その翼に誇りを、その瞳に覇天の輝きを 20

「ほら、こっちだ」


「地震の間隔が短くなってきてる。急いだほうがよさそうだネ」



 堕龍タイタンに詰められれば、スターストライプのアビリティかMr.Qのネグロ・ラーグルフによって隙を作りルートを修正、そしてドラゴンの石像をエサに誘導する。


 そんな行動を繰り返し、堕龍タイタンと二人は徐々に目的地に近づいて行った。


 その途中のこと———



「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」


「これはビックリだネ!」


「Gyararararararararararara!」



 アビリティエフェクトを纏った堕龍タイタンが、その拳を振り下ろして地面を叩く。直後、凄まじい爆発を起こして、堕龍タイタンの巨体が宙を舞う。


 案の定、堕龍タイタンはスターストライプの他のアビリティをコピーしているようで、【グラウンド・ゼロ】を地面にぶつけ、その反動で空を舞って二人を追い始めたのだ。



「あいつ自分がダメージ受けるのも気にしてねぇ! 生き延びるためにドラゴンを狙ってるのに自傷してたら本末転倒だろ!」


「それほどドラゴンが欲しいんだろうネ! うぉっと!」


「いや、キモいキモいキモい!」



 大質量の堕龍タイタンが地面へと落下し、轟音と共に地面にヒビを広げる。そんなボディプレスでも二人を潰せていないと分かるや、堕龍タイタンは指を足代わりに地面を蹴り、ゴキブリのように這い寄ってきたのだ。



「すまんスター! ちょっと時間を稼いでくれ!」


Leave it to me任せろ! 本物を見せてやるよ、【グラウンド・ゼロ】!」


「Gyarararararara!?」



 今度はスターストライプが放ったアビリティが堕龍タイタンを襲い、爆発が巨体を包み込む。

 意外なことに堕龍タイタンはスターストライプのアビリティ一発で動きを止め、その隙にMr.Qは火口付近まで移動する。



「Gyararararararara!」


「おぉっ?」


「ナイス時間稼ぎだ、スター。とりあえず石像設置してきた」


「あぁ、だから急に狙いを変えたんだネ。……けどあのままだと、タイタンと一緒に石像もダイブしないかい?」


「それは流石に分かってる。だからこうするのさ! ”天の鍵よ、我が意に応え道標を示せ”」



 神装武器ミソロジーウェポン・聖剣エクスカリバー起動!


 Mr.Qの全身からダメージエフェクトが弾け、そのエフェクトを吸い込んだ黄金の宝剣はさらに輝きを増す。現HPの8割を削る代わりに、全ステータスにバフをかける。


 それだけでなく、アビリティの威力と効果の上昇、リキャストと後隙の短縮など、『勇者』にのみ許された強力な効果の徳用パックだ。


 ただでさえエクスカリバーのコストにHPを削るうえ、火口付近ともなるとその高熱でスリップダメージを受ける。



「時間はほとんどない。一発で決めるぞ!」


「Of course!」


「Gyararararara!」



 ドラゴンの石像をその手に掴まんと、堕龍タイタンが身体を持ち上げ———



「今っ! 【双舞鶴ふたつまいづる】!」


「【ドゥルガー・スマッシュ】!」


「Gyara?」



 そこへ二人がアビリティを叩き込む!

 元々バランスが悪い形状をしている堕龍タイタンだ。

 強力なノックバック効果を持つ二つのアビリティを受ければ、容易に体幹が揺れる。


 スローモーションのようにゆっくりと堕龍タイタンの身体が揺れ、火口へと投げ出されていく。

 落ちていく堕龍タイタンを横目に、Mr.Qはドラゴンの石像を回収しようと走り出し———



 ———ズンッと強い衝撃が駆け抜け、続いて大きな地震が発生し始める。



「Gyararararararara!」


「こいつ、火口に【グラウンド・ゼロ】撃ちやがった!」



 ただでさえこの場所は、堕龍タイタンとの激しい戦いの余波によって地面はひび割れ、そこからマグマが溢れ出していた。


 そこへ堕龍タイタンによる【ティタノマキア】と、極めつけの【グラウンド・ゼロ】……爆発寸前だった活火山にどんな影響があるかは想像に難くない。


 連続して続く大きな地震は、『ターミナル・オロバス』の火山が噴火直前であることを示していた。



「くっ……そっ!」


「んグッ!?」



 崩れ行く足場の上でゆっくりと火口へ落下し始めるドラゴンの石像を目掛け、躊躇なく飛び込んで石像をインベントリへとしまい込む。と同時に、左手から伸ばした糸をスターストライプへと絡ませ、必死のバンジージャンプとしたのだ。



「すまん!」


「そういうのは先に言ってほしいネ! 【バタリング・チャージ】!」



 【バタリング・チャージ】は、STRやAGIにバフをかけて突進するアビリティである。それを火口から離れる方向へ発動することによってMr.Qを引っ張り上げるのだ。


 その目論見通り、まるでカツオの一本釣りのように引っ張り上げられたMr.Qは、空中で身体を翻して着地した。



「ナイスだ!」


「下手したら俺まで消し炭だったんだが!?」


「後で謝るから! とにかく今は———」



 逃げろ———その言葉は、直後に鳴り響いた凄まじい爆発音によってかき消された。


 身体が吹き飛ぶほどの衝撃波が駆け抜け、少し遅れて灼熱が周囲を包み込む。

 噴き出る火山灰と硫黄の香り、弾丸のような火山弾が辺りを蹂躙し、ただでさえ地獄のような光景であった【ターミナル・オロバス】を本格的に崩壊・・へと導いた。



 遠く離れた【エウロパ】の街にいたプレイヤー達は、鳴り響いたその災害に思わず目を向け、立ち上る黒煙に全てを察する。


 しかしまさか、その噴火に二人のプレイヤーと一体のレイドモンスターが巻き込まれているとは思いもしなかった———








『アネックス・ファンタジアをプレイする全てのプレイヤーにお知らせします』


『現時刻をもちまして、レイドモンスター: 堕龍おろち・タイタン型 が討伐されました! MVPはプレイヤー名: スターストライプ、ラストアタックはプレイヤー名: Mr.Q です』


『参加したプレイヤー全員に、アイテム: 堕龍おろちの堅竜鱗 が与えられます』


『アイテム: 残されし希望 を所持しているプレイヤーに アイテム: 古龍の始原核 が与えられます』


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