その翼に誇りを、その瞳に覇天の輝きを 25
【霧隠れの霊廟】———すでに崩壊し、原型を留めぬほどに崩れたその場所に、それは鎮座している。
空を覆うほどに巨大な
異形の翼を畳み、大地を睥睨していた。
そんな
「へへっ、ワイバーンだのタイタンだの関係無ぇ。本体狙いが一番の近道だろ」
「将を射んと欲すれば、将を射っちまえばいいってな」
「ゲーマーたる者、我こそが一番槍じゃないと気がすまないんだよな」
「しかし、いつまでこいつ動かない気なんだ? いや、まぁ変に動かれるよりはマシだけどよ」
「まったく動かないから魔法もアビリティも撃ち放題だけど……効いた様子もないから
「でもそのうちなんとかなるんじゃね? オルトロスもワイバーンもタイタンも討伐されたんだし、本体も一緒だろ」
「ダメージエフェクトは出るから、一応は効いてるんだろうけど……蚊に刺された程度なんだろうな」
「ゆうて俺は100万匹の蚊に刺されたら死ぬ自信ある」
「つまり死ぬまで刺せば殺せるってことだな!」
「ダメージの蓄積があればいずれ倒せるってことだろ」
『アネックス・ファンタジアをプレイ中のすべてのプレイヤーにお知らせします』
『現時刻をもちまして、
『参加したプレイヤー全員に、アイテム:
『アイテム: 残されし希望 を所持している参加プレイヤーに アイテム: 古龍の始原核 が与えられます』
『瞬間火力ランキングが変動します』
『プレイヤー名: ゴッドセレス が瞬間火力ランキング1位にランクイン!』
「お、噂をすれば」
「ちょっと待て、セレスちゃんが瞬間火力ランキング1位? スターストライプの
喧騒の中突如として響いたゲームアナウンスに、歓喜の声や、ゴッドセレスが瞬間火力ランキング1位を獲得したことへの驚きの声が広がる———
———その時だった。
「GyuooooooooooooooooO!!」
「っ!?」
「な、なんだぁっ!?」
崩壊した【霧隠れの霊廟】を強靭な脚で踏みしめ、天を仰ぐように
そして———
何らかの攻撃かと身構えるプレイヤー達は見た。
破壊音を響かせながら、遠方からせり上がる
「はっ、ちょっ」
「あれ、もしかしなくても攻撃だよな?」
「早く逃げ———」
「
いかに逃げ惑っても、360°全方位から迫る壁のような地面から逃れられるはずもなく——
一帯を染めるほど大量のダメージエフェクトを漏らしながら、凄まじい圧力で直径数十mに及ぶ球体になるまで圧縮された岩盤の塊は、
より多くの命を求め、破壊を
♢♢♢♢
時は少しだけ遡り。
ウンディーネを討伐して再び『アーカイブ』の本部に帰還したカローナは、ジョセフに出迎えられた。
ワイバーンを倒したときはわざわざ出迎えなんてしなかったのに……いや、別に出迎えて欲しいとは思ってないけど。
しかし、なんとなく浮わついた雰囲気のジョセフを見ると、目的は私じゃなくてもう一人の女の子……つまりミカツキちゃんの方だろう。
大方、あの場にいたアーカイブのメンバーからジョセフへ、『
「お帰り、カローナ君。そちらの子はミカツキ君だね?」
「えっ、名前知られてるの怖い……」
「あれだけ教祖様みたいなことしておいて今さら?」
「あ、あれはっ……気持ち悪いお兄ちゃん達が勝手に……!」
「ミカツキちゃんって切れ味鋭いよね」
・気持ち悪いお兄ちゃんww
・確かにあれは気持ち悪いわな
・お前もカローナ様に対してあんな感じだろ
・完全に同族嫌悪で草
・でもミカツキちゃんに惹かれ始めてる自分がいる
「コントは後にしてくれないかね? 『
「まぁやっぱりそれが目的だよね」
「スペリオルクエストは間違いなくプライマルクエストと連結している。であれば、『
「という訳でミカツキちゃん、ぜひジョセフさんとゆっくりしていってね」
「えっ、えっ」
ごめんねミカツキちゃん……私も女王蜂の件でジョセフさんに追及されたくないから、ちょっとスケープゴートになってね……。
戸惑うミカツキちゃんの背を押して、ジョセフさんへと差し出す。
ちょっと目が怖いジョセフさんに、私もミカツキちゃんも若干引いていたけど……
そんな時、『アーカイブ』のクラン拠点に、メンバーの一人らしきプレイヤーが、何やら慌てた様子で転がり込んできた。
「やべぇ! ジョセフさん、マジやべぇっ!」
「落ち着きたまえ。『ヤバい』では何も分からないではないか」
「
そのプレイヤーに促されるまま外に出ると、彼が『ヤバい』と声を荒げる理由がすぐにでも分かった。
「まさかあれ……こっちに向かってきてる?」
【霧隠れの霊廟】の上空にあたる位置から、ゆっくりとこちらへ向かってくる……じゃないな。
ここら一帯をまとめて消し飛ばせるほどの巨大な岩の塊が、こちらへと向かってきていた。
「確かにこれはやっばい……!」
「ふむ、どうやら
「なんでジョセフさんはそんなに落ち着いてるの!?」
「どうしようもないことが分かるからね。あれを回避するには、もう時間が無さすぎる。破壊しようにも、ゴッドセレス君やスターストライプ君ほどの高火力が必要だろう」
「じゃあどうしろって……!」
「カローナよ、狼狽えるでない」
「っ!?」
幼い女の子のようで、どこか威厳のある声は私の背後から。
いつの間に現れたのだろうか。もはや聞き慣れたその声の正体は、間違いない。
【鬼幻城】に住まう妖の長、カグラ様だ。
カグラ様は私の隣に立ち、迫りくる巨岩を悠然と眺める。
「カグラ様、どうしてここに……」
「あ奴が無茶をするからのう、まったく……。街を壊されるのは妾としても看過できんのでな。あれは妾が何とかしよう」
「えっ———」
「その代わり、お主らは本体を何とかするのじゃ。さて———顕現せよ、『沙羅双樹の花の枝』」
カグラ様の左手に現れたのは、見たこともない文字が刻まれた、不思議な雰囲気を持つ木製の棍。それを小さな手に握りこみ、やけに真剣な表情を浮かべるカグラ様の横顔は、彼女の右手と……突如として現れた般若の面に隠れてしまう。
巨岩はすでに、目と鼻の先だ。
地面にぶつかるまで残り数秒———
「———“妖仙流秘奥義”、【禍ツ空墜トシ】」
カグラ様が巨岩へと向けて伸ばした右手を、ゆっくりと握りこむ。
すると、それに従うように巨岩は空中でピタリと
私やジョセフさんが絶句する目の前でミシミシと音を立てて巨岩の表面に
「ほれ、返すぞ」
カグラ様によって
巨岩が地面に激突し轟音が鳴り響く中、振り返ったカグラ様は言い放つ。
「これは
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