その翼に誇りを、その瞳に覇天の輝きを 19

まえがき


記念すべき第100話!

タイタン型、サクッといきます。


─────────────────────


「さて、リベンジマッチと行こうぜ?」


「Gyarararararararara!」



 それから20分ほど経ったころ。

 使い捨ての簡易転移装置ポータルを惜しげもなく使い、100kmの道のりを踏破したMr.Qとスターストライプが、堕龍タイタンと対峙する。


 いったいどこから声を出しているのか、シャクトリムシのように移動していた堕龍タイタンはまるで蛇が威嚇するかのように鎌首をもたげ、耳をつんざく金切声を上げた。



「ホムンクルスが言うには、堕龍おろち……いや、『侵略的悪性新生物』は、癌と同じで周囲の生物を無作為に取り込み続け、巨大化したという」



 現に堕龍タイタン魔導機兵マギ・トルーパーの装甲を備えていたように、取り込んだ相手を自分の身体の一部として使える能力を持っているということだ。



「けど、生態も能力も、何もかもが異なる生物を混ぜ合わせるなんてことをしたら、バランスを崩してまともに生きることなんてできないのさ」



 人間に翼を付けたからといって、いきなり空を飛べるようになるわけではない。むしろ余計な器官が付いていることへの違和感に悩まされることになるだろう。


 だからこそ、身体を強いに押し込む必要がある。



 開いた『手』のひらに覗く一つ眼でMr.Qを捉えた堕龍タイタンは、彼を押し潰さんと掌を振り下ろし———



「欲しいのはこれだろ?」


「!!」




 ———インベントリから取り出されたドラゴンの石像を前に、堕龍タイタンは動きを止めた。



「人間なんて、別の血液型の血を輸血したらそれだけで死ぬ可能性だってあるんだ。何も考えずに色んな生物を取り込み続けた堕龍おろちがどうなるかなんて、簡単に予想はつく……って言ってもこれは、ジョセフさんから送られてきたメッセージそのままなんだけどね」


「Gyarararararara!」



 ドラゴンの石像を奪い取ろうと迫った堕龍タイタンに対し、Mr.Qは石像をインベントリに仕舞ってヒョイッと避ける。ただ掴みかかってくるだけの直線的な動きほど避けやすいものはない。



 目の前に居るプレイヤーには目もくれず、ドラゴンの石像を狙う堕龍タイタン

 そこまでドラゴンに執着する理由はいったい何なのか。



 ここに戻ってくる前に、メッセージ機能でやり取りをしていたジョセフとの会話で至った結論。


 それは———



「お前、放っておいても勝手に死ぬんだろ?」


「Gyarararara」



 堕龍タイタンから漏れた空気を震わせるような重低音は、まるで図星を突かれた怒りを表しているかのようで———



 ジョセフからのメッセージを要約するとこうだ。


 堕龍おろちは様々な生物を取り込んで巨大化していったが、その実、拒絶反応……この星における『属性の相克』によってその命を削っていた。


 地球の兵器をもってしても討伐できず、当時の人類に壊滅的な被害を与えていたにも関わらず、次第にその勢力は衰え……カローナ、Mr.Q、ヘルメスの三人が『スペリオルクエスト』として起こすまで、活動を休止していたという事実がある。



 それは、乾眠状態クリプトビオシスのように代謝を減らし、少しでも身体の崩壊を抑えるためのものだと考察している。



「それでも、破滅を免れるわけではない。そのために、ドラゴンの身体が欲しかったのだろう? どうしてドラゴンの身体でそれを逃れられるのかは不明だが」



 しかし、それで延命したとしてもいつまでも生きられるわけではない。

 第一、それで不死になれるのなら、すでにドラゴンが絶滅する寸前まで食い荒らした堕龍おろちがこれ以上ドラゴンを求める必要はない。


 ただの食欲だとも考えられるが……それなら石像ではなくMr.Qやスターストライプを狙ってくるはずだ。



 つまり、今この瞬間にも堕龍おろちは命を削っている。

 そして、そんなスペリオルクエストの構造上、放っておいても最終的には必ずクリアできる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ということだ。



「俺らは、『スペリオルクエスト』はこのゲームのワールドストーリーに関わるものだと考えている。ホーエンハイムの話を聞いていれば、世界規模の大きなクエストだと分かるんだけどね」


 メタ的に言うのであれば、『アネックス・ファンタジア』が『ゲーム』であり、ストーリーのクリアを目的としている以上、運営は初のスペリオルクエストでバッドエンドなんてことにはしたくないはずだ。


 それに、わざわざ堕龍おろちをレイドモンスターに設定しているのも、できる限り大勢のプレイヤーに参加してもらおうという配慮だろう。



「そもそもプレイヤーはリスポーンできるんだし、たった一人でも無限にゾンビアタックすればいつか倒せるしな」



 何年かかるかも分からないし、その間にゲーム世界が壊滅的な被害を受けることになるが。



「けどまぁ、プレイヤーって貪欲でさ、『スペリオルクエスト』なんて凄そうなクエストを目の前にちらつかされたら我慢できないわけで。放っておくよりも自分の手でクリアしたいと思ってしまうんだよ」



 襲い掛かる堕龍タイタンを避けながら、ボコボコとマグマを噴き出す火口の方へと移動する。



「これだけ考察をつらつらと語っておいて、実際はやること変わらないんだよな。ほら、こっちに来いよ。予定通りマグマの中に叩き込んでやるよ!」



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