その翼に誇りを、その瞳に覇天の輝きを 31

 ヒュンッと風切り音と共に『魔皇蜂之薙刀』が宙を裂き、堕龍おろちの分体が消えていく。遠目にいる分体にはこちらから間合いを詰め、ひたすら斬り倒していった。


 コハク達と比べればまだやりやすいなぁ。

 コハクと違ってただ向かってくるだけだし、あの時と比べてアビリティがかなり強化されてるから対応も簡単だ。


 ただ、じゃれてきただけのコハクと違って殺意マシマシだから油断はできない。



 そんなことを考えつつ、【トゥール・アン・レール】起動。

 薙刀を振るった隙をついて襲い掛かってきた分体に対し、回転力を生み出すアビリティを発動し、その遠心力で薙刀を叩きつける。


 クリティカルをミスったからか、分体は弾かれただけでまだHPは残っていそうだ。

 仕方ない。


 回転を止めないまま【ウェーブスラッシュ】を放ち、数体の分体を巻き込みながら残りのHPを削りきる。


 ダメージエフェクトと共に消えていく堕龍おろちの分体を眺めつつ、SP管理のために一旦下がって休憩。ついでにMPポーションを飲んで【変転コンバージョン】を維持しておく。



「カローナちゃん、上!」


「っ!?」



 突如響いたMr.Qの声に迷わずバックステップを踏むと、ズドンッ! を音を立てて新たな堕龍おろちの分体が降ってきた。



「えっ、ちょ、デカいって!」



 新たに現れたそいつは見上げるほどに巨大で、上半身は人間のような姿で下半身は馬のような獣と、ケンタウロスのような姿だ。手にはこれまた大きな生物の背骨をそのまま使ったかのような槍を持っており、その巨体と相まって相当なリーチがありそうだ。



「さっきまで量で攻めてくる感じだったのに!」


「弱いけど数が多いやつで体力を削っておいて、疲れてきた辺りで追い詰めようってか? 堕龍おろちにそんなこと考える頭があるなんてね」


「さすがに偶然だと思うけど……梵天丸さんも手伝って!」


「ふははは、これはまた遊び甲斐のありそうな相手である!」


「Burururururururu……」



 ゆったりとした動きで天に向かって槍を掲げるケンタウロス。

 するとその槍の先に眩い光が灯り、エネルギーの奔流がまとわりつく。


 あっ、これアビリティエフェクト……食われたプレイヤーの能力とか奪われたな?



「回避ぃっ!」


「Bururururururu!」



 直後、勢いよく振り下ろされた槍から幾閃もの斬撃が放たれた。

 地面を抉りながら迫るそれはスピードも速く、明らかにプレイヤーのアビリティのものだ。

 けどスケールは堕龍おろちように調整されていて、安地が狭い!



「キツイって!」



 【ア・ナリエール】と【パドル・ロール】を併用し、その間を抜ける。

 はっきりと地面に裂傷を刻むほどのその威力は、かすっただけでも私のHPを消し飛ばすだろう。


 特にこのアビリティのような『MPを消費して斬撃を飛ばす』タイプの技は、風圧と言うか魔力圧というか……とにかく目に見えている以上に当たり判定が広かったりする。

 それがあるおかげで普通のプレイヤーはあまりアビリティを外すことはないのだけど……


 サイズが大きくなるだけでこんなに厄介になるなんてね!



