ。


 私が使ってる『次元超える天文鏡』の完全上位互換みたいなもので、動画を見ている視聴者さんにも、画面を見ながらもフルダイブしているかのような没入感を与えることができる優れモノだ。


 もちろん視聴者さんが使っているPCのスペックにもよるけど。


 と言いつつ『パノプティコン』は高くて手が出ないんで、今はまだ夢の話だ。



「その話は置いといて、とりあえずマイクの紹介ですね。実はこれまだ機能がありまして……ちょっと待ってくださいね」



 マイクを弄り口の付近に持ってくると、カメラに顔を近づけて覗き込む。


 『エッッッッ』とか、『キスされるかと思った』とか、コメント欄が賑わう中、私はそっとマイクに息を吹きかける。


 優しく、擽るように、だ。


 そして、そのまま語り掛けるように静かに口を開いた。



「どうです? すぐ耳元で囁かれるように聞こえますか……?」



 そう、このマイクに備わる機能の一つに、バイノーラル機能がある。

本来ダミーヘッドやなんかを使って録音するものだけど、今の技術で簡単に再現できるのが便利だ。


 面白半分……ではないけど、もともとこういうのに興味はあったから、この機会にちょっと奮発してバイノーラル機能を持ったマイクを導入したというわけだ。



「って感じで、モードを変えればASMRも可能になるんです。気に入ってもらえましたか?」



 再び通常モードに切り替え、視聴者さんに問いかける。


 が、無言。


 誰一人としてコメント欄に書き込まない。



「あれ……? 皆さんどうしたんですか? 何か反応してくれないと……」


 ●カローナ様のブーツ:[¥50,000]

 ●チョロリスト:[¥30,000]

 ●オルゾ・イツモ:[¥50,000]

 ●腹回りデブリ:[¥25,000]

 ●ブラック社員シャイン:[¥50,000]

 ●寺野サウルス:[¥20,000]

 ●ミカL:[¥15,000]

 ●うぬらの卵:[¥50,000]



「待って怖い怖い怖い怖いっ!」



 何が起こったし!

 高額スパチャが無言で連打されるのは怖いって!



 ・昇天したかと思った

 ・カローナ様の息がっ、耳にっ!

 ・なんかもう……死んでもいいです

 ・あーっ、もう、あーっ!

 ・助かる。とても助かる

 ・もうこれだけで天下とれる

 ・にやけが止まらない……

 ・今の一瞬で確実に俺の婚期が遅れた

 ・カローナ様の囁きASMRとか俺らを殺しに来てるとしか思えない

 ・好きです、いや本当に

 ・耳が幸せ過ぎる……

 ・喋る直前の唾液の音でやられたのは俺だけじゃないはず

 ・カローナ様のイチャラブ囁き添い寝ASMR配信をしているのはここですか!?

 ・↑お前ゴッドセレスだろ

 ・何がそうなってそんな尾ひれが付いたしww



「イチャラブでも添い寝でもないし。囁いただけだし。でもまぁ、ここまで反響があるならやってよかったかも?」


 ●ゴッドセレス:[¥100,000] もう一度お願いしますわ! ぜひ! カローナ様の囁きで助かる命があるのですわ! 後生ですから!

 ・必死すぎてちょっと引く

 ・これセレスちゃん以外がやったらブロックの対象だよな

 ・セレスちゃんだからこそ許される暴走



「えぇ……10万はやりすぎでしょ……」



 これには私もちょっと引く。

 どれだけ本気なんだこの人は……いや、普段の様子を見てるとこれぐらいやる人だ。


 しかし、セレスさんの願いを無下にもできない。

 高額スパチャをされてしまったから、というのはもちろんだけど、私の唐突なコラボ配信も快く引き受けてくれたし、セレスさんのおかげで私のチャンネル登録者数もかなり増えたのだ。


 それに、ウンディーネ型相手にMVPを取るほど活躍したセレスさんなのだから、何かと労ってあげたいという思いもある。



「うぐぐぐぐ……分かりました……」



 再びマイクのモードを変更。

 バイノーラルモードにして顔を近づけた。


 ……改めてやろうとするとかなり恥ずかしいわねこれ!


 さっきみたいに不意を突く感じじゃないし、みんながカメラの向こうで期待していると考えると……







 なんだか妙にゾクゾクしてくるのは、危ない感情だろうか。



「んっ……。お疲れ様です……今日もお仕事を頑張ったあなたを、私がじっくり癒してあげますね……♡」



 そして再び沈黙が訪れる———

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