その翼に誇りを、その瞳に覇天の輝きを 26

「久しいのう、ホーエンハイムよ」



 巨岩を投げ返した後、カグラはジョセフに一室を借りホーエンハイムと二人で話をしていた。



八千桜神楽やちばなかぐらか、何十年ぶりか……今の君はどっち・・・かね?」


「阿呆め。妾は生まれた時から人間・・じゃて。それは今も変わらんよ」


「それは良かった」


「貴様に人を心配する心があるとは思わなんだ」


「酷いことを言うものだな……。私も君と同じく人間なのだが」


「貴様が人間? 馬鹿を申すな。人間の振りをした悪魔の間違いじゃろ」


「旧知の者に対する挨拶としては随分な言い方ではないかね?」


「妾の病を治してくれたことには感謝しよう。じゃが、それとこれとは別の話」


「……君は、私を恨んでいるかね?」


「当たり前じゃろう。妾が貴様の『ファンタジア計画』の実験台にされて以来、そして今も、妾がどんな地獄を見てきたか貴様には分かるまい。今この場で殺しても良いのじゃぞ」


「ただの『ファンタジア計画』ではない。その発展型、『バイオファンタジア計画』だ」


「知らん。そんなもの、どちらでも良いわ」


「意味は大きく異なるのでね……。だが、君たちにはすまないと思っていることは本当だよ」


「安い謝罪じゃな」


「これで君に許してもらおうなどと思っていないさ。だが、キャロルはきっと許してくれる」


「貴様は本当に馬鹿じゃな。自分のためとはいえ、4人・・も犠牲にしたと知ればキャロルは憤慨するに決まっておる」


「君も似たようなものではないかね? 自分のために、いったいどれだけの妖怪を犠牲にしてきた?」


「妖怪とプレイヤーは根本的に違うじゃろ。我々妖怪・・・・はそういう役割なのじゃからな」


「……君は自分で矛盾を口にしていることに気が付かないのかね?」


「なんのことじゃ」


「それが分からないのであれば、やはり君は人間とはどこか違うようだな」


「死にたいようじゃな?」



 しばらくホーエンハイムを睨んでいたカグラであったが、言っても変わらないと分かると、ハァッと小さく息を吐いて張り詰めていた気を緩めた。


 窓の外を眺めるカグラの視線の先には、巨大な堕龍おろちと、それに果敢に挑むプレイヤー達のものと思われる、アビリティや魔法の光が見える。



「プレイヤーとは、かくも勇敢なものなのじゃな」


「決して善意から行動している者だけではないと思うがね」


「それでも良いのじゃ、堕龍おろちをどうにかできるのならな。……自分よりも遥かに大きい、己の攻撃が通るかすらも分からぬ相手に挑むのに、微塵も躊躇しておらぬ。たとえプレイヤーであっても、死すれば生き返ることはない・・・・・・・・・・・・・というのに」


