会議は踊る、されど進まず

「誰か、プレイヤー以外の人間・・を見たことがある者は居るかね?」


「ぇっ、あっ……」



 思い返せば確かに……道具屋のおじさんはドワーフだったし、それ以外に出会ったNPCはカグラ様率いる妖怪達だけだ。人間のNPCには出会っていない。


 この場に居る他のメンバーも見覚えがないのか、顔を見合わせてざわざわと声を漏らしている。



「……でもカグラ様は自分達のことを『人類』って言っていたわよ?」


「カグラ様……百鬼夜行に登場する妖怪の頭目だったね? 妖怪が自身を人間と言うのは違和感があるが……」


「不思議なのが、カグラ様は自分が妖怪だと自覚しているのだけど、同時に人間でもある、みたいな言い方だったわ……」


「ふむ……他には何か言及は無かったかね? 例えば……この世界のことをと呼んだり」



 世界じゃなくて星……?

 えっとたしか、女王蜂の話をしてるとき……


——『このに元々住んでいた生物』——



「言ってる……言ってるわぁ……」


「当たりのようだね。これでほぼほぼ決まりだな」



 ジョセフをパンッと手を鳴らし、自身に注目するように促す。まるで学校の先生のようにゆっくりと見渡し、全員が静かに彼に注目したところで口を開いた。



「三つ目の説、これがおそらく正しいだろう。『この世界は、地球から遠く離れた別の星』という説だ」



 ジョセフさんの推測はこうだ。


 アネックス・ファンタジアは地球から遠く離れた別の星が舞台になっている。


 資源の採掘のためか、それともこの星に移り住むためか———それは定かではないが、この星への進出は、おそらく世界各国が総力を上げた大プロジェクトだったのだろう。その証拠がヘリコプターの描かれていた国旗だ。


 この星の環境は地球に近いものであったが、地球ほど文明は発展していなかった……とのことだ。



「問題は、我々プレイヤーはこの世界で何をするべきなのか、ということだ」


「普通に考えればこの星を開拓するのでは?」


「それもあるだろう。しかし、開拓中であるのなら地球から来たNPCの開拓者が居ないのはおかしい。それに、破壊されたヘリコプターをそのまま放置しておくだろうか?」



 アーカイブによる侃々諤々の問答が止まらない。話を持ち込んだ私達を置いてけぼりにしないで欲しいのだけど……。



「よし、そろそろ纏めよう」



 もう一度パンッと手を叩いたジョセフさんが、私達を見て仕切り直す。



「プレイヤーに課せられた使命を『この星の開拓』と仮定し、霧隠れの霊廟の攻略を考えると……堕龍を倒すのではなく、堕龍が守っている何かを回収するべきだ」


「なるほど、そもそもクエストの目的を履き違えていた訳か」



 そう呟いたのはMr.Qだ。



「確かに攻撃してもほとんどダメージが出て無かったしね……ギミックが解除できてないってのはあながち間違っていなかったな」



 Mr.Qと一緒に『霧隠れの霊廟』に挑む際、『この挑戦でダメだったら、しばらく挑戦を止めてギミックを調べる』という約束だった。


 でもなぜかプライマルクエストが進行して、その話が頭から飛んでたけどね……。まさかここでギミック解除の可能性が浮上するとは。



「ところで、堕龍が守っているものって何?」


「それは流石に分からないが……簡単には持ち運びできない物だと予想はつく」


「どうして?」


「簡単に持ち運びできるなら、これほど大きいヘリはいらないだろう?」


「確かにそれもそうね……」


「それほど巨大なものなのか、それとも大量に存在するのか……。霧隠れの霊廟の攻略程度がプライマルクエストに連動している以上、プライマルクエストの数だけ『何か』が存在すると考えても良いだろう」


「確かに……よくそんなに気が付くわね」


「これが我々の存在意義だからね。そして、我々からディー・コンセンテスへの要求は———」



 一つ、霧隠れの霊廟に挑む前に、現在進めているプライマルクエストの後編を進行すること。


 二つ、なるべく多くのプライマルクエスト発生者と共に霧隠れの霊廟に挑むこと。


 三つ、堕龍が守っているものを持って帰ること。



 物凄くふんわりしてるけど、こればっかりは仕方がないか。アーカイブの面々が凄まじい洞察力と考察力で攻略を考えてはいるけど、ほぼノーヒントみたいなものだからね。



「それでも根本的な問題が解決してないな。堕龍が守っている何かを持ち帰ることを目的としても、前回も近づいただけで殺されてるからな?」



 そう、それが一番の問題だ。

 別に堕龍と正面切ってバトルするつもりは無いけど、間違いなく堕龍は襲ってくる。


 あれから逃げ回りながらどこにあるかも分からない探し物を見つけ出し、それを持ち帰るとなると……流石に自信は無いかな。



「それの解決法は、おそらくプライマルクエストにあるだろう。後編が始まっているのだろう? 三人とも、ね」


「……よくお分かりで」


「君は自分で発表していたじゃないか」


「あんたがゲームニュースなんて見てないと思ってたからさ」


「我々がアネックス・ファンタジアのニュースを逃すとでも?」


「まぁなんでもいいけどさ……そっちもまだ攻略の目途が立ってないんだ。霧隠れの霊廟にアタックするのはまだまだ先になるがいいか?」


「まぁそれは仕方がないだろう。できればそちらも時々情報をくれると助かるがね」



 と言いつつウィンドゥを開くジョセフさん。これ、フレ登録を要求してるな?

 ……アーカイブほどの巨大クランとの繋がりができるならいいか。


 私のフレンド欄、めちゃめちゃ濃いメンバーだなぁ。



「じゃ、霧隠れの霊廟の攻略法が纏まったということで。次はプライマルクエストの考察いいかしら?」



 そんなことを言いだしたのは、アーカイブのメンバーの一人。ショートボブに丸眼鏡といったいかにも・・・・な感じの女性プレイヤーだ。



「ラウンドナイツは円卓の騎士でしょう? アーサー以外にも騎士は居るだろうし、百鬼夜行は妖怪? カグラ様は一体何者? ホムンクルスとは? クローザーフォレストは何をテーマにしているの? 興味は尽きないわ!!」


「確かに……話を聞く限り、特にその『カグラ様』とやらが色々知ってそうだし、そっちの話も聞かせてもらえますよね?」


「うへぇ……」



 一人が言い出すと他のメンバーも同調し、アーカイブの面々の子供のようにキラキラした目が一斉に私に向く。


 くっ……何て澄んだ瞳を……。



 それから質問の嵐が収まらず、私達が解放されたのは数時間後のことであった。

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