驚愕せよ これが人間の底力じゃあ!
プライマルクエスト後編———『万の鬼が行く逢魔ヶ時』———
挑戦回数…………200回
最早見慣れたコロッセオの中心で、梵天丸さんと対峙する。今回で挑戦回数は200回目。
その頂は未だ遠く。
ダメージは与えられても致命傷には及ばず、全敗のまま迎えた200回目だ。心のどこかで、『これ無理ゲーじゃないかな』と思い始めていたのが正直なところ。
「かかってくるが良い」
「ちょっと待ってて」
待ち構える梵天丸さんを他所に、思考を巡らせる。
『勝利の定義を変える』———あの時にうららちゃんが口走ったその言葉が、どこか引っかかるのだ。
いくら梵天丸さんを倒そうと挑んでも、勝利のチャンスすらなく全て負けている。つまり、
なら正解は?
それが新たな問題だ。
梵天丸さんに勝つことで【妖仙流】アビリティが解放されると思っていた。けど、それが違うとなれば、私はどうすればいい?
戦闘を重ねて認めてもらう?
未だにあしらわれてるだけだから、その線は怪しいでしょ。
カグラ様は『一刻も早く【妖仙流】をものにしてもらう』と言っていた。勝てもせず、どうやって【妖仙流】を獲得する?
……何か間違ってる気がする。
「梵天丸さん。【妖仙流】って何ですか?」
「我々妖怪が扱う、妖気を用いた戦技である」
「それは、どうやって生まれたの?」
「……創始者たるカグラ様が、目にした自然の脅威を体現せしめたと聞く」
「うん……?」
自然の脅威を体現?
地震とか雷とかを自分で起こせたってこと?
そんなことが可能なの?
……できるかも。ゲームの世界だし。
でも、そっか。なんとなく分かったかも。
つまり、私がやるべきことは……。
「お待たせ、梵天丸さん」
ヒュンッと風を斬って『魔蜂之薙刀』を構え直し、梵天丸さんに対峙する。何かしら掴んだ様子の私を見てか、梵天丸さんはニヤリと口角を上げた。
♢♢♢♢
限界まで息を吐きだし、ゆっくりと空気を吸い込む。
頭の血がスゥッと降りていき、周りがスローに見えるほどの集中力を発揮する。いつも通りのルーティンを済ませた私の視界は見違えるほどにクリアになり、世界の全てが色褪せる。
対峙する私と梵天丸さんのとの間、空気が張り詰める。お互いがお互いの出方を伺い、一瞬でも隙を見せた方が負けるであろう緊張した雰囲気が漂う中、それでも———
先手は私だ。
初手、【ワイドスラッシュⅡ】をぶちかます。横薙ぎに振り抜いた『魔蜂之薙刀』から黒紫色を纏ったエフェクトが放たれ、梵天丸さんへと襲いかかる———直後、顔面を狙って放たれた梵天丸さんの突きを、首を捻って回避。
くっ、【ワイドスラッシュⅡ】はそこそこ範囲が広いはずなのに牽制にもならないわねっ!
そのままの勢いで身体を反転させつつ、梵天丸さんと位置を入れ換えるようにして再び向き合い……おっと、もう来てるのね!?
まるで壁にぶつけたスーパーボールの如く、地面を蹴った梵天丸さんが間髪入れずにこちらへと迫る。あまりに早い追撃。だが、その迷いの無さが付け入る隙でもあるのだ。私の選択は———
「秘策その1! 【ファイヤーボール】!」
武術系でもステップ系でもない
アネファンには使用することでアビリティを修得できるアイテムが存在し、その一つが魔法の巻物だ。開けば初心者でも魔法系アビリティを修得できる。
……まぁ、簡単な分威力はお察しだけど。
しかし、重要なのは威力じゃない。
『魔法』というアビリティの性質上、発動は必ず魔法陣を伴う。その魔法陣は、発動後消えるまでにだいたい1秒ほどかかるのだ。
逆に言えば、1秒間は魔法陣に隠れて行動が可能……!
梵天丸さんがバスケットボールほどの大きさの【ファイヤーボール】を弾き、魔法陣を穿つも、すでにそこに私の姿はない。
黒紫色の残像が魔法陣から横へと尾を引く先、梵天丸さんの目が私の姿を捉えるのが早いか、私のアビリティが早いか。
「【
黒紫色のエフェクトを纏った私の
私がしたのは、【ファイヤーボール】を放った直後、魔蜂之薙刀と
【
毒を纏った抜き手が梵天丸さんへと襲いかかり———寸前で首を捻った梵天丸さんの頬を掠めてその後ろへと突き抜けた。
攻撃を空振らせた後隙を突いたのに避けるかね普通……けど、
「掠ったわね?」
ダメージの数値だけを見れば、致命傷どころか無視しても問題ない程度の僅かなもの。しかし、最初の方の全くダメージを与えられないまま負けていた頃と比べれば大躍進だ。
「ぬんっ」
「ひぇっ」
瞬時にその場に屈み、梵天丸さんが振るった棒の下をくぐり抜け———下からの蹴り上げで掴みに来た腕を弾き、横薙ぎの蹴りを【流葉】で受け流し……って、早い早い早いっ!
「くっ……そ……」
攻勢に回った梵天丸さんの連撃を捌いてはいるものの、こちらの攻撃を差し込む余裕はない。
ガキンッ! と音を響かせ、魔蜂之薙刀が弾かれる。それによって晒された私の無防備な横腹を梵天丸さんが見逃すはずもなく、梵天丸さんが握る棒がピクリと反応する。
次の瞬間、空気さえ切り裂くような鋭い棒術が私を襲う———はずであった。
来るはずの攻撃が、来ない。
ちょっ、マジで?
慌てて
魔蜂之薙刀を
まさか、魔蜂之薙刀を弾いたときの感覚の違いでバレた?
私がバックラーを投げ捨てる間に梵天丸さんが出来ることと言えば、せいぜい一歩を踏み込むぐらい。しかし、その一歩が命運を分ける。
ギシッ……と、梵天丸さんに掴まれた
一瞬よりもさらに短い刹那の空白。
頭の中を様々な考えが巡る。
上下が反転した景色が高速で廻る中、
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