閑話 一年生クラスの日常(別視点回)
「なぁハヤト、頼むよ本当! 一生のお願い!」
「いや、それならこいつより俺を頼む!」
「焼き肉奢るから!」
「嫌だよ、めんどくさい」
「おまっ、友達に対してめんどくさいなんて酷いな……」
「だってさ、『お姉ちゃんに自分を紹介しろ』って……相手にされないの目に見えるでしょ」
「「「ぅ…………」」」
釣り合わない自覚があるんかい!
そうツッコミたくなる気持ちを押さえ友人の頼みを一蹴するのは、
原因は自身の姉であるカナコ。
女優顔負けのルックスとプロポーション、定期テストで1位を独占し続ける学力、所属するダンス部を全国に導く実力……彼女の『凄さ』を表す話題を探せば、枚挙に暇がないほどだ。
彼らが通うここは、国内でも有数の上流進学校。
当然通う生徒層も、どこかのご令嬢だとか巨大企業グループの跡継ぎだとか、そういった者達が通う学校である。
そんな彼ら彼女らが霞んでしまうほどの存在感を放つのが
そんなカナコを妬む人もほんの少数いるけど、大多数のファンに押し潰されて表にすら出られないという状況にはちょっと引いた。
なぜなら、カナコの学校に居るときとプライベート時とのギャップを知っているから。
ずっと一緒に暮らしているからこそ知っている、カナコの
もちろんそんなことなど露とも知らない他の生徒達は、少しでもカナコとお近づきになろうと、弟のハヤトにまでアタックしてくる始末。
ため息も出てしまうだろう。
「大体さ、お前はいいよなぁ……あのカナコ先輩と一つ屋根の下、一緒に暮らしてんだろ?」
「俺だったら我慢できないね」
「そういうのあるだろ? ほら、風呂場で上がったばかりのカナコ先輩とばったりとか、ドア開けたら着替え中とか……」
「え? まぁ無いことな──何で今足踏んだ?」
「なんかムカついたから?」
「つーかマジでラッキーすけべあんじゃねぇか!? くそがっ!」
「これが敗北の味……!」
「この屈辱は忘れねぇっ……!」
「えぇ……」(困惑)
いや、さすがに実の姉をそういう目で見ることなんてないし、お姉ちゃんも僕のことはなんとも思ってないでしょ。
仲はいい方だと思うけどね。
「というかそれなら、トミーだって妹いるじゃん、
「お前なぁ……あいつは俺のことを『お前』としか呼ばないし、何か言っても『はぁ……キモ……』だぞ?」
「トミーお前……元気出せよ……」
「いやでも、あの可愛い妹に罵られるなら、それはそれで……」
「でも僕がトミーの家遊びに行った時だって、モカちゃんがお茶とかお菓子持ってきてくれるし、色々話し掛けてくれるじゃん?」
「それはだな、ハヤトよ。あいつ、お前に気があるからな。あとカナコ先輩にも」
「えぇ……」
「お前、カナコ先輩を姉に持ちながら友人の妹にも手を出そうってか!?」
「どれだけ俺らを虚仮にすれば気が済むんだっ……!」
「え、こっちに矛先が向くの?」
そもそもトミーとは小学校からの友達だし、モカちゃんとも昔から面識はある。
あとはしつこいナンパ男から守ったり、海で溺れたときに救命処置したりはあったけど……まさかマンガの世界じゃあるまいし。
「あんちゃんだって、
「え、ピノ? ないないww あんな乱暴で口の悪い女……」
(((端から見たらカップルを通り越して夫婦なんだよなぁ……)))
「それにおっぱい小さいしな! カナコ先輩と比べるのも可哀そうな———」
「録音しました(^^)」
「おーい、ぴのちゃん!」
「ちょっと落ち着けよお前ら、な? ちゃんと話合えば分かるって」
「私がどうしたって?」
「ひぃぃっ!?」
「「「wwww」」」
「ねぇ? 乱暴で、口が悪い私の胸がどうしたって?」
「全部聞こえて……!? じゃなくて、それは冗談でっ」
「ふーん? そりゃあカナコ先輩と比べたら負けるじゃん……そんな風に言わなくてもいいじゃん……ぐすっ」
「!?」
「あ! こいつぴのちゃん泣かした!」
「謝れ! つーか慰めてやれ、ほらほら!」
両手で顔を覆って俯いてしまったピノを見て、ハヤトやトミーは面白がってあんちゃんを弄りながら、ぐいぐいと背中を押してピノへと近づける。
