その翼に誇りを、その瞳に覇天の輝きを 27
なんか最近、カグラ様が私に厳しくない?
私が梵天丸さんに200回ぐらいボコられるのを黙って見てたっぽいし、今回も単身で
鬼だったわ。
のじゃロリ可愛いからって、何をやっても許されると思わないでほしいわ。
……のじゃロリ可愛いから許すけど。
なるほど、さっき
その一撃によって前線が崩壊したようだけど、それも一時的な話。
スペリオルクエストに遅れて参戦してくるプレイヤーは山ほどいるし、そもそもプレイヤーはリスポーンするから人の波は途切れることはない。
実際、
「討伐じゃなくてドラゴンの回収と考えると、少しだけ気が楽になるわね。とりあえず
・見れば分かるもんなぁ
・晴れ時々ハリケーンって感じ
・意味わからんけどその通りで草
「笑い事じゃないって」
私の視線の先にいる
どうやら
「ボスモンスターだから広範囲攻撃は分かってはいたけど天候とは……スケールが大きいわね。あの竜巻はともかく、雷とか落とされたらさすがに私も避けられないわよ?」
・普通は雷を避けるとかいう発想は出ないのよ……
・まぁでも竜巻を起こせるやつが雷を発生できないとは思えないし
「だよねぇ……」
コメント欄と雑談しながら、対策を立てつつ歩いて向かう。
まぁ、実際は対策なんてできないんだけどね……。
天気予報なんて無いし、襲い掛かる自然現象を何とかしようなんて、到底無理な話だからね。
『雨が降ってたから傘を差す』はできるけど、そこに雷が落ちてきたら終わりだし。
「ん? なんか今……」
・お?
・どしたん、話聞こか?
・どこのナンパ野郎だてめーは
「いや、こっちの話、ごめんね?」
色々と浮かんできた考えの中の何かが、頭の端の何かに引っかかったような……。
違和感と言うか既視感と言うか……なんだろう。
「……っと、余計なことを考えてる場合でもなくなってきたわね」
いよいよ
「えっ、あっ、カローナちゃん!?」
「こんにちは!
「えっ? えっと、まぁ、見た通りって感じ? 竜巻がキツくて有効打が入らないな」
「ありがとう! やっぱりヘイトが向いていない間に最短距離を行くしかないよなぁ……」
・たまたまそこにいたプレイヤーに話しかけるカローナ様のコミュ力よ
・急に話しかけられるプレイヤー可哀そう
・でもちょっと嬉しそう
「カローナちゃんは今からの参戦なんスね?」
「ワイバーンとウンディーネをはしごした後に連続でここに来たからね、ちょっと疲れちゃってるけどね……おっと?」
「え、おぉ?」
私とそのプレイヤーが見ている目の前で、
そして、その触手一本一本が淡い水色の光を灯す。
「雪……いや、
「え……っ!?」
その瞬間、周囲の温度がガクンッと下がり、空からビー玉ほどの大きさの氷の塊が降ってきた。いや、降ってくるだけならまだいい。その
【パドル・ロール】、【アン・ナヴァン】起動!
「いてててっ!」
とりあえず近づけなくなる前に接近する!
AGIバフを掛けながら『ダイハード・バックラー』を取り出し、せめて顔だけは、とバックラーに頭を隠す。
速くて数も多いけど、単純な物理攻撃だから『ダイハード・バックラー』を抜けるほどの火力はない。それに、私自身のVITは低いけど、その分は『
とはいえ生身の部分は普通にダメージを受けるから、さっさとこの場を抜けるべし!
誰かさんのせいで背中の露出が多いからね!
「おっと、【グリッサード・プレシピテ】!」
風にあおられて根こそぎ抜かれた樹が私に向かってきたのを視界の端に捉え、【グリッサード・プレシピテ】を起動する。
前方移動アビリティを使用してさらに加速!
飛んできた樹を置き去りにしてさらに接近し———
「【ア・ナリエール】!」
身体の向きはそのままに、まるで地面の上を滑るように後ろへ下がった私の目の前で、2つの触手が勢いよくぶつかった。
グシャッ! と音を立てて鱗が飛び散る。
そんな様子も尻目に、触手を足場にして【トゥール・アン・レール】と【グラン・カブリオール】を発動。
連続して上から降ってくる触手を回転で躱し、続く大ジャンプでさらに奥へと侵入!
さらに【グラン・ジュテ】を発動、空中を反復横跳びのように左右に移動しながら触手を避け、
すでに
改めて見るとすごい大きさ———
「なんか今度は黄色になってるわね!?」
・お、マジだ
・いつの間にか雹やんでるな
・カローナ様しか見てなかった
・黄色……あっ……(察し)
「GyuoooooooooooooO!!」
世界に轟く咆哮と共に、空を割く雷鳴と閃光が辺りを蹂躙する。
流石に、音速を超える非物理攻撃だ。
プレイヤー内でも上位のスピードを持っている……と思う私でも避けることは不可能——
「避けられなくても、身代わりはできるもんね」
そんな言葉と、灰になって消えていく『檜の棒』を残して私はさらに地面を蹴る。
雷はより高い場所に落ちる。だから私は、『檜の棒』を突っ立てて身代わりにし、自身は少し離れた場所に伏せてやり過ごしたのだ。
・カローナ様生きてた!
