閑話 お姉ちゃんの友達と……(意味深)
「ただいま~……あれ?」
ある日、加奈子の弟である
もちろんそこは、
コンコンとノックして数秒、無造作に開かれたドアからにゅっとカナコの頭が飛び出してきた。隙間から覗く部屋の中では、姉の友人と思われる女子が3人じゃれあっているのが見える。
「あ、ハヤトお帰り~」
「ただいま。お姉ちゃん今日は早いね?」
「そーそー、ダンス部の先生が出張で部活無くなってさ、この有り様よ」
「それで集まった訳ね……何人? お茶持ってこようか?」
「私入れて4人ね」
「かなっち? もしかして、噂の弟君?」
じゃれあっていた女子のうちの一人(後で聞いたが、うららさんと言うらしい)に視線を向けられた瞬間、何故だか僕の背筋に冷たい何かが走った気がした。
「えっと、カナコの弟のハヤトで……」
「可愛い――――ッ! ちょっ、目ぇ大きっ! まつ毛長っ! 肌スベスベっ! えっ、
「んぅっ!? ちょっ、んぷっ……!」
どうやら直感的に感じた悪寒は正解だったようだ。ものすごい勢いで迫って来たうららさんに頬をガシッと捕まれ、何事かと理解する前に至近距離から覗き込まれながらもみくちゃにされる。
ぁっ、いい匂い……じゃなくてっ!
「止めっ、離し———」
「スキンケアは? 化粧水とか何使ってるの? うわっ、髪もサラッサラ!」
「えー、うららがそこまで言うと気になるなぁ」
「マジ? うわっ、ホントだ! ツルすべ!」
うららさんに触発された後の二人(後で聞いたら、マリアさんとメグミさんというらしい。)があっという間に群がり、各々に手を伸ばして僕の頬や髪を弄り始める。まるでタイムセールで同じ製品を取り合うおばちゃん達のよう。
女の子の手って温かくて柔らか……じゃなくて!
「待っ、いい加減離し———」
「えー、やっぱり遺伝?」
「かなっちもモデルとか女優顔負けのルックスだしねぇ」
「かなっちの美しさのステータスを可愛さに振った感じ?」
「えっ、それは聞き捨てならないわよ!? ハヤトの方が可愛いとか言うつもり!?」
「ベクトルが違うんです~」
「かなっちは可愛いというより綺麗系だもんね……」
痛っ……くはない、けど……恥ずかし……綺麗な瞳……じゃなくて……っ!? お、おおおおっぱ……あ、当たって……! あー、これ、ヤバ……柔らか……じゃなくて、さすがにまず———いい匂い……じゃなくて、あー、もうっ……!
「ぼ、僕お茶淹れてくるね!」
「「「「あっ」」」」
手遅れになる前に逃げるべし!
学年の違いはたった一年。されどハヤトの目には、姉を含め全員が随分大人に映った。そんな年上の美人に迫られて弄り回され、役得……じゃない。さすがに恥ずかしくて死ねる……。
というか、お姉ちゃんの友達フランク過ぎない?
こっちは思春期真っ盛りの高1男子だと言うのに、あんな、あんな……(感触を思い出して手をワキワキ)
……はっ! こんなことしてる場合じゃなかった! さすがに今のは我ながらキモかったな……。
と、とりあえずお茶でも淹れますかね……。
♢♢♢♢
「お待たせー……あれ?」
しばらくしてお茶とお茶菓子を持って姉の部屋に行くと、ベッドやソファに横たわる4人の美人。VRゴーグルをしているのを見るあたり、おそらくアネファンでも始めたのだろう。
「えー、せっかくお茶淹れてきたのに……」
仕方なしにお茶をテーブルに置き———思わずお友達の、若干捲り上がったスカートから覗く白い太股に目が釘付けとなった。先程の、美人三人に取り囲まれたのを思い出して頬が熱くなるのを感じ、改めて気付く。
今の状況、なかなかヤバいんじゃね?と。
姉を含め全員が無防備に身体を横たえ、すでにログインしているのなら意識も没入しているだろう。意識のない美人四人を前に、男が一人。
据え膳食わぬは———じゃない! ダメだろそれは!