当の本人であるあんちゃんは、大きなため息をつきながらガシガシと頭を掻きむしり、ピノの背中にポンッと手を添える。
「謝るから、とりあえず教室で泣いてるわけにも行かないし、ちょっと移動しようぜ、な?」
「ん……」
小さく頷いたピノちゃんは、促されるままにあんちゃんの隣を歩いて教室を出る。
その直前、涙の一粒すら全く無い、明るい笑顔とウィンクを残して。
『二人きりの状況を作ってくれてありがとう』といったところか。
「ふぅ、いい仕事したぜ」
「あんちゃんも大概だよね……あれだけピノちゃんにアプローチされて気づかないのかな」
「気づいてて受け流してるけど、多少なりとも気にしてる感じだろ」
「果たして、彼らは昼休みが終わるまでに戻ることができるのか」
「次回、あんちゃん、死す」
「「「デュ○ルスタンバイ!」」」
男子高校生のノリなんてこんなもんだ。
そんな風に、やんややんやと盛り上がる教室へ近寄る人物が一人。
「ハ・ヤ・ト・くぅん♡」
「っ!?」
ドムッと、強くも柔らかい衝撃が背中に走る。
ふわっと甘い香りと温かさがハヤトの身体を包み込む。
この声と香りは……
「もしかして、うららさん……じゃなくて先輩ですか?」
「せーかい! これだけで分かるなんて、なんかカップルみたいだねぇ?♪」
「っ~~!」
クラス中の視線が集まるのを感じる。
うらら先輩は、実はひそかに人気を集める美人だ。
そんな彼女に後ろから抱き着かれ、あまつさえカップルみたいなやり取りをしていたら、色恋沙汰に飢えたクラスメイトが邪推するに決まっている。
というか、うらら先輩の性格的にわざとやってるに違いない。
「そ、それでうらら先輩は何しにここに来たんですか!?」
「あ、そうそう。かなっちがね? お弁当忘れたとかなんとかで、ハヤトくんが届けてくれるはずなのにまだ来ないって嘆いてたから」
「あ」
そういえば今朝、お姉ちゃんにしては珍しく寝坊して『朝練遅刻する~!』とか叫びながら走っていったなぁ。夜ゲームばっかりしてるから……。
弁当忘れてったみたいだから僕が持ってきたけど、今度は僕がそのことを忘れてた。
「だったらお姉ちゃんが自分で取りに来ればよかったのに……」
「なんかかなっちが、私に取りに行ってほしいって。その方がハヤトくんが喜ぶだろうって」
「ぅ……」
いやまぁ……前にうらら先輩たちが家に来た時に色々あって、それからちょっと意識してしまっている節はあるけど……。
「別にそんなのどっちでもいいんだけど……はいこれ」
「ありがとー! じゃ、かなっちに渡しておくね! ハヤトくんも、
後輩からの目も気にせずそう言い残したうらら先輩は、ブンブンと手を振りながら嵐のように去っていった。
クラスが再起動したのは、それから数秒後のことである。
「なぁお前、いつの間にあんな美人の先輩と仲良くなったんだ?」
「仲いいというか、あれは友達の弟ってことで僕をからかってるだけだと思うけど……」
「つーか『また遊ぼう』ってなんだよ! デートの誘いか? しかも
「カナコ先輩を姉に持ちながらトミーの妹にも手を出し、その上美人の先輩も狙うなんて……!」
「ギャルゲーの主人公かよ」
「モカちゃんに手出してないし、うらら先輩も狙ってないって!」
「いや、ここはまず美人先輩とのデートの話を聞かないとな?」
気が付けば、クラスの男子……だけでなく一部の女子も一緒になり、全方位を囲まれていた。もはや、逃げる術はない。
その後、ハヤトへの怒涛の質問ラッシュは止まず、尋問は昼休憩が終わるまで続いた。
ハヤトのクラスメイト
ハヤトのゲーム仲間。バスケ部で高身長。意外と人気はあるが、カナコ一筋のため『お前には無理だ、あきらめろ』とよく言われる。
富山
ハヤトのゲーム仲間。男に対してはそっけない対応だが、女子に対しては急に優しくなる。そのことを、幼馴染の
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