・え、避けた?
・眩しくて分からん
・無事なら何でもいいか
私の思い出の初期装備だったからちょっと寂しい気もする。
【グラン・ジュテ】の最後の一歩を使って
後はドラゴンの石像を探すだけなんだけど……【霧隠れの霊廟】が崩れちゃってるから探しにくい。
・またまた来ました、アーカイブのリアルサポート班です
・もともとの石像の位置と霊廟の崩れ方から、今どこにあるのかを大体算出しました
・我々がナビするんで、それに従って移動してください
・また来たww
・ほんま優秀
「あなた達、有能ってよく言われるでしょ?」
・言われます
・このために勉強してるみたいなところあるし
・ちょっとは謙遜しろよww
・実際有能だからなんも言えねぇ
・とりあえず西北西方向へ
「了解!」
まさか『アーカイブ』の面々がここまで便利……じゃないや。有能だとは思わなかったわ。下校後から始めてもう日が落ちる時間になっているっぽいし、集中力が切れてきた今の私にはありがたい。
「本当はアビリティのリキャストが回復するまで休憩したいけど、仕方がないわね」
それに思ったより
おそらく他のプレイヤーが頑張って攻めているのだろう、おかげで私は意外と苦労せずに侵入できている。
———っと。
ゾクッと、背中が泡立つ気配と共に、私は上を見上げる。
するとそこには、私を捉える無数の目を開いた大量の触手と、同じく無数の目がついた
どうも、身体の部位は関係なくどこにでも目を生やせるらしい。
息を限界まで吐き出し、その後胸いっぱいに空気を吸い込む。私が気持ちを落ち着けるために行ういつものルーティーンだ。
……
ないったらない!
「石像回収RTAェェェッ!」
「GyuoooooooooO!」
・その掛け声は草
・ヒェッ
・いやエグい
【レム・ビジョン】、【セカンドギア】、【エアスリップ】———あぁぁ全然足りない!
雨……と言うか、ミシンの針のように連続して突き下ろされる触手を、ステップを刻んで避けまくる。目が付いているからか、最初よりも狙いが的確だ。
でも、正確だからこそ大きく動かなくても避けることは可能!
ステップ系のアビリティは重ねない方がいいな。
AGIバフを途切れさせないように、効果時間が途切れた瞬間から次のアビリティを発動されていく。
かつてないほどにアビリティがフル回転し、私の脚から、目から、アビリティエフェクトが色を変えながら溢れ続ける。
「ごめん、コメント見る余裕ない!」
アビリティリキャスト、バフの効果時間の管理。
触手の回避。
石像の捜索。
それだけを同時に行なって、さらにコメントまで見ている余裕はない。
視線を周囲に振りながら情報を取り入れつつ、必死にドラゴンの石像を探す。
無数の触手が地面を砕き、宙に舞う砂埃が視界を遮って邪魔だ。
それに、地面が凸凹になって動きにくくなるし……
そんな風に攻防を続けること数秒か数分か……
《アイテム名: 残されし希望》
「それだぁっ!!」
見つけた!
まさか地面に埋まっているとはね。
いや、それはまだ予想できた範囲か。
とにかく見つかってよかった!
「“妖仙流棒術”——【細雪】!」
『魔皇蜂之薙刀』がゆるりと円を描き、上から降ってくる触手の側面を捉える。
私を避けるように軌道を逸らしながら地面を穿った触手を掴み、『“妖仙流柔術”——【山嵐】』を発動!
水平にぶん投げた触手を露払いとして、【グラン・カブリオール】で石像の元へと飛び込む。
臆している暇があるのなら少しでも前へ———
「ゴフッ!?」
・!?
・あぁぁぁぁ!?
・カローナ様がっ!
・あっ、これは逝ったな……
アメフトのタッチダウンのようにうつ伏せで飛び込んだ私の背中を、
コメント欄が悲鳴の嵐となったが、夥しいダメージエフェクトと暗転する視界の中では、それに目を通すほどの余裕はない。
けど、今はそれでいいや。
私のHPが0になるその直前、確かに触れた私の指先は、コンマ数秒の差でドラゴンの石像をインベントリに回収できたことを意味していた。
♢♢♢♢
その生物に感情はない。
あるのは底なしの『強欲』だけ。
だからこそ、それを奪われた事実は、
『———強欲に苛まれる災厄が、本能に従いその姿を変える———』
『
『
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