自分の中の悪魔が『触るだけ! 触るだけだから!』と囁く。
自分の中の天使が『そんなことしたら殺され……おっぱいでっか』と囁く。
いや、どっちも煩悩まみれだな?
そんなことして後でバレたらお姉ちゃんに殺されるし、とりあえず誤解されないようにこの場から離れ……
「ふふ、ハヤト君は何してるのかな~?」
「ぉわっ!?」
突然の自分に向けられた言葉に、思わず驚きの声をあげる。
「お、お姉さん!? なんでっ」
「なんでって、そりゃあこんな可愛い子たちのこんな無防備な姿を見て、
「そっ、そそそんなこと思ってないし!」
「えっ、そんな風に強く否定されると逆に怪しくない? まぁでも、ハヤト君はお姉ちゃんいるしねぇ」
「いや、さすがにお姉ちゃんは……」
巻き藁7本を刀で一刀両断できる姉は『か弱い女の子』とは言えないし。
「でもさぁ、今の状況ってチャンスじゃない?」
「え……?」
「だってさ、今この三人に何してもバレないし……逆にうちとハヤト君が遊んでても気付かないでしょ?」
「えっと、つまり……?」
「うふふ、うちと
「えっ、あっ! ちょっ、止めっ———」
アネックス・ファンタジア内のとある場所。いつも一緒にプレイしているユキウサちゃん、まりっピ、メグメグの3人はともかく、私は拠点を鬼幻城に置いている。待ち合わせして一緒にクエストに行くつもりだったのだけど……。
「ユキウサちゃん、遅いわね」
「遅いねぇ」
しばらく待っていたけど、ユキウサちゃん、もというららちゃんがログインしない件。
「何かあったのかしら」
「かもねー。案外、ハヤト君が私達の身体に何かしてて、うららちゃんがそれを止めてるとか……」
「いや、ハヤトにそんな意気地無いわよ」
「えぇ……実のお姉ちゃんの評価が辛辣……」
「でもさぁ、どっちかっていうとそれ、うららちゃんがやる側じゃない?」
「「……それだ!」」
「一旦ログアウトするわよ」
「「了解!」」
♢♢♢♢
「えぇいっ、離せ! こんなチャンス今しかないんだから!」
「ダメですーっ!!」
「えっ、どういう状況?」
今見たことをありのまま話すぜ!
アネファンをログアウトしてVRゴーグルを外すと、まず目に入ったのは私に馬乗りしているうららちゃんの姿と、それを必死に止めようとするハヤトの姿。
で、二つほどボタンが外された私の服……。
ははーん、これ、私の予想通りだな?
「うららちゃん、何してるの?」
「あっ、かなっち起きて……!」
「この人お姉ちゃんのこと襲おうとしてたんだよ!」
「だってかなっちが目の前で無防備に寝てて我慢できる訳ないでしょ!」
「ハヤト、私が押さえとくからじいちゃんの書斎から刀持って来て」
「そっか、それを使えば!」
「まさかの手打ち!?」
「違うわよ、自分でケジメ付けてもらうの」
「それ切腹ぅ!」
「というかいい加減降りなさい!」
「まだ私は勝負を諦めた訳じゃないし!」
「私にバレた時点で負けてるんだよなぁ……」
「勝利の定義を変えればよいのだ! かなっちの生乳拝めたら私の勝ちなのよ!」
ん……?
今何か引っかかったような……?
「勝利の定義を変える」、か?
うーん……ふむ、とりあえず……。
「ハヤト、刀」
「すぐ持ってくるよ!」
「わーっ! ごめんて! 謝るから!」
「次やったら警察に突き出すからね」
そんなこんなあって、開始が遅れること数十分。半ば無理矢理うららちゃんを先にログインさせ、四人……ハヤトも入れて五人でようやくアネファンのプレイを始めたのだった。
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