 まるでアメフトでラインマンの間を抜けるランニングバックのように、攻撃の間に身体をねじ込んで抜けると、二撃目を放とうと再び槍を掲げるケンタウロスの姿があった。



「それは許さないわよっ……!」


「ぬんっ!」



 それにいち早く反応したのは、私と梵天丸さんだった。

 私は【グリッサード・プレシピテ】を使用し、梵天丸さんは元々のステータスの高さを利用し、ケンタウロスが槍を振り下ろし始める前にその懐へと飛び込む。


 梵天丸さんがケンタウロスの肘をカチ上げてその動きを止めるのを横目に、阿吽の呼吸で私はケンタウロスの指を斬り落とす。


 何本かの指が斬り落とされたケンタウロスは槍を握ることができず、巨大な槍は手から滑り落ち始め———



「“妖仙流柔術”———」



 その槍を掴んだのは梵天丸さんだ。

 自身の身長よりもはるかに大きい槍を軽々と持ち上げ、その穂先をケンタウロスへと向ける。



「【小夜嵐】!」


「Bururururururu!?」


「うわっ」



 梵天丸さんの手によって斜め上に向かって放たれた槍は、ケンタウロスの胸の中心をぶち抜いて後方へと飛んで行った。


 梵天丸さん、ムキムキのくせにメチャクチャ速いんだよね……。

 『鴉天狗』の職業ジョブを取るために何度も挑んだからよく知っている。私の『妖気解放状態』+ステップ系アビリティでバフを盛った状態と同じぐらいのスピードだ。


 つまり、【妖仙流柔術】の威力も飛躍的に上昇するという訳である。



 その上、高いSTRと、私の【山嵐】よりも上位の【小夜嵐】を使ったのなら……ケンタウロスの身体をぶち抜くほどの威力が出るということか。



「さすがに俺も見てるままってわけにはいかないんでね!」



 そんなMr.Qの勇ましい台詞は、ケンタウロスの背後から。

 いつの間に後ろへ回っていたのか、ケンタウロスの頭の高さにまで跳躍したMr.Qは、美しい漆黒の剣にアビリティエフェクトを纏わせて構えを取る。


 その視線は、梵天丸さんが投げ、ケンタウロスの胸を貫いたばかりの槍へ向けられ———



「【ラディエルカウンター】!」


 梵天丸さんによって槍が投げられた先にMr.Qが居たのであれば、すなわち梵天丸さんからMr.Qに向けた『攻撃』である。


 カウンターアビリティによって跳ね返すには丁度良い!



 【小夜嵐】の威力にさらに倍率を掛け、『ネグロ・ラーグルフ』によるノックバックを受けたその槍は、さらにスピードを上げて再びケンタウロスへと襲い掛かる!



「ッ———」



 一瞬の交錯の後、槍は轟音を立てて地面へと突き刺さった。

 ケンタウロスは、声を上げる暇すらない。

 狙いすましたかのように跳ね返された槍は、ケンタウロスの頭を木っ端微塵に吹き飛ばしていた。



「まだまだぁ!」



 胸に大穴が空き、頭も砕け散ったケンタウロスに向けて、私はさらに肉薄する。


 どうせここまでやってもまだ生きてるんでしょ?

 全身バラバラに爆破されても復活した奴を知ってるんだから!



 【トゥール・アン・レール】起動!

 進化前の【パ・ドゥ・ヴァルス】は、自分の背骨を軸として、スケートのスピンのように回転するだけであった。


 しかし、進化後の【トゥール・アン・レール】は、回転軸も自由に変化できる!



「アンド【兜割かち】!」


「ッ——————!」



 『魔皇蜂之薙刀』を大上段に構えたまま鉄棒の前回りのように縦回転した私は、その勢いのままに『魔皇蜂之薙刀』をケンタウロスに叩きつける。


 Mr.Qクウによって頭を打ちぬかれたケンタウロスは、声を上げることもできない。

 そんなケンタウロスの傷口を狙った【兜割かち】は、『装甲破壊効果』を存分に発揮して、ケンタウロスの身体を縦に斬り裂いていく


 とはいえ巨体のケンタウロスを両断することは叶わず、馬の身体の胸に当たる部分まで斬り裂いて止まってしまった。



「残念……もうちょっとバフがあれば斬れたんだけど……」


「いやでもナイス、さすがにダメージ入っただろ」


「ワイバーン型ほどの強さじゃなくてよかったわ。でも、再生能力は変わらないみたいね……」



 私たちの目の前には、逆八文字に分かれた身体の断面から触手を伸ばし、身体を繋ぎとめようとするケンタウロスの姿があった。


 畳みかけるなら今がチャンス———っ!?



 ほんの一瞬———気のせいと間違うほどに一瞬だけど、ラグが発生した。

 Mr.Qクウもそれを感じ取ったようでキョロキョロと辺りを見回しているが、梵天丸さんの様子が変わらないということは、やはりゲームのシステム上の問題なのだろう。


 ラグが発生するということは、それほどまでに大きな情報量が一気に送受信されたということだ。


 それこそ、堕龍おろちと同等かそれ以上の情報量を持つ何かが———



「「「「グオォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」」」」



 空気が弾けるような咆哮は、私の背後———つまり『アーカイブ』のクラン拠点の中から。

 姿を見なくても分かる、の違い。


 これまでに『アネファン』内で見たどのモンスターとも明らかに異なる咆哮とプレッシャーに、私は確信した。





 ———ドラゴンの復活に成功した、と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る