その翼に誇りを、その瞳に覇天の輝きを 21

 いくらカルラが【座標転移テレポート】を持っていると言っても、どこにでも自由に転移できるわけではない。


 基本的には、各街をポイントとして登録していて、そのポイントへはどこからでも転移できる———つまりワイバーン型の戦場から【アーレス】までは一気に戻れても、【アーレス】からウンディーネの戦場まではダッシュすることになるのだ。



 私だけ戦場を離れて『アーカイブ』の本拠地まで来たし、ウンディーネをセレスさんに押し付けてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


 できるだけ早く戻ろうと、SPスタミナポーションをがぶ飲みしながら【エウロパ】へと向かっていた。



 しかし十数分後、私は混沌を極めた光景を目撃することになる———











「「「「「うおぉぉぉぉぉっ!! エルフッ! エルフッ! エルフッ!」」」」」


「「「「「ミカツキ! ミカツキ! ミカツキ!」」」」」


「キモチわるぅ、黙ってもらっていいですかぁ?」


「「「「「イェェェェェェェェァァァァァァァァアッ!!」」」」」



「え、なにこれ?」


 ・カオスすぎる

 ・カローナ様ドン引き

 ・なんだこれ……



 【カルディネ湖】に到着した私が最初に目にしたものは、触手のようなものを大量に生やした赤黒いスライムみたいな姿のウンディーネと、大勢のプレイヤー達。


 そしてプレイヤー達の中心で、おどおどした様子で周囲を煽る小学生ぐらいの幼女アバターと、耳の先が尖った美男美女のNPC———おそらくエルフなのだろう。



 そんな彼女たちを取り囲み、異常な熱気を滾らせるプレイヤーが多数。なんというか、『もう少しでレイドモンスターが倒せる!』みたいな盛り上がりではなく、超人気ロックバンドのライブみたいな状態だ。



 ドン引きとは、こういうことなのだろう。



「おかえりなさいませ、カローナ様!」


「あ、セレスさんどうも。これ何があったの?」


「カローナ様もお分かりかと思いますが、アネファン内で初めて『エルフ』が発見されたのですわ。そのおかげでエルフスキーの皆様が発狂しまして」


「あー、あの界隈って宗教みたいなものだしね。でも熱狂の中心はエルフだけじゃないみたいだけど」


「えぇ、今のところエルフと友好関係を築けている唯一のプレイヤーが、あのメスガ……じゃなくて女の子プレイヤーでして、意外と中身も見た目通りの年齢っぽいですし、その言動がロリコンどもに突き刺さってこの有様ですわ」


「キモ……じゃなくて、セレスさんも本音出てるわよ?」


わたくしがそんな汚い言葉を使う訳ないですわ、おほほほほ」


 ・リアルなメスガキ、だと……?

 ・セレスちゃんもカローナ様も本音が出てて草

 ・まぁでもキモイわな

 ・カローナ様の『キモ……』いただきました!



「あ、カローナちゃんやっほー!」

「この前クエスト手伝ってもらって以来だね!」

「あ、もしかして配信中? なら邪魔しないようにするけど……」


「ユキウサちゃんに、まりッピ、メグメグ! やっほー! 初のスペリオルクエストだし、あなた達も居ると思ったわよ。配信中だけど別にいいわよ? これだけの混戦だしねぇ」


 ・リア友きたぁぁぁっ!

 ・仲良し3人組再登場!

 ・カローナ様は周りもレベル高い……



 この前の配信事故以来、地味に人気があったリア友三人衆の登場に、コメント欄が活気づく。

 そんな彼女たちに簡単に挨拶を交わすと、ふとその後ろにいる二人のプレイヤーに目が行く。


 男女二人組のそのプレイヤーのうち、男性プレイヤーの方には激しく見覚えがあった。

 後ろを向いていて顔は見えないけど、プレイヤー名は『ファルコン』。

間違いない。



「んん~~? セレスさん、ちょっと私のカメラお願い。視聴者さん、ちょっとごめんね」


「なんですの?」


 ・何があったし

 ・どうした?

 ・他のリア友もいたとか?



 カメラのオートモードを解除し、セレスさんにカメラを手渡す。

 流石に身内・・を映すわけにはいかないからねぇ。






ハヤト・・・ぉ? 女の子連れちゃって何してるのかなぁ?」


「ヒェッ!?」



 後ろからこっそりと忍び寄り、ガシッと肩を組んで話しかける。

 ……なんで実の姉に話しかけられて悲鳴を上げるのかなぁ?



「お、お姉ちゃん!? しまった、油断した……」


「ちょっと、モンスターみたいな扱いは酷いんじゃない?」


「カローナさん? え、お姉ちゃんって? ファルコンの知り合い?」


「あ、そっか。カプチーノは知らないんだよね……これ、僕のお姉ちゃん」


「お姉さんって、まさかカナコ先輩? え、あの有名なカローナさんが、カナコ先輩だったの?」


「あれ、私のこと知ってる?」



 ハヤトと一緒にいて、女の子で、『カプチーノ』……コーヒー……モカちゃんか!!



「この事に関しては内密にお願いね……? ところで、あなた達はアネファンデート? あなた達付き合ってるの?」


「付き合っ……!? えっと、そのっ」


「せっかくのスペリオルクエストだし、逃す手はないからね。カプチーノとはたまたま会っただけだよ」


「そういうところだぞこの鈍感系主人公がっ」


「えっ」



 モカちゃんに好かれているのに気づかないのかこいつは。

 『たまたま会っただけ』なんて、軽く流すものじゃないぞ。


 大方ユキウサちゃん達に見つかって、一緒に攻略とかしてたんだろう。


 そこは断って、なるべく二人で攻略しろよ。

 隣でモカちゃんがムスッとしているのが分からないのか。



「まぁ、いいけど……大規模クエストで興奮するのは分かるけど、ハヤトはちゃんとモカちゃんのこと見てやりなよ?」


「えっと……?」


「じゃあそういうことで。私はウンディーネをぶっ飛ばしてくるから」


「うん。……あっ、でも、お姉ちゃんってウンディーネと戦える?」


「え? 戦えるって、どういう意味で?」


「だって、ウンディーネって『物理完全無効』でしょ?」


「えっ」



 ……嘘でしょ?



─────────────────────あとがき


メスガキキャラが一人は欲しかったんです……!

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