蒼穹覆う黒の迦楼羅天
———私は勘違いしていたようだ。
カグラ様から“妖仙流”を習得しろと言われて梵天丸さんとの戦闘を始め……梵天丸さんに勝てれば【妖仙流】アビリティが手に入るのだと思っていた。
しかし、【妖仙流】の本質は『妖気によって自然の現象を再現した技』だという。自然現象を操れるのかという疑問はあるけど……重要なのは『再現する』というところ。
つまり、私は最初から妖仙流を教わるのではなく、自分なりに妖気を使った技を作り出せば良かったのだ。
まぁ、それを思い付いていきなり出来るわけもないけど……見様見真似ぐらいなら可能——
掴みから放たれる神速の投げ技、【小夜嵐】。
その投げに合わせて【パ・ドゥ・ポワソン】でジャンプし、私の体勢が上下逆になったところで【パ・ドゥ・シャ】による
たとえ地面に脚が付いていなくても、慣性を無視した回転力を生み出すアビリティである。
【パ・ドゥ・シュヴァル】に【パ・ドゥ・ヴァルス】の回転を合わせてさらに増した勢いで下に引っ張られた梵天丸さんは、踏ん張る暇さえなく……回転によって脚から着地した私の代わりに、背中から地面へと叩きつけられた。
「完全再現、“妖仙流”【小夜嵐】!」
反射で動いた私の身体に、ようやく脳が追い付いてきた。けど、アドレナリンがドバドバ出てる私の脳は正常な判断ができない。
とりあえずテンションのなすがままに技名を叫んでみたけど……妖気を大量に消費したことによる真紅のエフェクトと相まって、今の私はカッコいいと思う。多分。
「ククク……はははははっ!」
ゆっくりと身体を起こした梵天丸さんは、特にダメージを受けた様子もなく……豪快な大笑いをあげた。
まさか、まだ続行?
今の一瞬のやり取りだけで、もう私の体力無いんだけど?
HPがではなく、脳が疲れたというか……VRゲームのプレイ中は脳がフル稼働してるからね。6時間連続で数学の授業受けたみたいな疲労感だ。
「何かしでかす気はしていたが、よもや我輩の技を真似されるとは思わなんだ!」
「だから言ったじゃろ? カローナも結構やると」
「!!」
カグラ様?
もしかして見てた?
「いやはや、愉快愉快。地に背をつかされるなど、久方ぶりなのである」
「ならばどうじゃ? お主のお眼鏡には叶ったかの?」
「うむ、文句はあるまい」
「であれば……そうじゃな、何がいいものか……」
私そっちのけで話を進めるカグラ様と梵天丸さんの口ぶりからすると、どうやら私は試されていたらしい。で、今回の戦いでようやく合格したようだ。
うーん……ぶっちゃけ、私自身もどうやって梵天丸さんに勝ったのか良く分かってないけどいいのかな。
【小夜嵐】を真似できる自信はあったけど、それは極限の集中力とテンションがあってからであって……。あの時のモーションが一瞬過ぎて、もう一度同じことをしろと言われたら無理かも知れない。
まぁでもそんなこと言って梵天丸さんの気が変わったら嫌だし、言わぬが仏ってやつだ。
「よし、決めた! カローナには【嵐】と【雪】を授けよう」
「……二つもいいのであるか?」
「構わんじゃろ。まだまだ未熟とは言え、【山嵐】ぐらいは出来ておったし、元来は棒術使いなのじゃから。ちょっとしたサービスじゃ」
『アビリティ 【妖仙流柔術】 を習得しました』
『アビリティ 【棒術】 がアビリティ 【妖仙流棒術】 に進化しました』
『ユニーク
『称号: 《名誉妖怪》 を獲得しました』
「!!」
久々のゲームアナウンスは、あらゆるプレイヤーも羨むユニークアビリティと隠し
【妖仙流柔術・山嵐】
“妖仙”の名の下に顕現せし窮極の【嵐】。妖仙の
【妖仙流棒術・細雪】
“妖仙”の名の下に顕現せし窮極の【雪】。妖仙の
「〝妖仙流〝は己の願いをこそ成就する。お主は其に何を望む?」
「私の望み……そりゃあ、とりあえず堕龍をぶっ飛ばして、この世界の攻略でしょ。早速行ってきま———」
「まぁ待つが良い」
「すっ!?」
首掴むのはやめてぇ?
「積み上げた幾百の経験は修練とともに花開く———」
「……えっと、つまり?」
「……レベルアップしてから向かうが良い」
あぁ、そういうことなのね。
すぐにでも霧隠れの霊廟に行きたいところだけど……まぁ確かにここしばらくレベルアップしてないし、色々知ってそうなカグラ様が言うならそうしてみようかな。
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