「この世には知らない方が幸せなこともある。何も知らずに戦うことができる彼らは今、幸せだろうな」


「……妾は死ぬのが怖い、失うのが怖い。じゃが、幾千幾万の命が消えゆくのを見届けてきた妾は、これ以上命が失われるのを見るのが苦しい。のう、妾に救いはあるのか?」


「だからこそ君は、カローナに目を掛けているのでは? 現世うつせ幽世かくりよの狭間でもがく自分を救い上げてもらうために」


「……そうじゃ。彼女の優しさに付け込んで騙し、妾の望みを押し付けたのじゃ。……妾は最低じゃの」


「彼女に知られるわけにはいかないな」


「……いずれ話さなければならない時が来る。その時まで、妾は彼女を手塩にかけて育てよう。彼女は妾の希望なのじゃからな——」



        ♢♢♢♢



「ふ~……疲れた疲れた」


「あ、Mr.Qクウ。お疲れさま」


「そっちもね。ワイバーンといいウンディーネといい、よくやってくれたよ」


「ほとんど人海戦術だったしね。セレスさんやダイヤモンドさんにもすごく助けられたわ。Mr.Qクウも助っ人を呼んだんだっけ」


「そうそう。こいつね」


「本物のカローナちゃん? Very cute!」


「あ、ありがとう……」



 Mr.Qに紹介された『スターストライプ』なるプレイヤーが、なかなか印象に残る挨拶をしてきた。また濃いキャラが現れたな……


 金髪蒼顔のイケメンで、背が高くてガタイが良い。

 アバターだから体格で判断はできないけど、体重移動とかの癖が、なんとなく格闘技をやってる感がある……気がする。



Mr.Qクウが助っ人に呼ぶぐらいだもの、かなりの実力者なんでしょうね」


「Exactry! こう見えてもプロだからネ!」


「総合ランキングじゃ2位だしな。……いつまでたっても俺には勝てない万年2位で、ついに火力ランキングでも2位になった悲しい奴さ」


Shut upうるせぇ!」



 言い合いを続けるMr.Qクウとスターストライプを見ていると、なんだか小学生を見ている気分だ。こういう人の方がランキングで上に行けるのかなぁ。



「ところで、カローナちゃんは堕龍おろちのところに行かなくていいの?」


「いや、『古龍の始原核』を手に入れたし、ドラゴンの復活できないかなって。今カグラ様がここに来てて、ホムンクルスと話してるんだよね。それを待ってる」


「あぁ、なるほど。確かにドラゴンがどんなものかも知りたいしね」



「待たせたの」


「お、噂をすれば」



 しばらくして、会議室にホムンクルスが入ったフラスコを抱えたカグラ様が戻ってきた。

 部屋に戻ってきた瞬間のカグラ様は、どこか愁いを帯びた雰囲気だったけど、私の姿を見た瞬間なぜか目に輝きが戻った気がした。



「カグラ様、話は終わりました?」


「うむ、久方ぶりにあったものでな。つい話し込んでしもうたわ」


「実りのあるものではなかったがな」


「うっし、その話は置いておいて。ホーエンハイム、これでドラゴンの復活はできるか?」



 話を遮ったMr.Qクウは、我慢できないといった様子でホムンクルスへと『古龍の始原核』を差し出した。



「問題ないだろう。これで始原核は4つ揃ったな」


「私とMr.Qクウとミカツキちゃんが1つずつで、もう一つは?」


「私のクランの者が【極彩色の大樹海】に落ちていたものを回収してきた。やはりプレイヤーではない者がオルトロス型を討伐したのは間違いないようだね」


「よし、じゃあ早速ドラゴンを復活させましょう!」



 危ない危ない……またジョセフさんの追及が始まるところだった……。

 背後からジトッとした視線を感じる気が……気のせいだな、きっと。



「Mr.Qといったね。ドラゴンの石像は?」


「持ってる、これだろ?」



 Mr.Qクウがインベントリから取り出したそれは、ズン——と音を立てて床に置かれた。シャープな感じがする、線が細いドラゴンの石像だ。


 そんな石像を眺め、ホムンクルスは懐かしさを噛み締めるように目を細めている。



「結構。早速復活に取り掛かる……と言いたいところだが、これで石像は3つ。あと一つがこの場に無いのだ」


「あー、そうだよね。一個置きっぱなしだったもんね」


「そうだった……え、じゃああれまた取りに行かないといかんの?」



 【霧隠れの霊廟】にリベンジしたとき、私とMr.Qクウとヘルメスさんの3人だったし……あの時、2つ目の石像もインベントリに仕舞えたら良かったんだけど……。



「……誰が行く?」


「私を見ながら言うな。ドラゴンの石像って、今堕龍おろちの足元にあるでしょ? あそこに突撃するの嫌なんだけど……」


「でもこの陣営ならカローナちゃんが最速だし、避け性能もPSも高いから回収できる可能性が一番高いよね?」


「でももう、連戦に次ぐ連戦で私の疲労がヤバいのよ。高機動って集中力使うのよ?」


「前にウルスマ5時間連戦してもピンピンしてたよね?」


「何のこと? カローナちゃん全然分かんなぁい」



「くだらない言い合いをしておる場合ではない。カローナ、お主が行ってくるのじゃ」


「イ、イエス、マム……」





 ちくしょう。

 これが鶴の一声っていうやつか。




─────────────────────

あとがき


あれ?

なんだかカグラ様の様子がおかしいね……?


この話にちょっと詰め込みすぎた感があります……。

『アネックス計画』=星の開拓・移住計画。

『ファンタジア計画』=人類の◯◯◯◯計画。

名前を見れば分かる通り、この二つはアネックス・ファンタジアの世界観の中核をなす超重要なものとなっています。


『バイオファンタジア計画』=?

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