普通の配信って久しぶりだよね

 「皆さんこんにちは、カローナです! 今日もやっていきますよー!」


 ・待ってました!

 ●オルゾ・イツモ:[¥5,000] ログインボーナス!

 ・リア友に勝手に配信されて以来かな



「あれは事故というか事件というか……予定して配信したのは結構久しぶりかな? すみません、最近プライマルクエストにかかりっきりでして……」


 ・謝るフリしてしれっとプライマル自慢するカローナ様

 ・可愛いから許すけど



「自慢ではないです! プライマルクエストだけで200回ぐらい死んでますからね!?」


 ・200回は草

 ・200!?

 ・あの化け物PSのカナっちが?

 ・エグい難易度……



「まぁ、それだけ挑戦して、ようやく進んだって感じです。というわけで、今日は【ユピテル】周辺を探索しながら、新しい職業ジョブとアビリティの確認をしていきますね!」


 ●ロッケン:[¥7,000] おめでとう!

 ・……新しいジョブって言った?

 ・普通のジョブだったらこんなに勿体ぶらない、つまり?

 ・ユニークジョブってことですね分かります



「まぁそこは楽しみにしてもらって」



 今日の装備は『フルールド』シリーズで固めている。いつも酷使してる『ヴィクトリアン・スイーパー』がメンテナンス中だし、ヴァリュアシオンにダイハード・メガランチュラの素材をぶち込んで強化した短剣、『ヴィルトゥオーソ』を試してみるつもりだ。



 【ユピテル】の街から出て10分程度の場所、周囲には次第に生い茂る木々が現れ、鬱蒼とした森にたどり着いた。


 【カルディネ湖】の周囲を囲むように緑を広げるそこは、【アドラステア原生林】。


 遥か昔から姿を変えずに生命を育むその場所には、様々な動物をモチーフとし、アネファン運営によって魔改造されたモンスターが大量に存在している。


 平均レベルは高いが同時に経験値効率もいいため、レベル上げにはうってつけの場所だ。



「それにしてもこのゲーム、モンスターの種類って何種類いるのかしら。【極彩色の大樹海】にも結構いたけど、ここってさらにたくさんいるのよね?」


 ・アーカイブが図鑑作ってたよな

 ・今見つかってるので1000超えてたっけ

 ・正直全エリアを探索できてるわけじゃないからモンスターの数分からんのだよね



「1000って、そんなに居るんですね……ん?」



 私の耳が、何者かの足音を捉える。

 ミシミシと、太い木材が軋む音ようなが聞こえるあたり、相当な重量を持つモンスターなのだろう。


 振り返るとそこには、大きな牙をこちらに向け、臨戦態勢のイノシシのようなモンスターが私に狙いを定めていた。体高は私の目線ぐらいの巨体。STRも高そうだ。



——————————————————

Name:メガブルモス

Lv:53

——————————————————



「結構レベル高いですね……私と同じぐらいなんだけど?」


 ・アドラステア原生林はこんなもんだよ

 ・こいつ後先考えずに突っ込んでくるから気を付けてね



「ブルルルルルルッ!」



 痺れを切らしたメガブルモスが足を踏み鳴らし、私に向かって突進を繰り出す。

 そんなメガブルモスの姿を正眼に捉え、私の脚からは黄緑色のエフェクトが弾ける。



「【クイックスカッフル】!」


 ・速っww

 ・ぶつかっ……え?

 ・み、見えっ



 地面を蹴った私は一瞬でメガブルモスの横を通り抜け、後方へと着地する。

 弾けるように溢れたダメージエフェクトは、メガブルモスの右目から。


 ハードル走のようにメガブルモスの牙を跨ぎ、すれ違いざまに右目を切り裂いて通り抜けたのだ。


 ちょっとスカートが捲り上がったけど、アネファンのシステムで下着は見えないようになってるから安心だ。



「ブギィィィィィィィッ!」


「毛皮はちょっと硬いけど、さすがはヘルメスさん作の武器……結構簡単に斬れたわね」



 ・ヘルメスの武器強すぎぃ……

 ・素材何使ってるのそれ



「これですか? もともとホウオウカマキリの素材を使って作った『ヴァリュアシオン』に、ダイハード・メガランチュラの爪脚を突っ込んで一段階パワーアップさせたのよ。もちろん他にも……おっと」



 再び突っ込んできたメガブルモスを、身を翻して躱し、今度は鼻先から頬にかけてをザックリと切り裂いた。


 また突進……というか、それぐらいしか攻撃パターンがないのか。

 大きくて硬そうな牙があるから、あとは叩きつけとか突き上げとか……まぁ、正面からの直線的な攻撃しかなさそうだ。



「なんかさ、アビリティなしでいける気がしてきた」


 ・えっ



        ♢♢♢♢



 それから数十分後、全身を切り刻まれたメガブルモスのHPがようやく尽き、ドロップアイテムを残して消えていった。



「ふぅ……っし! 有言実行、どうよ!」


 ・ひぇぇ……

 ・自分のPSだけで戦うの怖くないかなぁ

 ・まぁメガブルモスと相性よかったし

 ●プレーンかき氷:[¥5,000] すげぇ……



「あ、プレーンかき氷さん、スパチャありがとうございます! まぁちょっと怖いですけど、いける自信ありましたしね」


 ・そのポジティブさを見習いたい

 ・そりゃこれだけスペック高かったら自信もつくやろなぁ



「ふふ、皆さんも自分に自信を持った方がいいですよ! チャレンジしてみようって気持ちになりますし、できることも増えますしね。

がんばれっ♡ がんばれっ♡」


 ●オルゾ・イツモ:[¥7,000] ありがとうございます! ありがとうございます!

 ●ロッケン:[¥7,000] 漲ってきたぁぁ!

 ●チョロリスト:[¥7,000] この激励で1ヶ月は生きていけます

 ・まぶしい笑顔で『がんばれ♡』の破壊力はヤバい

 ・語りかけるような応援……耳が幸せ過ぎる……

 ・切り抜き不可避

 ・捗る

 ・↑お前キモイぞ



 しかしまぁ、まだレベルアップはしなかったみたいだ。

 結構強かったし、それなりの経験値があったと思うんだけどなぁ。



「まだレベルアップしてないので、次の獲物を探しますね!」




 それからしばらく辺りを探索し、でかいネズミだとか狼だとかを倒していると———



「「「——ぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」」」


「えっ、何?」



 突然、プレイヤーのものと思われる数人の叫び声と、その後ろを追う大量のモンスター・・・・・・・・の鳴き声が迫ってきた。

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